ハイスクール
高校生活が始まって早三日。私は、先ほど終えた数学の教科書をしまっていた。今日はガイダンスのようなものばかりやっており、勉強らしい勉強はしないようだ。かけていた眼鏡を外し、机上へ転がす。
鞄を膝の上において、私は弁当箱を探す。ちなみになんと、弁当が購買で買わずに龍馬さんが作ってくれている。どうやら彼は料理や一人で淡々とこなす作業が大好きらしく、私の弁当も進んで買って出てくれたのだ。浮いたお金で誰の本を買おうか。それを考えるだけで、私の心はスキップを刻む。私の精神状態が弾んでいるせいだろうか、周囲のおしゃべりやざわめきも、昨日と比べれば二割増くらいで騒がしい。それとも単に、時間の経過に沿って互いに打ち解けて徐々に内なる自分を見せているだけなのかもしれない。
弁当箱の蓋を開けて、両手を合わせる。そのタイミングを計っていたかのように、私と向き合う形で一人の少女が座り込んだ。
「おはよ!」
「こんにちは」
入学式の日に席が近く、幸いなことに友人関係を結ぶまでにこぎつけたクラスメイト――川瀬杏樹だ。元気そうな瞳と声色は、面白いくらいに私とは真逆である。そんな彼女は焼きそばパン。彼女のお気に入りらしい。ちなみに仲良くなった原因とは、私が持っていた飴を偶然隣に座っていた彼女にあげたこと。それ以来、すっかり懐かれてしまった。
「ねえ卑猥下着ちゃん」
「あのさ、」私は前置きを据えて、言う。「その呼び方何とかならない?」
一応言っておくと私の苗字は“卑猥”じゃないし、名前だって“下着”だなんてふざけたものではない。今は亡き父と母が多分それなりに必死な顔して考えてくれたであろう名前がある。断じて、私の姓名は卑猥下着じゃない。
すると杏樹はほよっと首を傾げる。「だって、卑猥だったじゃん。下着」
私が彼女からこう呼ばれる所以は、なんとも浅ましく安直なのりだ。入学二日目に身体測定があり、その際に体操服へ着替えるのだが私は当時黒色の下着を着ていた。理由なんてそれだけである。それ以上の由来はない。しかし杏樹はその語感を大変気に入ってしまったらしく、一日経った今でも引きずっている。
「せめて、ほかの人がいる教室ではそれ禁止にしない?」
男子の目だってあるわけだし。
この発言は少々自意識過剰だったかと反省するが、誰だってそうだろう。公共の場で、みだりに下着の話なんてするものではない。女しかいないような女子校内でならまだしも、一応男がいるのだ。私の下着の色に興味を示す人間がいるのかどうかは全く別の次元の話として、それなりのTPOは持って然るべきだろう。
すると杏樹は、また首をひねる。
「じゃあ二人きりならいいの?」
「そういう問題でもないんだけどね」
頭が痛くなってきた。
なんと、閲覧数1000超えました。めでたい! やっほーい! これも全部みなさんのおかげですので、これからもみなさんの期待を裏切らない作品を書けるよう頑張ります