無職の男と、黄金の鯉の話
二ートの男と鯉との話です。
あるところに、貧しい若者がおりました。勤めていた会社が突然倒産し、その後の就活もうまくいかず、恋人とも別れてしまいました。
同い年くらいの人間が通勤に急ぐ平日の午前、彼は市民公園のベンチに腰かけ、目の前の大きな池をぼんやり眺めていました。
その日は黄金の秋に相応しく、絶好の良い天気でした。紅葉した木々、鳥の囀りー。今のこの状況さえなければ、彼はこの天候を大いに楽しんだことでしょう。
『みながあくせく働いているというのに、僕は何をやっているのだろう。』
彼は首をガクリと項垂れました。
焦りと、言い知れぬ不安で、自然とため息も出ました。
と、その時、目の前の池で、ポチャリという音がしました。ふと彼が頭を上げると、そこに、一匹の金色の鯉が、水中からちんまりと顔を覗かせていました。
「うわっ」
彼は後ろに仰け反りました。鯉の方も頭をびくっとさせました。
「そんなに驚かないでくれよ、僕はしがない鯉なのですから」
「うわっ鯉が、しゃべった..」
「そうさ、僕は話せる鯉なのさ」
彼は、とうとう自分の気がおかしくなったと思いました。
鯉は首を少し傾げました。
「ははーん。さてはお前さん、何か悩みでもあるのかい?」
「いや、別に」
彼は、つい強がってしまいました。しかし久しぶりに何かと話をしたせいか、涙がハラハラとこぼれました。
「泣かないでくれよ、お前さん、何か悩みがあるんだろ。それを3回心の中で念じておくれ」
彼は、この展開に、はっとしました。もし、目の前の現実が本当なら、金色の鯉=神の使いか・・・
「念じたらどうするんだい?」
期待で一気に込み上げる胸を抑え、彼は尋ねてみました。
「当ててやるよ」
鯉は、口の端を、腹が立つほど上げました。
紛れもない現実でした。