俺の第1歩
ジェイク。
俺の名前か?
いつ決まったんだ?
そもそもこの女は誰だ?
「ペリーナ、それどころじゃねえ。怪我人だ」
ジェイクはこの青年か。それで女はペリーナね。
後から現れた女、ペリーナはセミロングのブルネットでなかなかの美人。お転婆って言葉が似合う明るい感じの二十歳前後の子だ。
ジェイクと似た革鎧で左手に弓を、背中に矢筒を背負っている。
「鹿には逃げられたのね。怪我人てそこの彼のこと?」
はぁ、とため息をはいて肩を落とし横目で俺を見る。
マジで怪我してんだよ。尻を刺されたの!我慢してるけどずっと痛いんだよ。
俺はジェイクに治療してもらった方がいいような気がしてコッソリと囁いた。
「お前ジェイクっていうんだ。ジェイクに手当てしてほしい、あのペリーナってガサツそうで怪我が治る気がしない」
するとジェイクも手で口元を隠し小声で返してきた。
「確かにガサツなとこもあるけどあんたの深い傷を見れば乱暴にはしないと思うぞ」
思うってジェイクも確信がないのかよ。
「だいの男が二人でこそこそ話して、情けないわよ!言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
むっ、ならば言わせてもらおう。
「そこのガサツそうな女よりジェイクに手当てしてもらった方が安心できると言ってたんだ!」
……
「貴方の治したい怪我は手で押さえてるお尻のこと?それともこれから開く頭の矢傷のことかしら?」
そう言うと右手で矢筒から三本の矢を抜きその内の一本を弓につがえ、俺に向けて引き絞った。
残り二本は薬指と小指の間に器用に挟んでいる。
「そうゆうのが感じ取れたから頼みたくなかったんだよ!」
三つも風穴開ける気かよ!
「乙女心に理屈は通じないのよ!」
青筋立ててマジでキレてやがる。
お前に比べたらテレビのニューハーフタレントの方がよっぽど乙女らしくて繊細だぞ!
「二人とも落ち着けよ。ペリーナ、彼は本当に深い傷を負ったんだ。ゴブリンの剣で刺されたから早く処置しないと大事になるかもしれないんだ。それとあんた、初対面の女に言い過ぎだぞ」
ジェイクは俺を庇うように間に立ち俺達をいさめた。
……いやいや、ジェイクも同意見だったろ。
まあ、自分でも少し大人気なかったとおもってたけど。
仕方ない。
「確かに初対面の女性に失礼な発言だった、すまない」
言いたいことは色々あるが沈黙は金だ。
「あたしも態度が悪かったのは認めるわ」
弓をそっと下ろしてペリーナはうつむきながら非を認めた。
一件落着
「じゃあ早速あんたの手当てをしようか」
ジェイクはパンっと手を合わせ場を締めた。
「そうしてくれると助かる。なんか痛みと出血でクラクラしてきた」
「血が出てる。大変じゃない!」
ペリーナは今になって気がついたみたいで真剣な顔になる。
さっき俺が尻を押さえてるの見てたよな?
俺に駆け寄ってきたペリーナは目をつむり両手の親指と人差し指で三角形を作りなにやら集中し始め。
「いま水と包帯を出すからズボンを下ろして傷を出しなさい」
「女の子の前で尻なんか出せるか」
「バカ言ってんじゃないの!こんなとこを剣を持ってうろついてんだから貴方も冒険者でしょ。怪我した時に男も女も関係ないでしょ」
片目を開いて俺を睨む。
「わかったよ」
確かに恥ずかしがってる場合じゃないな、所詮は尻だし。コレが前だったら抵抗したが。
俺はペリーナに尻を向けてズボンとパンツを下ろした。生地やほつれた糸がが傷口に入り込んでいてかなり痛かった。
そして最後の抵抗で股間を手で隠した。
「ん~……マジックポケット、オープン!」
肩越しにペリーナを見ていたら彼女の言葉と共に指の三角形の間から白い光が溢れ両手を飲み込んだ。
「えーと、水筒と包帯に。あと薬ね」
目をつむりながらペリーナは光の中から次々と物を取りだしジェイクに手渡す。
「はい、オッケー」
ふー、と息を吐きながら集中を解くと光は霧散した。
「スゴいな、今の魔法か?」
モノホンの魔法だよ!
