デート②
ちらり。と、私は杏樹の後ろに控えている店員さんを見やる。どうやら杏樹が店員さんと相談したらしく、サイズも私の身長とぴったりだ。
「なんで私が着るの?」
私の問に、杏樹が猛烈な勢いで食いついてきた。
「だって慧ちゃんその服だよ。華の女子高生がそれじゃあ、お天道様の下だって歩けないよ!」
私は一度、指まで刺されてしまった自分の私服姿を店内に据え置いてある姿見に写す。コーディネイトは灰色のフード付きパーカーに無地の黒Tシャツ。ズボンも、細身で黒い一品だ。これら全部、最近猛烈な勢いで片田舎にすら進撃を繰り広げる衣料チェーン店の安売り品で揃えた一式である。ちなみに服代も叔父や住み着いた先の家の人からもらっていたが、それらを安く抑える事で私は本に捧げてきた。我ながら、立派な戦略だ。ちなみに杏樹の服といえば、鬱陶しくない程度にフリルがついたスカートに丸襟のシャツ。みるからに、女の子の資産を引き出したような装備だ。
「別に、普通じゃないかな」
しかし何かがお気に召さなかったらしい杏樹は、牙すら向きそうな勢いで私に詰め寄る。いつもは間の抜けたコーギー面でも、今回ばかりは迫力があった。さすがの私も一瞬怯む。
「だって全部無地だよ! 流石に何かしらの飾りや模様くらいはアクセントとして欲しいし何よりほら!」
杏樹が私のくるぶし付近を指差す。
「丈が余ってる! 三センチくらい余っててダボダボじゃん!」
「いや、でもこれが安売りのラスト一着だったし……」
「そうじゃなくて!」
ぴしゃりと叱られた。
「慧ちゃんは素材がいい感じに可愛くて格好いいんだからもっとお洒落には気を付けないと、産んでくれたお父さんお母さんにも申し訳ないじゃない」
ぐいぐいと背中を押され、私はあっという間に試着室へ突っ込まれた。要は、一回着てみろということだろう。あの様子じゃ、一回着た姿をお披露目しないことには店を出ることすらままならない。私は渋々、パーカーを体から剥がすように脱ぎ始めた。
シャツも脱ぎ落とし、例の黒下着が包んでいる胸に苦笑する。もう少し、バストに恵まれてもよかったのではないだろうか。もっとも、そんなに巨乳でも揉ませる相手も見せる相手もいない。そう言う意味では、適材適所だ。私の胸は、脂肪にとって適所ではなかったらしい。
さておいて。
「いい感じに可愛くて格好いい……ねえ」
私はひとりごちて、眼鏡を外してみる。上半身を屈めて、鏡に顔を近づける。
目つきはあまりよくない。いや、悪い。口だって輪廻さんみたいに色気があるわけでもなければ俗に言われるアヒル口でもないため、杏樹が何を以て私のことをそこまで買ってくれているのかもわからない。輪廻さんが勧めてくれたヘアカットと眼鏡のおかげで格段と見てくれがよくなったものの、しかしそこまでよいしょされる謂れはない。だなんていうといかにもひねくれているように聞こえてしまうが、事実であるため、いかんともしがたいのが現実だ。敢えて何かしらのセールスポイントをひねり出すとするならば、まつ毛が少し暗い長いだけではないだろうか。あと二重瞼。
しかしそれを言い訳に着ないわけにもいかないので、私はズボンを下ろす。杏樹の指摘は鋭く、着ている本人の私でさえ丈余りのことはすっかり記憶の領外へと放逐されていた。本当に、安さや値段しか気にしていない私とは見ているポイントが違う。
僕はなぜか、よく両刀遣い扱いをされることがあります。顔がそれっぽい顔をしているのかわかりませんし、日々の行いが原因なのかもしれません。今度オフ会があるので、その際に確かめてみようかと思います