デート⑦
今度こそ取ってやる。ある種執念を滲ませた私と対照的に、杏樹はにこにこと笑っていた。
「どうしたの?」
きっといつもより輪をかけて目つきが悪いであろう私が杏樹を見る。杏樹は、嬉しそうに声をあげる。
「慧ちゃんって教室でもお買い物でもクールで顔がいつも同じだったから最初はサイボーグかと思っちゃったけど、そうやって悔しそうな顔もするんだなーって思うと嬉しくなっちゃった」
私は眼鏡を外して手を顔に当てる。目元や頬の筋肉が、いつもと違って凝っている。自分のことなのにあまり良くわかっていなかったことが、何故か面白くておかしい。私は一度首を回して、片周りの筋肉を無意味にほぐす。杏樹との会話が、いい塩梅に脳の換気を促してくれたようだ。
「これ、絶対とろう」
私からの宣言に、杏樹は元気に頷く。「うん!」
再び機械に向き合って、私はゆっくり考える。根本の戦略を改めない限り、景品ゲットは夢のまた夢。機械の腹へと消えていった五百円玉が教えてくれた、数少ないことだ。
私はぬいぐるみを鷲掴みにする方針を切り捨てる。大局を見よう。
ゲーム内をよく見てみれば、奥へ行くほどに多くのぬいぐるみが積まれているようだ。階段のような段差が、手前から奥への道中で出来上がっている。
「よし」
私は舌で唇を湿らせる。正確に行こう。神頼みはその後だ。
クレーンを奥へと滑らせる。横への移動へ移る前に、一度深呼吸。ごちゃごちゃになったら一度深呼吸して落ち着きなさい。今は亡き、祖母が私に残してくれた教えだ。
左へクレーンを動かせる。狙うは頭ではなく、体。もっと正確に言えば掴むことではなく、ずらすことに全神経を注ぐ。
アームが降りる。ぬいぐるみの脇へと滑り込んだ。固唾を呑んで見守る中、私と杏樹は熱中のあまり顔をガラスに押し付ける。
ぬいぐるみが動く。
「落ちろ」
どっちの声だろうか。とにもかくにも念じる。
「いけ」
拳を固く握り締め、手汗がじっとりと滲む。
ぬいぐるみの左足が大きく浮いた。やったと歓声をあげると同時に、私たち二人の顔が凍りつく。アームになにか紐が引っかかっている。
超ギリギリです。自分でもびっくりするくらいにギリギリですねこれ。ともあれ間に合って一安心。では!