廃屋
薄目を開ける。ここはどこだろう。一番に考えた。目を上下左右に動かせる。私の視界は、確保されているらしい。
左右を見る。広い空間だ。錆の目立つ鉄柱や階段も多く、がらんとしている。
上を見る。剥き出しになった鉄骨は無骨ながらも、そこで過ごしていた人間たちの心意気まで如実に映し出すかのように堂々としていた。天井は高い。十メートル以上、推定ではあるだろう。電気は通っているらしく、空間全体が光によって白い。
下を見る。コンクリートの床だ。亀裂もところどころ走っており、綺麗ではないが汚いとも言い難い。とにもかくにも、尻が冷たい。
腕を動かそうにも、手に縄がかかっている。手首に食い込む質感からして、縄で間違いない。
一通り状況を確認して、私はため息を一つ。
なるほど。私は呟く。つまり、捕らえられたというわけだ。誰が一体何のために、私をここまで連れてきたのかはわからないものの、私の自由が著しく封印されて、なおかつ殺していないということだけはわかった。ロケーションからして、ここは廃倉庫なのだろう。機材が点在しており、どことなく物寂しい。
壁に背を預けたまま、私は考える。誰が、一体いかなる理由で私をここまで連れてきたのか。そもそも、失神する寸前の端役はどうなったのか。謎だらけだ。私は特別裕福な家で育ったわけでもないし、特定の仄暗い組織から目をつけられるようなことをした覚えもない。私をここまで連れてきてまで、何をしたいのかは皆目見当はつかなかった。ため息を一つ。これもそれも、あの時仮面がうまく働かなかったからだ。八つ当たりとは分かりつつも、愚痴を漏らす。
ほとんどゼロに近い情報のうち、ひとつだけわかったことがある。この廃倉庫は、きっと人の存在から程遠いところに建っているということだ。私の口が塞がれていないことから、なんとなく察する。外で人が行き交っているような場所なら、叫んで助けを求める可能性も考慮して口を塞ぐはずだ。山奥だろうか。
「おはよう」
ぼんやりと考え始めて五分くらい経っていただろうか、男の声が聞こえた。偶然私を発見して動揺したような話しぶりではないことから、私をさらった犯人だろう。扉を開けた男が、私へ近づく。
二十五歳くらいの男だ。タンポポや龍馬さんよりも、目測の身長は低い。年相応の落ち着いた服に身を包み、両手をポケットにしまっている。若々しさこそなかったものの、どことなく思いやりにあふれたような顔立ちをしていた。
ついさっきまで爆睡キメてました。二時間近い昼寝ですね。お早うございます。昼夜の逆転にならないよう、気を付けようと思います。