由来②
龍馬さんは、相も変わらずゲームをしていた。やっているものは先日私が輪廻さんからお遣いを承った、甲冑の戦士が戦場を駆け抜けるゲームだろう。龍の腹に剣を突き刺したところで、ゲーム画面が凍りついた。龍馬さんがスタートボタンを押したらしい。
「なにか?」
淡白な問いかけに、私はドア付近で機嫌を伺う。
「今って、お時間あります?」
携帯電話で時刻を確認したらしい龍馬さんが、「ん」と頷く。これは、是と受け取っていいのだろうか。先のタンポポみたいに追い払うようなことをされないため、私はおずおずと部屋に入る。私からは死角になっていたのだろう。百華が、龍馬さんの膝を枕にして寝ていた。
「何か用?」
素っ気ない対応に、私は腰を下ろして尋ねる。
「龍馬さんって、どうして仮面が出るようになったんですか?」
「師走には訊かなかった?」
「こういうのは本人から聞いたほうがいいだろうって」
その意見も一理あると感じたのだろう。龍馬さんは自分の手を組んで、俯きがちに話し始める。その声は、いつも通りぼそぼそとしていながらも聞くのに苦しない独特のものだ。
「T大学って、聞いたことある?」
「ええ、まあ」全国的にも、知っている人はそれなりに多い大学だ。新高校生の私でも知っているくらいだから、その知名度は凄まじいといってもいい。「それがどうかしたんですか?」
「そこの学生だった」
「誰が?」
「ん」
龍馬さんが、龍馬さん自身を指差す。
失礼ながら、私はぎょっとした。「龍馬さんが?」
この時の私はさぞかし礼を欠いた小生意気な女子だっただろう。しかし龍馬さんは取り乱すでもなく、顎を引いた。
「親が教育熱心で、やけにその大学に行かせたがっていたから」
そこからの話を端折るなら、以下のようになる。
教育熱心なご両親は何が何でも龍馬さんをT大学に入れたかったらしく、手間も暇もお金もかけて満身創痍の現役合格。しかし喜んだのも束の間で、限りなく補欠合格に近い順位で滑り込んだ龍馬さんにとっては日々の講義ですら異次元級だったそうだ。そして見る間に成績を落とした龍馬さんを見て両親は嘆き、ひどく罵ったそうだ。それ以来、勉学以外でも何かしら期待されることが龍馬さんにとって大きな負担になっているらしい。
「だから、放っておいて欲しいんだ」
俯いた顔を上げることなく、龍馬さんは話す。「できれば、いないものとして扱って欲しい」
それが仮面の所以なのか。私は納得する。確かに龍馬さんの仮面は存在を認知されにくくするものだから、期待されずにひっそりしていたいという望みには即しているだろう。
龍馬さんの話がひと段落したところで、私は健やかな寝息を立てている百華を見る。
「百華の仮面って、由来をご存知ですか?」
私の質問に、龍馬さんは頷いて答える。続きを聞きたがる私の顔を見て、龍馬さんが話し始めてくれた。
「百華は父親からの虐待が激しかったらしい。時と場合によっては、幼いながらも死ぬかと思ったらしい。それが、百華の仮面の所以だと」
「百華も、結構大変な経歴があるんですね」
私がため息に混ぜて吐いた言葉に、龍馬さんは頷いてくれた。
「仮面を持っている人は、それぞれ違うながらも何か心やいきさつに問題を持ってる人が多い。輪廻が言っていた。輪廻は君に仮面持ちの才能があるってよく言ってるけど、実際はどうなんだろうね。焦らなくてもいいよ」
龍馬さんが思わせぶりな言葉を私に載せて、ゲームを再開する。龍の腹に突き刺さった剣を引き抜き、またたく間に倒してしまっていた。これ以上、私と会話をする気はないらしい。
私は百華を起こさないようにお礼を言って、部屋をあとにした。
超ギリギリせーふでした。大学の行事って大変ですね。大学生は暇人が多い。と、高校生の頃大学の先輩が言っていましたが今では彼をはっ倒したい気分です。誰だよ。学生は暇だなんてデマ流したの。さておき、結果よければなんとやらなので安心しました