砂漠の街に蔓延る影
カレーダルトは年間気温22度。エジプトのカイロとほぼ同じです。
結局その後も悶々とした状態は続き、満足な睡眠をとることができないまま朝が来た。
上機嫌で朝食を作るジャスミンとは裏腹に、俺は睡眠不足から来る疲れでグロッキーな状態…。
まぁ、変に彼女を意識して勝手に悶々としていた自分が悪いのだが。
「マサトシ、朝ごはんだぞ。」
エプロン姿のジャスミンが皿いっぱいの朝ご飯を運んでくる。そういえば彼女が料理してるところを見るのは初めてだ。家事は爺やや使用人に任せきりだったからな…。
「ありがとう。いただきます。」
出された料理を片っ端から食べていく。昨日は街に着いた瞬間倒れてしまい、夕ご飯を食べる暇もなかった。空腹の俺にとってこの量はありがたい。
「美味いか?料理は初めてなのだが…。」
…普通だ。だけど、初めて作ったにしては上出来か。何より女性に作ってもらったのが嬉しい。
こんな生活…元の世界では絶対にありえなかった。
「…美味い!ジャスミン、料理の才能あるよ。」
「本当か︎!?」
食べることも忘れ、嬉しさのあまり跳ね回るジャスミン。こういう何気ない日常がすごく幸せで、ずっと続いて欲しい。フリッツがいれば…もっと楽しかっただろう。
「フリッツ…今ごろ何してんのかな…?」
小さな声で独り言のように呟く。彼女には聞こえていなかったようだ。
でもきっと思うことは同じ。必ずあいつを連れ戻す…!
「マサトシ、デザートもあるぞ。」
今度は笑顔で黒いゼリー状の食べ物?を運んでくる。
見た目はアレだが、まぁ異世界には俺が知らないだけでそういう食べ物もあるのだろう。
「はい、召し上がれ。」
スプーンで俺の口元までデザートを運ぶジャスミン。他意はないのだろうが、なんか悶々とする。
こうして近くで見るとやっぱり美人だと思う。
「どうだ?自信作なのだが。」
あっ……これは普通に不味いわ…。
* * *
朝から中々刺激的な体験をした後、俺たちはカレーダルトの街を散策する。
俺達の目的地は冒険家ギルド。多くの冒険者が登録している重要な施設だ。
ここなら異世界人の情報も得られるだろう。
「…?」
しかし、ギルドについた俺たちはある違和感を感じた。
「人がいない…。」
守衛も、出入りする人もいない。噂に聞いていたギルドとは様子が全然違う。
念のため互いに周囲を警戒しながら、入り口に近づいていく。
「行くぞ…!」
ジャスミンが扉に手をかけ、勢いよく開ける。
建物内に荒らされた形跡はない。しかし、どこか物々しい雰囲気が漂っている。
「御用でしょうか…?」
奥から出てきたのは俺と同い年ぐらいの小柄な男。それと数人の黒服。
どうみてもギルドって感じの雰囲気じゃない。
「ギルドに用があってきたのだが…。」
男は首を傾げ、不思議そうにこちらを見る。
「失礼ですがあなた方、以前ギルドに来たことは?」
「いや…ないが。」
「そうですか…。ここは少し前に我々ラヴェリアファミリーが買い取りました。お引き取りを。」
俺達は半ば強制的に黒服たちに連れ出される。
もう少し詳しく話を聞きたかったが余計な争いは避けるに越したことはない。ここは大人しく出直そう。
* * *
「ラヴェリアファミリーか…。一体何だったんだ?」
納得いかないまま街をさまよう。ジャスミンは何か考え事をしているようだった。
しかし奴ら、あんまり普通の人って感じがしなかったな。元の世界で言うマフィアみたいな組織だろうか。
「もう少し…情報がいるな。マサトシ、この辺一帯で聞き込みをしてみよう。」
まぁ、そうなるだろうな。俺も奴らが何者なのかは知りたかった。
しかし、あまり一人での聞き込みはしたくない。というのも未だに見知らぬ人に話しかけるのは躊躇うからだ。それも王国の人間ならともかく…他国の人間と会話なんて…。
「では、一時間後に再びこの場所で落ち合おう。」
俺の返事を待たないうちに彼女は歩いて行ってしまった。
うーん…仕方ない。あまり自信はないが…あの頃の自分との変化を比べるチャンスだ。
この世界で培ったコミュ力で、情報収集をこなして見せる!
少しの間ほのぼの&情報収集パートが続くかも。戦いはお預けです。
よって負傷者や死人も出ません。




