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    デート③

 ワンピースなんて初めて着るためどう着るのか数秒ほどためらう。その瞬間に、仕切りのカーテンが少しだけ揺れた。杏樹が覗いてくる。

「慧ちゃんそろそろ着れ……あ、例の卑猥下着!」

 試着室の外の空気が、一瞬だけざわめいた。私は中指で彼女の額をしたたかに弾く。要はデコピンだ。痛恨の一撃を被った杏樹は大げさに呻きながら、突っ込んでいた顔を試着室から引っこ抜いた。

「馬鹿なこと言ってないで待ってて。今度覗いたら杏樹の服もひん剥くからね」

 脅迫ともなんともつかない文句を仕切り越しに投げつける。杏樹の殊勝な返事を聞いた私は、安心してワンピースを着る。

「おお」

 鏡で自分の姿を見た瞬間、意図せず息が漏れた。

 悪くはない。そんな思いが、私の中で芳香のように香った。くるぶし付近にまで裾を延ばしたデザインで、全体的には水彩風の花柄だ。淡いツートンカラーがあしらわれており、どことなくアジアンさを匂わせる。

 私は鏡の前で真顔だったのだが、少しだけ愛想よく口角を上げて――上がらない。元々頻繁に笑う性格でもないでいか、最近てんで笑わなくなってきていることも災いしているのか表情筋が硬い。

 私もご機嫌に笑ってお洒落すれば杏樹みたいになれるのだろうか。数秒ほど黙考して、考えるのをやめた。多分無理だ。苦笑が滲む。

 全身を鏡で見ながら、これに似合いそうな上着を考えてみたが全く浮かばない。というより私が持っている服のレパートリーが乏しすぎるため、探せばこの格好に似合う服もあるかもしれないが私は知らない。なにせ概ねジャージやパーカーで済ませるような衣類生活で、杏樹に指摘されるまでワンピースを着てみようとも思わなかったため、何と何を組み合わせたら映えるのかなんて知識は皆無に等しい。

「慧ちゃんもうできたー?」

 杏樹の声で現実に引き戻され、私は曖昧に返事する。左手で、カーテンを横へ。

「おおー!」

 杏樹の興奮したような声が店内に響く。店員さんはさすがプロとでも言うべきだろうか、真っ先に「とてもよくお似合いですよ」と一言贈ってくれた。商売のためとはいえ、言われて不快になるようなものではない。

「どう?」

 私の問いかけに、杏樹が興奮のためか息を荒くする。

「ちょっとポーズとってみてよ」

「どうやって?」

「こうやって!」

 杏樹が鞄を床に降ろし、なにやらポーズをとり始める。私はそれを見よう見まねで、脚や両腕を動かす。

 左手を腰に当てて、右手は後頭部へ。膝も片方は曲げる。

「はい笑ってー!」

 カメラマンのようにコールを送る杏樹の後ろでは、店員さんがにこにこと控えている。私はついさっき笑おうにも笑えなかったことを思い出し、どうしたもんかと考える。

「真顔じゃなくて、笑うの!」

 こんな感じで! 杏樹が自身の指で口角をぐっと押し上げる。要は、そんな感じで笑えという意味なのだろう。私は口の端付近にあるはずの筋肉が上へ釣られるイメージで、顔に力を入れる。なぜか、眉間にしわが寄っているような気がしないでもない。なぜだ。私の顔がおかしかったようで、杏樹は吹き出した。背後の店員さんは、私に背を向ける形であらぬ方を向いている。笑われた私は、店員さんはさすがプロだと感心した。


祝・2000PV!! うわーい! こうやって何かしらの数字で出ると嬉しいですね。この数が多いのか少ないのかは全くわかりませんが、これもひとえにみなさんのおかげです。ありがとうございます。これからも、できれば最後まで、このお話に付き合っていただければ幸いです。よろしくお願いします

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