記憶にございません
「あなた記憶がないの?」
手で頬を押さえ口をOに開きペリーナは声を裏返した。
「真に受けるなよ、冗談に決まってるだろ」
ジェイクは本気にしていない。
「いやいや、マジで。本物の、ここはどこ?私は誰?状態だよ」
「マジ?」
「神に誓ってマジだ」
本人(神)にも会ったことあるし、記憶がないのは保証付きだぜ。
「頭をひどくぶつけたとか?」
「変な茸でも拾い食いしたのかしら」
口を手で隠しながら二人で喋ってるけど声がでかいから丸聞こえだ。
「成仏する手前まで逝って帰ってきたんだよ。そのせいで記憶がないんだ」
実際は完全に死んだけどな。
「これってアレかしら」
「ヤバい宗教系のヒト?」
「そうそう」
「怪我の手当てもしたし、元気そうだからもういいんじゃねえか?」
「そうね!」
何やら結論が出たらしい、二人は笑顔でこちらに振り向く。
失敬な会話は聞こえてたけど、あいつらの立場なら俺でもそう思うだろうな。
でもこの世界で出来た初めての縁だ。
多少心細い人選な気はするが。
「あたし達、狩の途中なの!」
「そうゆう訳で急いでるから」
「記憶が戻ると良いわね」
「怪我も良くなるといいな」
「「じゃあ!」」
「待て待て!」
そろって背を向けた二人の肩を掴まえる。
せっかく掴んだ藁は簡単には放さないぞ!
「「宗教は間に合ってます!」」
「そうじゃねえ!」
そこは一回切り捨ててくれ。
「マジで記憶がないんだよ。水も食糧もないし(芋虫はあるけど)、せめて近くの人里まで連れてってくれ」
ナビはあるけどこの際だ、また一人でゴブリンに出会っても困るしな。
「でもあたし達、狩の途中……」
「あのデカイ鹿ならどっか行っちまったよ!」
「ペリーナ、諦めよう」
ジェイクは観念したようだ。
「はあ、仕方ないわね。街に行くまでの付き合いだからね!」
他人を強調するなよ。
「だから、宗教関係者じゃねえよ!道中で通貨とか冒険者のこととか教えてくれ」
「「え~~」」
このあと何とか誤解を解き旅の道連れと情報源を確保する事に成功した。
彼らの言う街に向かうことになったのだが、辺りにはゴブリンの死体が転がっている。
どうしよう。
「このゴブリンはほっといていいのか?」
「ろくな物持ってないから捨てとけよ」
「こんな所を4匹でうろつくなんて、群からはぐれた奴等よ。相手をするのもそんだわ」
芋虫は美味しく頂きましたが。
「ギルドに討伐証明部位とか持ってかないの?」
ゴブリンなら耳とか、基本だろ?
「なにそれ!あんたも殺した相手の耳でネックレス作る殺人狂かなんかなの?やっぱり邪教の信者でしょ」
ペリーナが見るに耐えないモノでも見てしまったように顔をしかめる。
「いやいや、こいつら盗賊だし。討伐依頼とか出てないのかなっておもったんだよ」
ゴブリンの討伐は無いみたいだな。
「ゴブリンでしょ、コイツらに一般人も盗賊もないわよ。言葉も通じない野蛮な種族だし」
「そういやあんた、コイツらをカマキリ盗賊団とか呼んでなかったか?」
「そうなの?ゴブリンの言葉が解るなんてやっぱり邪教……」
ヤバい、ゴブリン語は話せると異端視されるな。眼鏡さんゴブリン語をOFF!
「気のせい!聞き違いだろ、ゴブリンの言葉なんて解るわけないじゃんよ」
こんなとこ立ち去ろう。
「早く街に行こうぜ!」
俺は彼らを促して歩き始めた。
「あんた記憶が無いのに道がわかるのか?」
ジェイクは目ざといな。
ナビゲーションOFF。
「ワッタシ、キオクナイネ。ミチシラナイアルヨ」
「「…………」」
何だよその目は記憶が無いのはホントだぞ!
初めての世界だしな。
「案内お願いします」
ペコリ。
「帰るかペリーナ」
「そうねジェイク」