感動した!
「スゴいだろ、マジックポケットの魔法を使えるヤツは珍しいからな!彼氏にして相棒の俺も鼻が高いぜ」
ふふん、と何故かジェイクが胸を張る。
リア充め、俺だってかつては美人の女房と可愛い子供が……いなかった気がする……。
もげろジェイク!
しかし、今生こそは……。
「もう、バカ言ってないで手当てするわよ」
ペリーナよ、顔が赤い。
「ぎゃあぁー!」
照れ隠しで乱暴に水をぶっかけるな!
一瞬気が遠くなっただろ!
「コレくらいで男が喚くな!本番はこれからよ」
いやだ、すげえ怖いんですけど。
「!!、くぅー」
水で濡らした布で傷をほじりだしたっ!
「我慢してっ、こうしとかないと中に汚れや異物が残って腐っちゃうのよ!あと少し」
限界を超えました。
あぁ、口から魂が抜けてしまいそうだ。ようわからん……。
……
「はいおしまい!傷口を縫ったからしばらく座るのも仰向けに寝るのも禁止ね」
遠くから誰かの話し声がきこえる。
「おい、あんた!終わったぞ。戻ってこい!」
この声は……ジェイクか?
耳元にジェイクの声がする。
ジェイクも一緒にあの川を渡ろうよ……。
「しっかりしろ!その川は渡っちゃダメだ!」
……
「はっ、ここは?」
あれ?川の渡し船の列に並んでたはず。
「戻ってきたか、大丈夫、終わったんだ」
終わった?
何が?
「なんで逝きかけてるのよ。手当てしただけでしょ!」
やってらんないとばかりのジェスチャーで呆れるペリーナ。
「思い出した!何あれ、傷口の中をゴリゴリするとか!麻酔はないのかよ」
戦争映画じゃ強い酒で気をまぎらわすくらいやってたぞ!
「終わったからいいでしょ、それより言うことがあるんじゃないの?」
くっ、確かに。
「……ありがとう、お陰で助かった」
「どういたしまして」
ニッコリとペリーナは魅力的な笑顔を浮かべる。
反則だ。クレームを口に出来ないだろ。
「そろそろ、自分の足で立ってくれるか?あとズボンもはいてくれ」
ん、どうやら俺はジェイクに抱きしめられて立っていたようだ。
どうりでジェイクの声が近く聞こえた。
ついでに俺のモノがジェイクに密着してた。
慌てて俺はパンツとズボンをはく。
俺はブラックゾーンでもグレーゾーンでもない!
そっちはノーだ。
ズボンに穴は空いていたが身だしなみを整えた俺は二人に向かって改めて礼を言う。
「お前らに会えてホントに助かった。礼を言わせてくれ。ありがとう」
深々と頭を下げる。
日本人の礼は握手でもハグでもなくお辞儀なのだ。
「いや、分かったからその頭を下げるのはやめてくれ!」
「そうよ、なんだか落ち着かないわ。こんなの冒険者ならお互い様よ」
わたわたと慌て出す。
俺は頭を上げる。
「ゴブリンの次に出会ったのがジェイクとペリーナで良かったよ。これって運がいいのかな?」
悪魔もいい仕事してくれるぜ。
「悪運じゃないのか?改めて自己紹介だ。俺はジェイク、この辺りで冒険者をしている」
「あたしはペリーナ、同じく冒険者でジェイクの相棒よ」
なるほど冒険者か、いい響きだ。
「俺も冒険者志望だ」
……
「だが名前はない!記憶もない!よろしくな」
胸を張って二人にブイサインを出す。
「「はあ?」」