ここは何処、私は誰?
ここはどこだ?
360度白い靄がかかってる、雲の中か?
無理無理無理、スカイダイビングなんて無理だよ。俺、高所恐怖症だもん。
どうしたらいいんだ。上も下も分からねえよ、とにかくパラシュートを開かないと……紐かスイッチか無いのか?
あれ?
パラシュートが無い!
つうか俺、手も足もない!体が無い!
周りは見えてるけど感覚が一切無い!
喋ろうにも声が出ない!
まさか俺は死んで幽霊か魂になってるとか…
そもそも、俺は誰なんだっけ?
「よお、ニンゲン!元気してっか?」
状況がつかめず悩んでいる俺に男とも女とも判別しづらい声をかけられた。
死人に元気も何も無いだろ。だれだよ?
見渡す限り白い空間に声の主の姿はない。
俺と同じ姿の無い幽霊か?
「あれ、俺の姿が見えてないのか?ちょっと待ってくれよ、見えるようにするから」
そうゆうと、白い空間の一点から黒々とした煙が沸き立ち中からモヤモヤした人形の…輪郭が現れた。
なんだか透き通ってるんだけど何となく輪郭が分かるような、分からないような……
結局、姿が見えないじゃないか!
「まだ姿が見えてない?頑張ってみたんだけどさ。俺達って此方の世界じゃ基本的に概念だけの存在だし本体だすとお前の魂なんて消し飛んじゃうじゃん」
俺は魂なんだ。
ショックだ。
やっぱり死んじゃってたんだ。
で、おたくはどちら様ですか?
「こんちは、俺はタケシ(仮名)。本名はナイショ!悪魔やってます」
悪魔なんて西洋っぽいのにタケシかよ!(仮名)ってなんだよ!ナイショって言い方も腹が立つ!
「本名は知られると不都合があるから(仮名)で押し通すよ。クレームは受け付けません。あと最近の日本の若者は悪魔とか普通に受け入れてくれてるだろ?洋の東西なんか気にするなよ」
モヤモヤが親指を立てている。
きっと本体とやらはドヤ顔をしてるんだろう。
雰囲気で伝わるよ。
ん、日本の若者?俺って日本人なんだ。何となくそんな気はしていたけどさ。
あぁ、三大少年誌のマンガの続きが読めないのか…おぼろ気ながらあのマンガとかアニメとかラノベの事を思い出した。
さすが悪魔、忘れていた未練を思い起こさせるとは!
「そんなつもりは無かったんだけど」
イヤイヤと手を振る。
なあ、おたくなら俺が誰でどうして死んだのか分かるんだろ?教えてくれよ!
「あんたが誰かなんて死んだんだからもう関係ないだろ。死因は…気にするな」
こいつ露骨に話を反らしたな!
死因は何だ!
……
……
「むしゃくしゃして……」
おい、今なんて言った。
「何となくむしゃくしゃして、隕石を落としたら下に車があって…」
思い出した!
いや、自分が誰かは思い出せないけど。最後の記憶はレンタルのDVDを返すのに買ったばかりの新車を運転していたんだ。
社会人3年目で貯めた貯金をはたいて買ったハイブリッドカー。
まだ1ヶ月も経ってないのに…
「あんた運が悪かったな、つっても必ず誰かに当たるように追尾の術式を掛けたハズレ無しのメテオストライクなんだけどな!」
はっはっはっと笑いながらサムアップする輪郭。
ふざけんな、俺に何の落ち度も無いじゃないか!
「だよな、今回は完全に俺が悪かったよ。普通なら契約やら何やらでイイ思いさせてから殺すのがお約束なんだけどよ。俺ってば真面目に悪魔やるのがイヤで500年ぐらいニートしてたら親父に怒られてさ、そんでもってむしゃくしゃして隕石を落としたらあんたが死んだんだよ」
悪魔のニートに殺られたのかよ。
あんまりだ!
「んでだ。更に親父に怒られて、日本の神にも睨まれて、契約無しの特典付き異世界転生をプレゼントすることになりました」
異世界転生?
んなもんより生き返らせてくれよ!
「それは無理」
何でだよ、悪魔だろ!それに日本の神様もいるんだろ!
「あんたが死んで5年も経ってるのよ。今さら死人が黄泉帰るなんてねぇ」
5年?そんな馬鹿な、ついさっき気がついたんだぞ。まだ10分も経ってないだろ!
「それ違うよ。あんたの魂の所有権で日本の冥界と悪魔とで揉めちゃってる間、あんたは5年間意識の無い地縛霊やってたから」
5年…
「俺も大変だったんだよ。社会経験も無いのに裁判だの示談交渉だの出頭して書類書いてさ。その間も毎日両親や親戚連中にも説教されるし泣きたくなったよ。でもそのおかげでスゴい大悪魔とか珍しい神にも会えたんだぜ」
5年…
「話せば長くなるからもういいでしょ、面倒だし。とにかく話し合いの結果あんたの死はチャラになったけど地球上にあんたの生きる場所用意出来ないから他所に行ってくれってさ。神も酷いよな!」
原因はお前だろ!
「クレームは受け付けないって言ったろ。後は行った先の神に任せるから、じゃあな!」
そう言ってモヤモヤした輪郭は消えてしまった。
ちょっと待てよ、俺は誰なんだ!
家族は居ないのかよ!
俺は…
俺はの名前は……
あぁ、意識が遠くなる、俺の新車………