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裏野ハイツ  作者: 十六夜 八雲
5/7

でかい顔

「もうちょい左・・・ハイOK!鏡も、押し入れもバッチリ入ってる。じゃ、撮影再開するぞ!

スタンバイよろしく!」


ワゴンの中で指示を出す。


一通りの映像と、芸人とアシスタントからのエピソードを合わせれば、かなりいい作品ができそうだ。

眠気は吹っ飛び、どう構成するか?もう少し派手目な映像が撮れないかなどと考え始めた。


霊能者先生と、アシスタントがワゴンに戻ってくる。


「先生ありがとうございました。お前もご苦労さん!軽くハンディの映像も見たが、いい感じじゃないか。」


「そうっすか?ありがとうございます!」


裏野ハイツでの撮影企画は、極めて順調と言えた。


時間はもうすぐ0時になる。


グラドルがどうしてもハイツのトイレは嫌だというので、カメラの再セッティング中に、近くのコンビニにダルマと霊能者先生と3人で行ってもらった。


それがいい気分転換にもなったのだろう、ダルマも復活して、家のきしみに敏感に反応するなど、いい感じのヘタレぶりを出してくれている。


グラドルはちょっと疲れたのか、テンションが下がり気味で押し入れの方を気にしているが、何かあればお祓いの前フリになる。


全てがいい感じで回っている。裏野ハイツ大当たりだ。




誰かの視線を感じる。


ダルマさんは、復活してまた泣き言を言い始めたが、お祓い前の落ち込みかたとは全く違う。

今のが演技で、さっきのが本当だったんだろう。


“ここはマジでヤバいかもしれない・・・“

そう思うきっかけになったのは、さっきのアシスタントの行動だった。


アシスタントにつられて押し入れの方を見た。

押し入れの戸の隙間の奥で、何かが動いたのが見えた。

真っ暗で、何も見えないはずなのに・・・・だ。


ダルマさんの本気の落ち込み方と、押し入れの中の影・・・。


出来るだけ、洗面所と押し入れから離れようと思うが、この奥の部屋から出るには、押し入れ側にあるガラスの引き戸からダイニングに出なければならない。


「そろそろ、布団ひこうか・・・。」


ダルマさんが予定通りの時刻に布団の準備を始めた。


心霊動画100本も終わり、奥の部屋とダイニングで一人づつ布団をひいて寝る段取りになっている。

私が奥の部屋で、ダルマさんがダイニングで寝る予定だ。


「ダルマさん・・・場所変わりません?」


「なんで~?なんか感じるん? なんかあるんやったら正直に言ってや~!」


「私フローリングで寝るの慣れてるし、広いところの方が安心して寝れるんです。」


ダルマさんは、何かのフリと思ったらしい。


「あ!わかった!・・・俺残して逃げるつもりやろ!」


「そんなことしません!・・・あ!ダルマさんが逃げるつもりだったんでしょ!」



そんなやりとりを5分程度した後、結局奥の部屋がダルマに、ダイニングがグラドルに決まったようだ。


「いいね~。」


笑いと恐怖の緊張感。いいバランスの映像が順調に撮れている。




「ダルマさん、いますよね?」


「ああ、おるで!俺より先に寝んといてや!」


布団に入るが全く眠れない。


ダイニング側になったはいいが、やはり押し入れの隙間から見えた影が気になる。

ダルマが怖いからと、奥の部屋とを仕切る引き戸も開けっ放しだ。


寝てしまった方がいいのか?でもここで寝るのも怖い。


その時、押し入れの方から“コトン”と小さな音がした。


「きゃ!」


「なんやねん!なんやねん!」


「今“コトン”って音しませんでした?」


「やめて~な~、そんなん聞こえんかったで~。」


泣きそうな声でダルマがクレームをつけてくる。


また、“コトン”という音がする。ダルマさんがいるあたりからだ・・・。ダルマは何も言ってこない。

恐怖で声が出なくなる。


“――コトン――”


「ひっ!」


今度はダイニングの壁、自分の背後の方からだ・・・


動いている?部屋の外を回っている?

部屋の気温が下がった気がする。


“コトン”今度は玄関のところで音がする。鍵は閉まっているはずだ。誰も入ってこれないはずだと自分に言い聞かせる。


玄関の向こう側にたしかに何かの気配がある。


いや、居る。


外の気配が、玄関からキッチンの方に移動していくのがわかる。

キッチンには曇りガラスの窓があった。


気配に合わせて自分の顔も窓の方に動いていく。まばたきも出来ない。



"ドン!!"



という大きな音とともに、キッチンの窓に何かがぶつかってきた!


「!!!」


悲鳴にならない悲鳴を上げ、私は意識を失った。


キッチンの曇りガラスには、窓枠いっぱいに、片目だけ恨めしそうに大きく見開いた、血まみれのでかい女の顔がへばりついていた・・・・





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