由来①
「俺の仮面の由来?」
朝食の片付けも済ませ、広間で寝転んでいたタンポポに声をかける。基本的に日中は端役と戦わないらしく、こうしてのんびりと彼は過ごしている。輪廻さんも自室へこもって寝ているし、龍馬さんは皿洗い終了と同時に自室へと足を向けてしまっていた。百華はそんな龍馬さんの後をちょこちょことついていき、なんだかアヒルの親子のように見えたことは秘密である。
近くにあった座布団を二つ折りにして、タンポポはそこへ頭を載せる。
「俺の仮面かあ……」
染み込ませるように呟いたあと、ぼそりと答える。「俺の場合、守りたいって思いが強いんだろうな」
「はあ」私は考える。「つまり、どう言う意味?」
「昔の輪廻は泣き虫だったからな。それが結構長い間続いたもんだから、俺が守ってやるんだって使命感が始まりなんじゃないか。俺も詳しくはわからないんだ」
「ちょ、ちょっと待って」
今、新しい事実を知った。「二人って付き合い長いの?」
「長いな」
確かめるように、タンポポは指折り数える。
「十二歳くらいの頃には、もうお互い知ってたしな」
意外な情報だった。私は身を乗り出すようにして、さらに訊いてみる。「どこで会ったの?」
「ここ」
そう言って、タンポポは部屋の床を指差した。私は、意味を理解するのに数秒だけ要した。
「……ここ?」
「うん、ここ」
差し込んでいる陽光に照らされる顔には、冗談の色がない。
「二人はアパートで知り合ったの? 十何年も前の?」
一体どれだけ昔からここの荘長をやっているのだろうか。謎は深まるばかりである。
「違う違う。ここも昔は旅館だったんだ」
新事実の目白押しだ。目を丸くする私に、タンポポも驚く。
「あれ、その話って聞いてないか?」
「初耳」
「そうか」
てっきり輪廻あたりが説明しておいてくれたもんかと思ったけど。
そう漏らして、タンポポは姿勢を変える。顎を座布団に載せるような形で、くつろぎの極みだ。
「ここも昔は旅館で、一人のジジイが切り盛りしてたんだよ。ビジネスホテルって言うか、まあ、気軽に泊まれますみたいな民宿だな」
タンポポは続ける。
「で、昔の俺はとにかくやんちゃだったからな。昔のここはいわるゆるちょっとした更生施設も兼ねてたらしくて、見かねた親が俺をここへぶっこんだんだよ。で、輪廻がいた」
どうやら、私がここに来た際に抱いた違和感に狂いはなかったということだ。今こうして私が座ってタンポポが寝ている広々とした部屋も、小規模な宴会場のような雰囲気がないでもないし、何より外観がただのアパートではないことを雄弁に物語っている。
「そのジジイって人は?」
「死んだ。老衰だってよ」
さらっと返すタンポポ。湯呑みでお茶をすすり、喉を潤す。
「で、持ち主を失いかけてたこの建物を俺たちが預かって舞踏荘にしたってわけだな」
「じゃあ、荘長歴は結構長いんだね」
「ん、まあ、長いっていうかなんというかだな……」
良くも悪くもハキハキとしているタンポポにしては珍しい対応だった。鼻の頭をポリポリとかいて、答えを探している。
「まあ、少しくらいは荘長歴もあるかな」
答えたタンポポは拗ねるように手を振って、私を追い払う。
「俺は寝るから、龍馬んところに行って訊いてみたらどうなんだ。俺が話してやってもいいが、こういうのはできるだけ本人の口から聞いたほうがいいし、言って惜しくない場合もあるからうっかり話せないんだよ」
珍しく投げやりなタンポポを尻目に、私はゆっくり立ち上がる。やかましい鼾を中断させないように注意を払いながら、私は広間をあとにする。
やばい。更新している最中に、ふとこう呟いてしまいました。何がやばいって、更新ペースが毎日過ぎて今のストックがほぼなくなりかけていることに対して焦りを隠せません。これはピンチです。逆に言うと、毎日更新しているマメさの表れなのかもしれません