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ミントチョコ

気持ち悪い!

初めてヒトを手にかけた感想はそれだけだった。

皮膚を切り裂き、頭蓋骨を叩き割り、の……その中身を砕く感触が剣から手に、手から腕を伝わり俺の脳と胃と尻の辺りにじんわりと不快感を残す。

前世の俺なら間違いなく吐いていただろう衝撃的な手応えだった。


しかし、今の俺は次の獲物を求めていた。


「かかって来いやー?」

ゴブリンどもは仲間をあっさり殺されて混乱しているようだ。

盗賊たか、山賊だか知らないがコイツらは犯罪者集団なのだ。殺っちまっても構わないだろ。

つうか見逃す方が後々不味いよな?


ならば、


「先手必勝、ちょいさー!」

チェスト!の方がカッコいいかな?掛け声は統一しといた方が締まるしな。


俺は正面に立ってうろたえていたゴブリンに向かい駆け出した。5メートルの距離を一気に詰めると斬りつける。


ズリズリズバッ!

ゴブリンは首を半ばまで絶ち斬られ、武器を落とした手で首をおさえながら血の泡を吹き崩れ落ちた。


袈裟懸けに斬るつもりが鎖骨にそって刃が滑り首を裂いてしまった。

だって、剣なんて初めて持ったんだもんしょうがないだろ。

残りは2人……匹?体?

腹の底からマグマように熱い闘争心が沸き上がってくる。


「ちょわ、じゃない。チェストー!」

俺の左に回り込もうとする途中で立ち止まっていたヤツに狙いを定める。

距離は3メートル、剣を突きだしゴブリンの胸元めがけロケットダイブ!

俺に狙われたゴブリンは混乱していたが更に俺の意外性の攻撃に完全に棒立ちになり、自分の胸に突き刺さる剣を見つめながら事切れた。


へへ、剣技なんて知らない俺だからこその攻撃方法だぜ。

ふざけてるわけじゃないがハイテンションに身を任せているのは認めよう。

だから、


ザクッ!


「あがぁぁい!」

尻が焼けるように熱い!痛い!


ロケットダイブの体勢で地面にうつ伏せになっていた俺は顔を上げて自分の痛む尻の方を見ると、そこには俺の尻に剣を突き立てるゴブリンの姿があった。


「ヒトが、ヒトごときが俺たちカマキリ盗賊団にはむかいやがって!」

ゴブリンは目を血走らせネズミ顔をひきつらせながら叫びグリグリ剣をねじ込んできた。


「待った、タンマ、いだだだぁ!」

後ろ手にゴブリンの剣を掴み止めようとしたが掴めたのが刀身だったから掴む手が斬られ上手く止められない。


「てめえのせいでカマキリ盗賊団はおしまいだ!チクショウ、死ね!」


ふざけんな!襲ってきたのはお前達だろ!

俺は怒りにまかせ刺された尻と反対側の足を思い切り振り上げ俺の足に股がるように立っていたゴブリンの股間に踵を叩きつけた。


「クホッ」

気持ち悪い感触と共にゴブリンの口から気の抜けるような声がして尻の剣が抜けた。


「ほーほーほー」

ピョンピョン飛びながら押し殺した悲鳴を上げるゴブリン。


「!ひぃーー!」

自分の剣を杖にして何とか立ち上がる俺。


「ほ~~」

「ひぃ~」


俺たちはお互い何分か痛みと戦っていた。


最初に立ち直ったのはゴブリンだ。

毛の無いネズミ顔に脂汗を流しながら剣を構え俺を睨み、ヨチヨチの内股で近づいてくる。

俺も歯を食い縛り無事な尻側の足に体重をかけて身構える。


ジリジリと迫るゴブリン、歩けずに待ち構える俺。


その時、

《接近する生体反応あり・個体数3》

眼鏡からのアラートだ。

ヤバい、こいつの増援か?

がさがさと大きな音を立てて何かがこちらにやってくる。

どうする?増援が来る前に急いでやっちまうか?


ゴブリンの顔を見るとヤツも焦るように怯えていた。


こいつの仲間じゃないのか?


そうして俺が決断する前にタイムアップとなった。

急速に迫ってきたモノが飛び出してきたのだ。


それは立派な角を持つ2.5メートルはありそうな巨大で新緑色の毛をした鹿だった。


鹿は現れた勢いのまま走りゴブリンを強靭なその角ではね飛ばし疾風のように去って行った。


呆気にとられ走り去る鹿を顔で追ってしまったが、直前の状況を思いだしはねられたゴブリンを探した。


あっ、


そばにあった木に叩きつけられたゴブリンは角で突かれた胸の穴から血を流して死んでいた。


バキバキ、ガサガサ。

《個体数2・遭遇します》

また鹿か、こんなとこに突っ立ってたら俺もはねられちまう!

慌てて木の影に隠れようとしたが片足ケンケンじゃ足場の悪い林の中を動けない。


ガサッ!

来た!


