商店街
「そういえば、訊こうと思っていたことがあったんです」
車から降りて、私は一番に口を開く。輪廻さんが、にこやかに私の言葉を待っている。
「なんで、輪廻さんは日中戦った男の居場所を知っていたんですか? 今回も、なんで端役が出現する場所を知っているんですか?」
「警察とのコネだよ」
それが当然。そんな響きすらあった。
「端役の場所も警察から情報を横流ししてもらっているし、人間の情報だってもらっている。私は確かに警察に協力をしている立場ではあるが彼らの犬ではない。あくまで生きている身として対等な関係を望んでいるから、私は彼ら組織を全力でこき使う所存さ」
私たちだって利用されているんだから、おあいこってやつだね。
そう付け足した輪廻さんは横目でタンポポを盗み見たあと、私の腕を引っ張った。いきなりのことで対応できなかった私は、あっという間に輪廻さんに引き寄せられる。
私の耳に押し込むような声色で、輪廻さんが囁く。
「私が人間の仮面持ちを懲らしめていることは、どうか黙っていてくれないかな」
「なんでです」
「タンポポはそのことを知らないし、何より知られたくないんだ。あいつには、そんなふうに仮面を悪用する人間がいるという現実を知ってほしくない。知ると、きっとあいつは悲しむからね」
私もタンポポを横目でちらと見る。全くと言っていいくらいに付き合いのない私だけれど、輪廻さんがそうやってしていることを知ったら――私欲のために仮面を使っている人間がいるということを知ったら嬉しくはならないだろうということは分かった。
私がタンポポに告げ口しない意思を固めるタイミングを見計らったかのように、輪廻さんが言葉を添えた。「あいつには、そういった汚い部分には無縁でいてほしいからね」
「端役はここら辺にいるらしいからな。みんな気をつけろよ!」
タンポポの号令に各々の返事を投げつつ、私を含めた五人は行進をはじめる。ロケーションは、寂れたシャッター街だ。日中は微々たる人がいても、夜になると世界から置き去りにされたかのように寂しい。年季を経て古びたシャッターが、盛んな景気を懐かしんでいるように見えてその物悲しさを助長させている。シャッター街の外れを走る車の音が遠いせいか、本当に世界中から置いていかれたような気もした。
「手順はいつも通りに。大丈夫か?」
「私はいつでも」
輪廻さんは冷静に返す。
「前に同――」
「だいじょうぶ!」
百華はお腹いっぱいにご飯を食べた後だから眠いのだろうか、目元を頻繁にこすっている。しかし、返事は元気だ。どのくらい元気かというと、龍馬さんの言葉を遮って打ち消してしまうくらいには。
輪廻さんが仮面をつけて、転送の準備を始める。そのコンマ数秒後、私の視界に白が走った。
「輪廻」
「わかっている!」
遠い車の音が消えた。私は感覚的に悟る。輪廻さんの能力が、発動したのだ。
今回はちょっと強引に切りました。時に、みなさんって書いてる途中でなんか飽きちゃうことってありますか? 久保は飽きっぽい性格なので、ここら辺の中盤一歩手前付近が最も作者事情的に苦しいです。だからなんだって話ですが、頑張ります