スキルコレクター
「これからこの世界で生きていくためにお前さんのいた世界との違いを説明しよう」
きたー、ファンタジーのチュートリアルだ。
ゲームじゃボタン連打ですっ飛ばしてたけど、今回はきちんと聞いておかないと。
「文明レベルはそちらの中世に近い発展をしている。医療は魔法と合わせてかなり高い技術がある。盲腸程度なら外科手術と錬金術の治療薬で治せるから安心しなさい」
すげえ、それなら安心だ。
って亜神も盲腸になるのか?だから例にあげられたのか?
「兵器は火縄銃と大筒が最先端で一般には出回っていないから薬莢式の連発銃とか作って広めたりするなよ。お前さんがあちらの世界の科学知識をばら蒔いた時は私が出向いて死ぬまで封印するからな」
「俺の優位を潰されてしまった!」
「もっともお前さん程度の知識では大量殺傷兵器なんぞ作れんだろ」
「確かに雷菅とか仕組みが分からないけど」
「一般的な生活のクオリティを上げる範囲ならうるさくは言わんよ」
「和紙の作り方とかトイレットペーパーの普及とかシャワー付きトイレとかはいいですよね!」
「そうゆうのは構わない」
おっしゃ!現代日本人として下の衛生面は譲りがたいのだ!
食い物関係は慣れるだろうし、味噌醤油がなくても塩焼き魚で我慢するさ。
米があると嬉しいけど。
「ファンタジーな世界なんだから、やっぱり冒険者とか魔物ハンターや迷宮探索者とかいますよね!」
これは鉄板でしょ。魔法のある異世界にきて畑耕して一生を終えましたじゃ盛り上がりに欠けるし。
「なにか異世界に偏見があるようだが……そいつらは全部いるぞ」
異世界バンザイ!
「次は魔法だな」
来た来た、魔法キター!
基本はやっぱり四大属性魔法か?
レアなとこで光とか雷だよな!
「惜しいな、魔法の基本は炎、雷、光の3つだ。どれも攻撃の為の術だ。あとは防御結界魔法、治癒魔法が主要魔法で土や水は系統外の操作魔法と呼ばれ重要では無い」
「古典ファンタジーの世界だったか」
「虚空の亜神の息子だからお前さんはレアな空間魔法も使えるぞ」
ナイスだパパ、七光り最高!
「なら創造神の曾孫として創造魔法は使えたりしますか」
魔法で太陽発電オール電化屋敷とか作れば無問題じゃん!
「それは使わせん、この世界を弄り放題になるから禁止だ」
「そんな無茶な事はしませんよ」
「代わりに魔道具を作るスキルを与えてやるから納得しとけ」
「むー、スキルですか?」
「そうだ。この世界には努力では身につけることが出来ないユニークスキルと呼ばれる才能がある」
ユニークスキル、俺の知ってるファンタジーワードが来た!
「曾祖父様、詳しくお願いします」
「ユニークスキルとは、とある別の世界の神が気まぐれで民に授けた異能だ。悪魔の襲来や天変地異の度に民に呼ばれ現世に降臨するのが面倒になった土地神が限定された力を授け対処させたら仕事の効率が上がってな。それを他の神が真似しているうちに気がついたら異能を適当に与えて世界の発展に役立てるのが当たり前になっていたのだ」
……裏事情なんて聞きたくなかった。
「お前さんも一応は私の系譜の亜神だからな、欲しいスキルの2,3は与えてやるぞ」
「本当ですか?なら高レベルの剣術とか……」
「ユニークスキルは異能と言っただろ、剣術なんぞ自分で努力しろ」
うーむ。
「努力で得られない異能、つまりチートってやつか」
「そう思って構わん」
「だったら欲しいスキルを手に入れるスキルとか」
「あの悪魔を呆れさせた願いを無限に叶えてくれ。みたいなスキルを寄越せと言っているのか」
ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ
ヤバい不機嫌なオーラが全開だ。
「いやいや、まさかそんなデタラメなスキルなんて……相手から、そう!倒した敵からスキルを奪うスキルコレクターなんて名前のスキルはいかがですか?」
どうかな、このアイデア。
「……一人で無制限にスキルを持つのはどうかと思うぞ」
「なら制限は5!じゃなくて10個まで」
「それなら……」
ちょっと待った。
「更に身に付けてないスキルはカードにしてストック出来るとか」
「だから無制限にスキルを持つのはダメだと言ったろ」
「ならカードは20枚までストック可能でオーバーした分は破棄して世界に還元される」
というのはどうでしょうか?
「む、それなら」
「あとコレクターだから要らないスキルは他人に譲渡出来る。……出来たらいいな……」
「……金品での譲渡は禁止、与える相手の所持制限は5つまで」
「ありがとうございます!」
身寄りもなくゼロからの異世界人生のスタートなんだから少しでも生存率を上げてバラ色のファンタジーライフだ!
「お前さんのスキルは〈スキルコレクター〉と〈スキルカード化〉の2つだ。私の世界で問題を起こさないように慎ましく暮らすがいい」
「これで人生、勝ち組だ!三千世界の神々よ!我こそがスキルの神なり!」
わっはっはっ
「ヒトに毛がはえた程度の亜神がちょーしに乗るな!」
ブンッ!
ガツン!!
「アウチッ!」
ひぃ、こめかみに分厚い本が刺さった!
血がっ、血がっ、出てないか。
「酷いじゃないですか」
ズキンズキンするこめかみをさすりながら俺は文句を言った。
「うるさい、用は済んだんだからもう行ってしまえ。仕事の邪魔だ」
そう告げられると周りの光景が滲むように揺らめき始めた。
「待って。この世界について、もっと詳しい説明を……神様、俺パンツ一丁なんだよ!」
俺の悲痛な叫びもむなしく、光とも闇ともつかない空間に飲み込まれてしまった。
神との対面は最後までカリカリとペンを走らせ続ける音が聞こえた。