デート⑤
口の端が痙攣する。
「こんなのが人気なの?」
「大人気だよ!」
杏樹の反応は早かった。素早くこっちを向いて、くわっと目を見開く。
「いい慧ちゃん、可愛い女の子になるためには妄信的に流行に飲み込まれちゃダメだし、かと言って流行と無縁でもダメなの! 男の子からその話題が出てきたら、ディープすぎると引かれちゃうし浅くでも反応できるくらいがいいバランスなの! 慧ちゃんもそのくらいしなきゃ!」
「いや」
そもそも、「私、可愛い女の子になりたいなんて言ったことないんだけど」
私の反論は杏樹には届いていないようだ。彼女はいそいそと鞄から淡いピンク色をした可愛らしいデザインの財布を取り出し、百円玉を探し始める。本当に、何から何まで女の子らしくて可愛い小物センスだ。
それに対して……。
私も学生鞄から自分の財布を探す。鞄の中から出てきたのは、黒くてゴツゴツとしたブランド財布。どのメーカーか忘れたが私が十五年生きているうちで一度や二度ほど鼓膜に引っかかったことがあるような名前なので、それらに詳しい人なら絶対に知っているであろうメーカーかもしれない。これは、三年前父方の伯父宅で住んでいた際に買ってもらったものだ。別に私が愛されていたとか甘やかされていたとかではなく、家にいながら手切れ金のような扱いで渡されたことを覚えている。これをやるから、おとなしくしていてくれ、と。あまりいい思い出もないが捨ててしまうにはいささか勿体なさすぎる気がして使っている有様だ。本当なら、年相応で女の子らしい財布に切り替えたほうがいいのかもしれない。そんなことを思いながら、私は財布を鞄にしまった。
視線を戻すと、杏樹が前屈みになって必死にぬいぐるみのポジション把握に勤しんでいた。踵を上げて無理な姿勢を保持しているせいか、スカートがヒップと太ももの曖昧な境界線上まで繰り上がってしまっている。それを公衆の面前で指摘することもはばかられるし放っておいても杏樹がかわいそうなので、私は静かに上着を脱いだ。白黒のツートンブレザーを、杏樹の腰にかける。これで、パンツが見えてしまうようなことはないはず。
ちなみに杏樹のパンツは桃色。本当に可愛らしい限りだ。
硬貨を使い果たしてしまったらしい杏樹が、その場でへなへなと崩れ落ちる。尻尾がすっかり垂れ下がってしまった杏樹が、泣きそうな顔で私を見上げてきた。
「取れなかったよお」
「うん、見てたから知ってる」
今日も遅くなってしまいました。ごめんなさい。ちょっと足が諸事により痛いので、みなさんも正座のし過ぎにはお気をつけください