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    独り

「慧ちゃん元気ないけどどうしたの? 生理?」

「杏樹、TPOって知ってる?」

 週もあけた月曜日、私はいつにも増して冴えない顔つきでパソコンと向き合っていた。今は情報の授業で、パソコンの基本的な操作方法やいろはを先生が話している最中だ。しかし全員生真面目に聞いているかと言われれば嘘になる。大半はそれぞれ自分の興味が惹かれるサイトへ足を伸ばし、ファッションのチェックやミュージシャンの新しいCD情報に釘付けである。かくいう私や杏樹も先生の話を件名に聞く模範生とはかけ離れ、顔を寄せ合って雑談に興じる有様だ。

 杏樹の言っていることはもっともで、今日の私は元気がない。なにせ昨日は端役二体と戦って心身共に参っているのだ。私が直接攻撃をするようなことはなかったものの、百華に導かれるまま陽動を請け負ったため、不慣れも疲労の原因だ。仮面を手にした当初と比べたらいくらか自分でコントロールできるようになったとはいえ、依然として無駄な動きが多い。そのせいで疲れも他のメンバーと比べて何倍も大きく積み重なる。逆に百華はなぜあれほどまで軽やかに動けているのか、不思議で仕方がない。

 隣を見れば杏樹も何やらお菓子の情報を調べだしているし、これはもう授業と呼んでいいのだろうか。静かなる無法地帯である。

 そういえば。私は思い出す。あの火事はどうなったのだろうか。周囲が私のモニターを見ていないことを確認して、キーボードを叩く。

 マウス片手にいくつかのリンクを踏んで、ニュースサイトへ飛び込む。

 見出しを見た瞬間、私は絶句した。

【マンションの大火事、少女一名以外生存せず】

 ホイールを人差し指で転がしながら、私は画面に食い入る。何度読み返しても、その少女以外の誰かが助かったらしいという情報はない。そもそも火の手に侵された五部屋のうち三部屋は入居待ちの状態で、もう一部屋は家族旅行で同じく空いていたらしく、実質的な人的被害はその少女の家族だけだったそうだ。

 そして、記事が意味するところはひとつだけ。

 この少女だけが、生き残った。

 他にも様々なページでは私たちのことであろう謎のヒーローや放火魔の話で盛り上がっているものの、少女の両親が無事だという旨は一ミリも見当たらない。

 私の胸から、何かが落ちる音がした。それは達磨だるま落としやジェンガのように抜け落ち、私の心は危ういバランスを保つ。

 言葉をなくした私の肩を、杏樹が叩いた。

「慧ちゃん、慧ちゃん!」

 はっとした私を、先生が気まずそうに見ている。

「調べ物に熱中しているところ悪いんですが、教科書の十二ページを読んでもらってもいいですか?」

 どうやら私は当てられたらしい。教科書を持って、立ち上がる。

 それ以降のことは、あまり覚えていない。


これも予約投稿です。なんとかいい感じに投稿できたらしく、これから帰りが遅くなるであろう日はこれをして家を出ようかと思います。いやー。時代の進歩って凄まじいですね

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