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 夕食が終わって各々が片付けている中、私は輪廻さんに駆け寄る。彼女は今日の洗い物当番であるタンポポに食器を預け、広間で一息ついているところだった。

「輪廻さん、お話があるんですけど」

 私の改まった物言いに、輪廻さんが正座する。私も、腰を落として正座に移る。

「で、話って?」

 私は深呼吸して心を鎮め、口を開く。

「この前マンションで起きた火災の女の子を、舞踏荘で引き取ることはできませんか?」

「だめだ」

 細く伸びた三文字が鋭利にしなり、私の頬を打った。全く予想していなかった返答に、私は一瞬自失する。

「な」思わずどもる。「なんでですか」

 輪廻さんの目線には一本の芯が通されて、揺らぐ様子が欠片もない。

「その女の子が、仮面を持っていないからだ。正確に言うなら、仮面を出す兆候が見当たらないからだね」

「そんなのわからないじゃないですか」

 私は腰を上げる。

「私だって、最近になってやっと目覚めたんですから」

「その少女が仮面を顕現させて、なおかつどこにも居場所がないのならその限りじゃないし私たちだって喜んで女の子を舞踏荘に迎え入れよう。でも、今はだめだ」

 納得いかない。

「じゃあなんで私は受け入れられたんですか」

「慧ちゃんには内緒で、何度か顔を見せてもらっていたからね。一年くらい前から」

 つまりその時から既に、私は仮面の素質があったということなのだろう。

 でも、

「たとえ仮面がなくても、あの子を育てるくらいならいいじゃないですか。なんでそこまで拒むんですか」

 輪廻さんは、一瞬だけ顔を伏せる。その表情は、できの悪い生徒のわがままをなんとか諌めようとする教師のそれと似ていた。

「私たちは一応人間だけど、舞踏荘の人間は皆仮面使いだ。その中でたった一人、わずかではあれ違う種が紛れるんだよ」

「私は気にしませんし、みんなの負担になるんだったら私が責任を持ちます」

 そうじゃないんだ。輪廻さんが返す。

「私たちが問題じゃない。彼女が問題なんだ」

「どういうことなんです」

 輪廻さんは湯呑に手を伸ばす。入っていたお茶で喉を潤して、私を見る。

「慧ちゃんならわかるはずだよ。自分だけ周囲と違うことに対する息苦しさがどんなことか。慧ちゃんが問題なんじゃない。その女の子が、どう育つかが問題なんだ。もし引き取ってくれる血縁もいなくて本当に天涯孤独なら考えないでもないけど、そうでもない限りは引き取れない」

「じゃあ、あの女の子には私みたいになれって言うんですか」

「そういう意味ではなくてだな」

「じゃあどういう意味なんですか!」

 私は机を叩く。湯呑が一瞬浮いて、静寂が伝播した。

「本当ならされて当たり前のことをされないんですよ。行く先々で腫れ物に触れるみたいに扱われるんです」

「慧ちゃんがそうだったかもしれないけど、その少女がそうとは限らない」

「輪廻さんには分かんないんですよ! 私がどれだけ辛かったか、おばあちゃんが死んでからは誰にも祝福されず、笑ってもらえず、疎ましく思われて、家を出た瞬間にせいせいしたような顔を見せつけられる私の何がわかるって言うんですか!」

 輪廻さんの顔は苦しそうだ。喚いている私よりも、何倍も苦しそうな顔をしている。

「確かに私には慧ちゃんの苦しみを分かることができない。だけど、その女の子がちゃんとした人に引き取られることを願うくらいしか」

「ちゃんとした人に引きとてもらえなかったらどうなるかって考えてくださいよ! その末路が私なんです。もう、同じように寂しい子を作りたくないんです!」

 輪廻さんが力なく首を振る。その動作に、私は一層腹が立った。

 おかしい。自分でもわかる。どうして、私はここまで腹が立っているのだろう。止まらなければいけないと思う心と裏腹に腹の底が熱く煮えたぎり、言葉をせき止めることができない。

「輪廻さんに、私の境遇がわかってたまるもんですか! 何がわかるって言うんですか!」

 体の底に溜まった澱を一気にばらまくようにして、私は叫ぶ。輪廻さんは何も答えない。まるで、怒られている子供みたいにしおらしく下を向いてしまっている。何か言って欲しかった。ただ黙って言われるままの輪廻さんなんて見たくなかった。自分からけしかけておいてこんなことを思う私は、本当にどうしようもない人間なんだと遠回しに知らされているようでなおさら腹が立った。

「もう、いいです」

 肩で息をしているし、虚無的になってしまった。言っても、すっきりしないし満たされない。私は背を向けて、部屋へ戻った。


最近、大学祭によってなんかもう書ける時間が全くないです。正直危機感フルマックスデス。さらには靴ズレまで起こしました。これはもうピンチです。助けてください

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