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それは、冬休みのある日の午後のこと。
小雨はこたつに足をつっこんで、大好きなみかんを食べていました。
小雨は、黒いかみを、こしの辺りまで伸ばした、食いしんぼうな女の子です。
そして、瞬という名前の、背の小さな男の子が、小雨といっしょにこたつを囲んでいました。
二人はとても仲良しで、いつもいっしょにあそんでいるのでした。
その日、二人は、瞬の家のこたつにあたって、みかんを食べながら外のけしきをながめていました。
外はいちめんにまっ白い粉雪がつもって、わたあめみたいにふわふわしています。
家の前には、二人がいっしょに作った小さな雪だるまが、しゃんと立っていました。二人にとっては、小学校に上がって初めてすごすお正月。ふたりで雪だるまを作ったり、かるたをしたり、雪合戦をしたりして、毎日たのしくあそんでいました。
「ねえ、瞬」
「なあに? 小雨ちゃん」
「みかんおいしいね」
「おいしいけど、小雨ちゃん、ちょっと食べすぎじゃない?」
「だっておいしいんだもん」
そのみかんは、これまでに食べたどのみかんよりもおいしくて、小雨はついつい食べすぎてしまいました。
小雨はみかんが大好きでした。小さくて、まん丸で、そばかすみたいなつぶつぶがあって、あたまにちょこんと、みどりのぼうしをのせている、かわいいみかん。
よーくもんで口にふくむと、甘ずっぱい味が口の中いっぱいにひろがって、小雨はいつもしあわせなきもちになるのでした。
「ねえねえ、瞬、このみかんはどこからきたのかな?」
小雨は、このおいしいみかんのことをもっと知りたくなりました。
「みかん……? ふくろにはいってたよ」
「そういうことじゃなくて……そのふくろはどこからきたの?」
「ええ……それは、おかあさんにきかなきゃ、わかんないや」
小雨は、台所で洗いものをしていた瞬のおかあさんにききに行きました。瞬のおかあさんは、かみが短くて、いつも明るくげんきな人でした。
「瞬のおかあさん、あのみかんはどこからきたの?」
「みかん……?」
瞬のお母さんは、ゆっくりと小雨のほうをふりかえって、
「ああ、あれね……すぐそこのコンビニで買ってきたのよ。どこで作ったみかんだったかしら……もう、ふくろも捨てちゃったから……」
小雨の家は瞬の家のすぐ向かいだったので、小雨もそのコンビニのことは知っていました。
「お店の人にきいてみないと、わからないわね……」
「行ってみてもいいですか?」
瞬のお母さんは、少し考えているようすでしたが、すぐに笑ってこたえました。
「まあ、すぐそこだから、いいわよ。気を付けてね……かぜをひかないように、ちゃんと上着をきて行きなさいね。瞬もいっしょにいくの?」
気がつくと、小雨のうしろに瞬も立っています。瞬も、小雨と同じようにうなずきました。
「じゃあ小雨ちゃん、瞬をよろしくね」
小雨と瞬は、すぐにジャンパーをきて、ブーツをはいて、しっかりときこんでから、なかよく手をつないで外にでたのです。