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    救出

 三人揃って跳んだ。部屋に転がり込んだ私たちを迎えてきたのは、勿論火だ。舐めるように穂先を揺らす火に、私たちは一瞬だけ怯む。

「一酸化炭素中毒に気をつけろよ」

 タンポポの警句を耳に押し込み、私は扉を蹴る。私の力が強かったのか火で室内全体が脆くなっていたのか、扉は驚くほど簡単に吹き飛んだ。部屋に入る。叫ぶ。

「誰かいる!?」

 結論から言えばいた。それも、五歳くらいの女の子だ。部屋の隅で、頭を抱えて丸くなっている。窓は元から開いていたのか少女が機転を利かせたのか、開け放たれていた。そこから煙が逃げ出しており、少女は幸いなことに一酸化炭素に毒されていない。ただ、心はどうなのかはわからない。

 私は駆け寄って少女を抱き寄せる。声とも呻きともつかない嗚咽を漏らす少女の背中を撫でながら、私は尋ねる。「パパとママは?」

 首を振りながらわめく少女を見て私は察する。少なくとも、少女が知る由もないようだ。私は何か気の利いた言葉一つも言えないまま、無言で抱きしめる。

「大丈夫。お父さんとお母さんも助けてあげる」

 言っておいて、これはまるで自分に言い聞かせているようだと思った。それほどにまで、私の声は優しかった。

 想像以上に軽い少女を抱え上げ、私は周囲を見渡す。とにもかくにも、まずは一人を助けないと。三人一気に助けているさなかに死んでしまうなんてことは避けたい。堅実に、一人ずつ助ける。

 逃げる算段を整えている私の虚を突くように、背後から箪笥たんすが押し寄せていた。炎に包まれたそれは家具というよりも、墓標だと思った。

「止まれ!」

 叫ぶ。目を細め、力を込める。たったそれだけで箪笥は止まった。特殊アクションで使われるワイヤーでひっかけたようだが、私の力によるものだ。前かがみで凍結している箪笥を見届けながら、私は少女に囁く。

「しっかり掴まってて」

 上着に皺が寄った。紅葉のように小さい手が、必死に私の服を掴んでいる。

 私は目を動かせて、真後ろに窓があることを確認する。膝を折って、重心を後ろへ落とす。体がやや後ろへ傾いた瞬間を見計らって、一気に脚を伸ばした。銃弾のように跳び出した私は背中で窓ガラスを粉砕し、その体を宙へ投げ飛ばす。女の子が、一層強く私の服を掴む。

 ふ。と、息の抜ける音がした。浮遊感が、一瞬だけ私の下腹部付近――丹田たんでんを持ち上げる。直後に重力が、体の中心に引っかかる。私は地面に対して腹を向けるように転換し、もう一度目に熱を込める。狙うは、少し大きなガラスの破片だ。

 五センチ四方くらいのガラスが、空中で固まる私は指を切らないように注意しながらもガラス片に指を引っ掛け、足を下に。同じように何回かガラスを保留させ、小刻みに足をつける。階段を下りる要領で徐々に下へと飛び降りる。

 やっとアスファルトに足をつけて、私は少女を下した。ショックか安堵か、女の子は眠ってしまっている。気を失ったといったほうが正しいのかもしれない。

「慧」

 タンポポの声だ。振り返れば、二人はもう仮面を外している。さっきまで炎の只中ただなかにいたせいか、体中に疲れと煤が張り付いている。


電車少ないですね。十一時くらいになれば。ごめんなさいいいわけです。日付をまたいでしまってお許し下さい! 次からはもっとしっかり更新できるよう頑張ります

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