回想
今までの中で大人の怒鳴り声を最も多く聞いたのはいつ頃のことですかと訊かれたら、私は胸を張って答えることができる。五年前に祖母が死んでから少ししてからのことだろう。
祖母が死んで葬式もそれなりに済ませた時に、親族一同の中ではある大きな問題を抱えていた。それは、私の処遇である。両親を亡くしてから七年間祖母に可愛がられ、十歳になった私を、誰が引き取り育てるのかという現実的な話だ。私しかいなくなってしまったマンションの一室で初めて会うような大人たちが上がり込んできて、唐突に私の存在を押し付け合った光景は今でも記憶に新しい。どの家もあれだこれだと理由をつけて、私を遠ざけたがっているさまは見ていてある種痛快でもあった。そうか、お前たちはそんなに私が怖いのかと。喩えとして適切なのかはさておいて、誰かが捕まえてきた虫を見るやいなや一目散に逃げ出す幼稚園児にも見えた。
大体一週間くらい、私と祖母の生き様が残されたマンションで散々罵り合った挙句、私は一年周期で様々な親族を渡り歩くことに決まったらしい。私としては正直どうでもよく、ただその時は年相応に友達と離れてしまうことが辛かった。もとより友達が多くないタイプであるため、新天地でさくっと友達を作れる保証もないからだ。
――慧ちゃんいらっしゃい。ここが今日から君の家で、俺たちが新しい家族だ。
三軒目の、父の弟にあたる人がそういったのを覚えている。同時に、鼻で笑ったことも覚えている。どうせ一年でどこかまた違うところへ行かされるのだろうと、先の二回で学習していた。だから私は大きな期待を持つわけでもなく、事務的に頭を下げる。叔父が一見和やかに私を迎え入れているよう見せたのは、さすが大人だと心の底から思ったりもした。
そんなふうに苔を生すこともできずに屈折した成長期を経たせいだろう。私の中には、宣言にも似た言葉が生まれた。
あんな大人になりたくない。私だけ、時間が止まってしまえばいい。
これはなしの核心に触れたり動き出す乗っていつになるんだろう。そんな不安を抱えながら執筆しております。僕の小説は、毎度毎度スタートダッシュがもっさりするそうです(友人談)