昨日より少しだけ大変な今日
主人公によって葛藤に割く時間が大きく異なります。4章は葛藤少なめ。
これで良し。長かった王都生活もひとまず終わりだ。気がつけば俺がこの世界に来てから数年が経っていた。そんな王都とも一時お別れだ。
「忘れ物はありませぬか?」
爺や、それに多くの使用人が朝は役にもかかわらず見送りに来てくれた。まぁ、ほとんどはジャスミンの見送りだと思うが。
「マサトシ、ジャスミン様を頼みましたよ。」
爺やの言葉に、俺は力強く頷く。
「それと…必ず帰ってきなさい。この国にはあなたの力を必要とするものが多くいる。私も…その一人です。」
別れの時になって初めて、自分が愛されていたことを意識する。多くの使用人からも似たような励ましの言葉を貰い、気がつけば俺は泣いていた。
* * *
結局俺たちが出発したのは予定していたよりもずっと遅く。俺もジャスミンも、中々王都からの一歩を踏み出せなかった。
「しかし…こうして王都から出ると思い出すな…お前と初めて会った時を…。」
一人で思い出に浸る俺を他所にジャスミンは王都の方を眺めたままゆっくりと進んでいく。
「おいおい、大丈夫かこの調子で…。」
そう言いかけたところで俺たちは気配を感じ、振り向く。木々の間から無数の目がこちらを覗いている。
「ジャスミン!構えろ!来るぞ。」
現れたのはオークの群れ。本当に…あの日と全く同じだ。今のジャスミンは戦力になるだろうか。
俺が剣の柄にてをかけようとしたところでジャスミンがそれを止める。
「お、おい…。」
戸惑う俺を置いて、ジャスミンは素早く剣を抜きオークに斬りかかる。その動きはあの日とは似て非なるものであった。
あっという間に斬り伏せられるオーク達。
ジャスミンは剣を収め、俺に近づいてくる。
「あの日との決別だ…もう迷いながら剣を振るうことはしない。」
そう言い、両手で自分の頬を叩く彼女の様子に俺は呆気に取られていた。
「心配かけたな、雅敏。行こうか。」
その表情に迷いはない。彼女もあの日以来何かが変わったのだろうか。もし俺との出会いで良い方向に変わってくれたのなら嬉しい。
「頼もしくなったなぁ…。」
何気なく呟いた言葉だったが、聞かれていたようだ。ジャスミン背中を小突かれる。
あの日と同じ、でも少しだけ違う今日。
茜色の空、荒れた大地、モンスターも環境に適応できるものだけが残った…。
だけどその変化に置いていかれる訳にはいかない。俺も、ジャスミンも強くなった。そして、お互い信頼しあえる関係にもなった。俺はそのことがすごく嬉しかった。
この先何が起こるかは分からない。だけど…俺は取り戻してみせる。彼女と共に、あの日と同じ平和な日々を。
そろそろ無双しろ。




