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    小春②

 朝食もつつがなく終わり、私はシンクへ自分の食器を放り込む。綺麗な黒髪をポニーテールでまとめている輪廻さんが「ありがとう」と微笑んで、スポンジを巧みに操る。今日の皿洗い当番は、輪廻さんのようだ。

 私はなんとなしに広間を覗き、様子を伺う。タンポポはいつものように自室で惰眠を貪っているし、龍馬さんも室へ引っ込んでいる。百華は、何かしらの朝アニメを観ているさなかだ。私は再び、広いキッチンへ引っ込む。

「輪廻さん」

「なに?」

 輪廻さんは両手を素早く動かしたまま、次々と皿を綺麗に磨きあげる。私は一度息を吸って、訪ねた。

「小春って、誰なのか訊いたことありますか?」

 水の流れる音だけが、白々しく炊事場に響く。時間にすると五秒くらいの間でも、私にとっては五分にも十分にも感じられた。

 にこりと笑った輪廻さんが、水道を止める。

「何の話かな」

「今日タンポポを呼びに行った時に、タンポポが寝ぼけながら」

 輪廻さんは深くため息をつく。

「慧ちゃんが気にすることでもないよ。大丈夫」

 輪廻さんの手が伸びて、私は身を固くする。なにかされるのかと身構えていた私だったが、予想に反して頭を撫でられた。

「慧ちゃんにとっては困ったことじゃない」

 その口調は、聞き方や捉え方によっては落ち葉を箒で掃いているような響きもあった。何かを、早く片付けたがっている。

「おっと、今日は安売りの日だったね」

 勘繰りをしている私から逃げるように、輪廻さんがキッチンから抜け出す。

「私は今から買い物へ行ってくるけど、慧ちゃんは何か欲しい?」

「いえ」

「そう。じゃあ、行ってくるよ」

 台所に一人取り残された私は、ぼんやりと天井を見る。なんというか、煙に巻かれたというかうやむやにされてしまった。いつまでもここにいても仕方ないので、部屋に戻って一度考えてみることにした。

 コップに注いだコーヒーを片手に、私は考える。視線を適当に巡らせた際に昔の、それこそ私が一歳や二歳の時に撮ったらしい家族の写真がフレーム付きで立てかけられており、不覚にも微笑む。父も母も、時代の流行による感性の差異はあれど顔はなかなか整っている。私の父と母はこんな顔だったのかと確認するにつれ、もしかして私は橋から拾われた子なのではないかと考えればまた笑えてきた。コップを置いて、腕を組む。ただ正直に言うと、詮索されることが好きではない私はこれに関してあれこれと探りを入れていいのかと思うところも、ないではない。だからもしもう一度拒否の姿勢を示されたら、金輪際絶対にその小春さんとやらのことを訊かない所存だ。


今日は台風で講義がありませんでした。わーい! もとより、僕は水曜日講義一つも入れてないんですけどね。これはもう許しがたいですね。今来んなよ、みたいな

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