「……××××××、×××××!」

逃げる俺の背に何やらヨーロッパっぽい言語の声が聞こえた。

鹿じゃないのか、

「でも次は何だ?」

刺された尻の傷を片手で押さえ庇うように振り向く。


鹿の現れた藪の向こうに人間らしき人影があった。


「×××、×××××××××、××××。」

話しかけてきたのは革鎧をきた茶髪の20代半ばくらいの男だった。

「××?××××、××××××?」

ゴブリンの時と同様何言ってるか分からない。


翻訳お願いします。


「……聞こえて無いのか?大丈夫か尻から血を流してるぞ」

「あぁ、聞こえてる。でも大丈夫じゃないよ。スゴい痛い」

この眼鏡、マジで助かるわ!違和感無く異世界語が通じるんだから。

自分の口からスラスラ異世界の言葉がでてくるんだもんな。


「このゴブリン達はあんたが倒したのか?」

藪から出てきた青年は180センチ位で鎧や服の上から分かるほどにがっしりと鍛えられた体をしている。顔は甘い感じでは無いがなかなかのイケメンだ。


「ああ、カマキリ盗賊団とか言ってたな。いきなり襲われたんで仕方なく返り討ちにした」

ケツを刺されたがな。


「そんな着の身着のままの剣一本で四人も倒したのか?やるな!」

ゴブリンの死を確認していた青年は俺のそばに寄ると肩をバンバン叩いて誉めてくれた。


叩くなよ、尻に響く。

「すまないが傷の手当てをしたいんだ。俺は見ての通り包帯も薬も無いんで分けてくれないか?」

ケツを刺されたんでな!


「気がつかなくて悪かったな。あぁ、俺も手当ての道具は持ってなかったわ」

わはは、と笑う。

「せめて食いもんと水だけでもくれないか」

血を流しすぎて気持ち悪いけど腹も減ってフラフラする。


「ならいいもんがあるじゃん。ゴブリンだったら携帯してるはず……」

そう言うと青年はゴブリンの死体を物色しはじめる。


そうか、俺もコイツらから食いもんを奪おうとしてたんだっけ。どっちが盗賊なんだか。


「あった、ほらこれ」

青年はゴブリンの腰に下げてあったボロい布の小袋の中を覗き中身を確認して俺に袋を差し出した。


「食いもんか?助かるよ」

俺は袋を受け取り礼を言った。


「あんたが退治したゴブリンだろ。当然の権利だ」

退治ということはゴブリンはヒト社会の敵ってことだな。ホントにあの神は何故ゴブリンを候補にしていたんだよ。

まあ、いいや。とりあえず腹ごしらえだけでもしとかんとね。

俺は袋に手を突っ込み食いもんを取り出そうとした。


後に不思議に思う。なぜ中の見えない袋に何の躊躇もなく手を入れたのか?

芸人なら垂涎のお約束だろ。


袋に入れた手に何かがまとわりつく、もぞもぞしてうねうねして……

「うわぁ~」

ビックリして引き抜いた手には水色の芋虫が何匹もくっついていた。

ひぃーー!

慌てて手を振り回し芋虫を払った。


「あぁ、もったいね」

青年は落ちた芋虫を一匹摘まむと土を払い自分の口にパクりと放り込んだ。


プチプチ聞こえるんですけど!


「旨いよ。あんたコレ食ったこと無いのか?」

ニッカッと笑いながらモグモグ。


「ナイナイ、芋虫は無い!」

兄ちゃん口の端しから青い液体が垂れてるぞ!キモいを越して恐いわ!


「あんた知らないのか?昔からよくある携帯食なんだぞ」

旨いのに、ともう一匹摘まんでパクり。


マジかよ、コレ食うの?

地面でうねうねもがく水色の芋虫を鑑定してみる。

《月見芋虫・湿気の多い洞窟や廃屋などに生息・苔、青カビを主に食べる・サナギは地中で満月の夜を待ち一斉に羽化する……》それは要らない情報だ《……幼虫は食用・栄養価が高く青カビを体内で精製し抗生物質を生産するため広く傷病者に食べられている》


……マジっすか?

尻がズキンズキンする。落ちているゴブリンの剣を見ると所々錆びて刃も欠けている。ろくな手入れはされてないようだ。

つまり、この汚い剣で刺された尻の傷はバイ菌だらけ。待っているのは化膿して熱が出て……破傷風?敗血症?よく知らないけどこの世界の医者に行っても抗生剤の注射とか点滴で治療とかはないよな。


食うしかないのかなぁ…

「マジで旨いんだな?」

青年に念をおす。


「食うの?大丈夫、大丈夫、本当に旨いし怪我にもいいんだよ。俺がガキの時に風邪引くとお袋がコレを何匹かすりつぶして……」

いや~~!


「分かったそれ以上言わないで。想像するとくじけそうだから」

ゴブリンを殺せて虫が食えないわけがない、喰ってやるぜ!

俺は足元で這っていたヤツを摘まむと思いきって口に入れた。


……



うう~~、口の中でもぞもぞ動いてる。


「生きたまま喉に入って喉つまらせて死んだヤツもいるからよく噛めよ」


……プチ


……


「ミントチョコの味です」

旨い……けど納得がいかない。


「もう2,3匹食べとけよ。こんな汚い剣の傷は腐りやすいからな」


「もう食べてます」

モシャモシャ、プチプチ。


「あとは傷を水で洗って縫わないとな」


モシャモシャ、プチプチ。

止まらねえよ。旨い!


「ジェイク、鹿はどうしたの?」


口の周りを水色に染めてモグモグしてたら背後から今度は女性の声が聞こえた。




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