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裏野ハイツ  作者: 十六夜 八雲
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夜遊び

「グラドル、動かなくなったな。寝たか?


もうすぐ1時か・・・もうちょいリアクション欲しいな。」


ワゴンのなかからモニターで見ていたが、布団を敷いて中に入ったあと、ちょっと会話して動かなくなってしまった。

霊に取憑かれて金縛りになっていたとしても、もう少しリアクションが欲しい。


「先生、ちょっと様子見てきてもらえませんか?

起こしてもかまわないですし、もし何か憑いてたらさっきみたいなのお願いしたいんですが・・・」


「うむ、分かりました。様子を見てきましょう。」


どうもこの先生頼りないな。


「おい、お前もハンディ持って行け。」


「は~い、了解っす。」


モニターに目を戻すと、ダルマがグラドルの返事がないのが不安になり、恐る恐る様子を探っているところだった。




「まさみはん・・・まさみは~ん!

もう寝たんかいな?さっきまで話してたのに、ちょっと急じゃないですか~?」


小声で探るように話しかけるが反応がない。

首まですっぽりと布団に入り、顔は玄関側を向いていて髪の毛しか見えない。


四つん這いの姿勢で、恐る恐る近づき、肩をゆすろうと手を伸ばす・・・


“ガチャ”


静かな室内に、突然玄関が開く音が響く。


「うわぁぁぁ!!!・・・・って、先生とスタッフさんやないですか!

驚かさんといて~!まじで~!」


立ち上がって、玄関まで迎えに行く。


「ちょっとまさみさんが動かなくなったんで、念のために先生と確認に。」


「そうなんよ、かなわんで~。布団に入ったらす~ぐあんな感じで・・・。」


振り返って、懐中電灯の光でグラドルが寝ていた布団を照らすと、そこには誰もいなかった。


「あ、あれ?さっきまでそこで寝てたはずや・・・。」


「え?おかしーなー?僕ちょっと、モニター見てきます。

ディレクターにも相談しないと。ダルマックスさん、これでちょっと撮影お願いしていいですか?」


アシスタントの斉藤は、そういうとハンディカメラをダルマックスに渡し、さっさと部屋を出て行っていしまった。


部屋には霊能者とダルマックス、布団から消えたグラドルが残された。



ハイツの外、ワゴン車の前でアシスタントの斉藤は身震いをして緊張をといた。


“やばいやばい。入る前から、相当やばい気配してるし・・・”


203号室のドアの前からでもわかる異常な気配と寒気に、何かがある事を確信していた。


やや強引だったが、逃げる口実はなんでもいい。ディレクターに怒られたとしても、今あの部屋にいるのはまずいと直感的に感じていた。


早いところワゴンに入って、中の様子を伺ったほうがよさそうだ。

心霊現象が撮れそうなことは間違いないと思われた。



「せ、先生・・・なんか感じまっか?」


「う、うむ。奥の部屋から、霊気が漂ってきている。」


その場の思い付きかどうかは分からないが、今回は正解のようだ。

奥の部屋から女性の声が聞こえてきた・・・。


『だ~る~ま~さ~ん~が、こ~ろ~ん~だ・・・』


続けて、子供の笑い声も聞こえてくる。


「え?なんやて? まさみちゃんか?」


奥の部屋に行こうとするが、体が動かない。

ダルマと、霊能者の体から汗が噴き出る。


『だ~る~ま~さ~ん~が・・・』


またその声が聞こえてくると、体が動いた。

ダルマは奥の部屋に、霊能者は玄関に体を向ける。


『こ~ろ~ん~だ・・・』


また、体が動かなくなる。


「げ、玄関が開かないぞ!!」


かすれた声で霊能者が訴えてくる。

声はかろうじて出せるようだ。


「先生!何とかしてください!あんたプロでっしゃろ!」


ついカッとなったが、声はかすれまくっていた。


『だ~る~ま~さ~ん~が・・・』


また声がする。ダルマは奥の部屋の入口まで何とかたどり着いた。

部屋の中はまだ見えない。


『こ~ろ~ん~だ。』


霊能者はガチャガチャとドアを開けようとしたが、どうやっても開かない。

肩を小さな手に叩かれたような気がして、思わず振り返る。


『う~ごいた・・・』


「た、助けてくれ!!!」


そう聞こえた瞬間、霊能者の足が何かに強く引っ張られあっという間に奥の部屋に引きづり込まれてしまった。


『ふふふ・・・』


子供の小さな笑い声が部屋に響く。


残されたダルマの体は硬直し、全身から汗が噴き出る。

先に進むのはヤバすぎる。しかし、逃げようとすれば、もっとひどい事になるだろう。


『だ~る~ま~さ~ん~が・・・』


また声が聞こえてくる。

もう前に進むしかない。これが“だるまさんがころんだ“のルール通りなら、声の主にタッチすれば解放されるはずだ。


『こ~ろ~ん~だ。』


奥の部屋に1歩足を踏み入れた。


グラドルのまさみらしき女性が入り口と反対の部屋の角に、こちらを向いて立っている。

長い髪が前に垂れていて、顔は見えない。


彼女の足元には、気絶した霊能者が倒れていた。

足があらぬ方向に向いている。


全身の毛穴が開き、すさまじい寒気がする。

しかし、決して動いてはいけない。


ゆっくりと、まさみが壁側に顏を向ける。


『だ~る~ま~さ~ん~が、こ~ろ~ん~だ・・・』


部屋の真ん中まで来た。手を伸ばせばもう少しで届く距離だが、まさみはまたゆっくりとこちらを振り返る。


目は見えないが、きっと瞬きもせずジッと自分を見ているのだろう。


つま先の感覚がない。

前に伸ばしていた手もしびれてきた。なんで俺は手を下に降ろさなかったんだ!


長い一瞬がすぎ、またゆっくりと壁側に顏を向ける。


『だ~る~ま~さ~ん~が・・・』


もう手は届く距離だ。


“さわっていいのか?本当に触るのが正解なのか?”


まさみの肩までのばした手を、心の迷いが止める。



『ころんだ!』



急にテンポが速くなり、いきなりこちらを振り向いた。長い髪が頬に当たる。


「うぁぁぁ!!!!」


思わず、うしろに転んでしまった。



『う~ごいた。』


背後から子供の声と、笑い声が聞こえてきた・・・。


『だるまさんて・・・手と足が無いんだよね?』


何かに強い力で両腕と両足を掴まれる。


自分の腕と足が1本ずつ引き千切られる痛みと恐怖で気を失った。





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