小春
土曜日の朝。珍しくタンポポが朝食の場にいなかった。いつもならせっせと食器を運んだり台を拭いたりしているのに、彼のいない朝飯前は何とも静かだ。
「タンポポは?」
訊かれた輪廻さんにもわかっていないのだろう。首をかしげて、唸る。
「ここにいないってことはまだ寝ているんじゃないのかな。慧ちゃん、ちょっと起こしてあげてくれないかな? 昨日は帰りが遅かったみたいだし」
昨日。その言葉を聞いて、私は思い出す。昨日の少女や被害者たちはどうなったのだろうか。無事に、両親と会うことはできたのだろうか。足の裏で階段を鳴らしながら、私はぼんやりと考える。
部屋を軽くノックする。返事はない。私は仕方なく部屋へ入った。
「起きてる?」
タンポポの部屋は、なんとも男臭い部屋だった。別に異臭がしているわけではないのだけれど、見るからに男の部屋だとわかるお粗末さだ。物は少ないながらも、いろんなものが床に散らかっている。各々が好き勝手に散乱している世界で、その男は眠っていた。周囲の状況から察するに、寝る間際になって慌てて布団付近で鎮座している物を除けたのだろう。布団周辺だけ、妙に空間が出来上がっている。
私は周りのガラクタを踏んで潰してしまわないように気をつけながら(人のものということもあるし、何より踏むと痛い)、そっとタンポポのもとへ近づく。腰をかがめて、私は彼の肩を掴んだ。
「もう朝ご飯だから、起きてってば」
五秒ほど揺らせば反応は返ってきた。タンポポが大きく唸り、一度目をぎゅっと瞑る。そして、ゆっくりと目を開けた。
「おお、小春か」
まとまらない声で、タンポポは大きなあくびを一つ。
「うん、みんな待ってるから……」
ん?
私の思考は躓いた。首をひねって、ついぞさっきの言葉を思い出す。
「待たせて悪かったな、慧。行くぞ」
私の頭を撫でたタンポポは、寝巻きのまま部屋の外へ出る。豪快に階段を下りる音を聞きながら、私はぼそりと漏らした。
「小春って、誰?」
なんとなく物語が動き始めたんじゃないでしょうか。そんな感じの今回です。そして台風すごいですね。明日は講義がひとつもないのでこられても逆に困ります