初陣
何はともあれまずはヒトのいる場所を目指そう。幸い俺にはハイスペックなナビゲーションがあるんだからな、余裕だぜ。
眼鏡の縁に指を置き一番近くにある村までの最短ルート検索を念じる。
すると脳内に3Dのマップが浮かび俺の歩きやすいルートを緑の線で示してくれる。
途中の休憩ポイントに水場の情報まで、パーフェクトだよ。
休憩なしなら徒歩で……調整中の表示がでた。
地球時間だとこっちは1日が34時間19分?
星が大きいのか自転が遅いのか知らんが、今の俺はメイドイン此処だから時差も体内時計も地球とは関係ない。
ついでに重力もフィットしてる、体が軽いくらいだ。亜神補正がきいてるのか?
まあ、いいや。
眼鏡さん、1日を24時間表示に換算してください。
……現在時刻9時37分、現地到着予定15時8分。
現在地は赤道のちょい北だから陽が暮れる前には着きそうだな。
楽勝、楽勝。
3時間後
「ハア、ハア、腹減ったー、喉乾いた!」
水道完備で公園いけばキレイな水が飲み放題、コンビニでお茶に弁当を買っていた現代日本人にゼロからのサバイバルは無理です。
甘く見てすみませんでした。
マップにあった水場、見た目はキレイな水溜まりだがオタマジャクシがうようよしてアメンボがすいすいしていた。
休憩ポイントも木の無い開けた場所だったが、下は虫が居そうな腐葉土。
こんな所で敷物もなしに座りたくないし、水だって飲めないよ。
ジャパニーズサラリーマンのライフクオリティをなめんなよ。
……俺、サラリーマンだったのかな?
途中で口に出来たのは、名前は覚えてないけどオレンジ色の小さな木の実。眼鏡の鑑定で安全な生食用はそれだけだった。
神は水筒も携帯食料もなしで何を期待したんだろう。
「とにかく水は何とかしないと!」
……生体反応急速接近。
眼鏡から脳に突然アラートが伝えられた。
「やった、第一村人に遭遇だ。何か分けてもらおう」
食い物を貰えるかもと思ったら余計に腹が減った。
……個体数4、遭遇まで……20秒。
前方から草木を掻き分けて近づいてるモノたちの音がはっきり聞こえる。
「ラッキー、人が多いなら食料も余計に持ってるだろ。おーい!助けてくれ!」
ハイカーなら助け合うのが常識だろ。
この時前世の知識や常識にとらわれていた俺は、自分の行動に何一つ疑問をもたなかった。
がさがさ……バッ!
「グギャ、グギャ」
藪を突き破って姿を現したのはボロを纏ったヘドロのような暗い緑の肌の子供達だった。
「グギャギャ」
「何言ってるか分からない。眼鏡さん、翻訳on。こんにちは、はじめまして」
スマイル、スマイル。
「ヒトが俺たちの言葉を使ったぞ」
先頭の一人がかん高い声で叫んだ。
よく見ると子供じゃないな、顔は大人の造りだ。四頭身の小狡そうなネズミっぽい顔の男達、というか毛の無いネズミが人間のふりをしているような。
見た目で判断してごめんなさい、気色悪いです。
「生意気なヒトだ、殺して食い物を奪え」
「やっちまえ」
なんじゃコイツら、いきなり殺すとか。異世界って恐い。
鑑定……《ゴブリン・小柄で獰猛な種族、人口は最大の……》カット《文明は低レベル、盗賊のように他種族を襲い生計をたてる》
ヤバい奴らじゃん!こんなのが俺の転生候補だったのかよ。
「暴力反対、話し合えばわかるから」
ジリジリと後退りしながら逃げ道を探す。
戦う?剣はあるよ!
でも現物なんて触るどころか見るのも初めてだっつーの!
「ビビってるぜ、こいつ」
「オレ、ヒト殺すの初めて」
「ヒトなんざ、デカイだけで大したことないだろ」
「ギャギャ、イノシシより弱いぞ」
好き放題言いながら武器を構えたゴブリン達は俺を囲むように広がった。
ヤ、バ、イ!
逃げられそうにない。剣、こっちも剣を構えないと。
「いっちょう前に剣を持ってやがるぜ」
こわっ、前世の頃でもテレビでしか見ない連中だよ。
「なぶり殺しだぜ」
……カチンときた。ゴブリンといえばザコ中のザコだろ。亜神になった俺がなんでゴブリンごときにカモられなきゃならないんだ!
「お前ら食い物を寄越せ、ぶっ飛ばすぞ」
我ながら亜神というより山賊のセリフだ。しかし、言葉にだすと心が定まる。
さっきまでへっぴり腰で剣を構える手も震えてたんだが、今は時代劇の剣豪にでもなった気分だ。
「なんか様子が変わったぞ」
「どうする?」
おっと、俺の気迫が伝わったようでゴブリンが困惑している。
もう一押しか。
「ふっ、死にたい奴からかかって来い!」
諸君、食料置いて逃げるなら今のうちだよ。
「やっちまおうぜ、俺たちカマキリ盗賊団の敵じゃねえよ」
カマキリって、そんな名前でいいのか?
「俺が殺ってやる、うらぁー!」
ヒトは初めてとか言ってたゴブリンが手斧を振りかぶって襲い掛かってきた。
俺だってゴブリンは初めてなんだよ、だからって転生初日に死んでたまるか!
殺られる前に殺ってやるさ。
「うぉちゃーー!」
剣の握りも型も知らないけど、俺は大きく振り上げた剣を思い切りゴブリンの頭に叩きつけた。
ゴキンッ!
尾てい骨に響くイヤな音を立て、ゴブリンは支えを失った人形のように崩れ落ちた。
「ふおー、次はどいつだ!」