「竹取の」第30夜<晦日>(最終回)
いつも「竹取の」をお読みいただきましてありがとうございます。
大団円を迎えたサクヤ姫たち。しかし、本当の解決は遠い先になるかも知れない。神のみぞ知る世界である。
そして、瑠璃たちは平和な日常に戻る。はたして瑠璃の恋の行方は?
ファンタジーSF小説、ついに最終話です!
そのままどうということない話を二人でお喋りしているうちに、いつの間にかまた眠っていたらしい。次に気がつくと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。隣にはちいちゃんが軽い寝息を立てながら寝ていた。軽いウェーブのかかった髪が朝日の光線を受けてにうっすらと金色に光る。鼻が高いなー。肌が綺麗だなー。なんて眺めているうちに、ちいちゃんが寝返りをうった。
「……朝?」
目をうっすらと開いてわたしに訊いた。
「みたい。もう結構いい時間かも。起きる?」
「うん」
二人で一緒に、せいので起きた。二人とも昨日の服を着たままだった。わたしたちは顔を見合わせて笑った。それから部屋を出てリビングに向かうと、すでに先生と亮くんが朝食をとっていた。
「おはよう。瑠璃ちゃん、大丈夫かい? もし具合が悪いようなら病院に?」
「いえ、大丈夫です。あの……先生、色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
わたしは改めて謝罪した。結局先生には色々お世話になってしまった。
「全然気にすることないよ。瑠璃ちゃんのせいじゃないし。
前にも言ったけれど、取材だと思ってるし。というか、実は今回のことを新しい作品にしようと思ってるんだ。……まあ、二人とも座りなさいな」
わたしたちは二人揃って席についた。美貴さんがそれぞれに朝食のセットをしてくれる。
「あの……それで、どうなったんですか? わたしは途中から覚えていないし、ちいちゃんに聞いたら、全部終わったって……」
その新しい作品とやらは気になるのだけれど、とりあえず、昨夜の顛末だけは聞いてみたい。
「うん、そうだね。先の話をするより昨夜の話をとりまとめなければだね」
先生は胸元からいつもの手帳を取り出して、テーブルの上に置いた。
「これはサクヤ姫から聞いた話ではあるけれど……」
と、前置きして、テーブルの上に置いた手帳を開くまでもなく話を続けた。
「イワナガヒメは富士山に戻り、アメツチ王も月に帰った。それぞれあるべき処に戻ったというところか。アメツチ王は月に戻ってツキヨミを説得すると言っていた。いずれツキヨミの怒りが解消することになれば、イワナガヒメも月に戻れるかも知れないと王は言っていたそうだ。それまでは富士山はしばらく活火山であり続けるだろうけれど、と」
「いつまで続くんでしょうか?」
「さあてね。100年なのか、1000年なのか。何せ神様の時間の流れはボク達とは桁が違うからね」
確かに、神話の時代から永遠と続いてきたすれ違いがようやく解消したばかりなのだから、月の神様の機嫌が直るのにもまた永遠に近い時間がかかるのかも知れない。
「サクヤ姫は?」
わたしは一番気になっていることを訊いた。
「まだキミの中にいるよ。サクヤ姫と瑠璃ちゃんは一心同体みたいなものだからね。ただし、自らを封印し前と同じように繭の中にいるから、一生出てくることはないとは言っていたけれどね」
「ああ……そうなんですか」
姫には悪いけれどわたしはちょっとがっかりした。一心同体。確かに姫もそういうような事は言っていた。けっして切り離すことができない魂の関係なのだろう。何事もなければ、もう二度とあの繭から出てくることはないのか。
「そして、さっきのボクの新作の話なんだが。サクヤ姫によると、活火山である富士山の噴火を完全に止めることはできないけれど、ただ一つだけ、その活動を弱めるというか抑える方法があると聞いたんだ」
亮くんが横で頷いた。さっきまでその話をしていたらしい。
「今の伝説によると、富士山はコノハナサクヤヒメの化身とされているけれど、実はそれはイワナガヒメだった。つまり信仰されるべき神が違うということなんだ。本来はイワナガヒメが祀られるべきところをサクヤ姫が祀られている。確かに水の神であるサクヤ姫が富士山、つまりイワナガヒメを抑える力はあるのだが、それは完全ではない。では、どうしたらいいか。それは、イワナガヒメが富士山にいるという信仰を信じる者が増えればさらに富士山の活動を抑えることができるということだった」
「それで、先生は新作でイワナガヒメにまつわる話を書いて出版すれば、ファンの人達に富士山に参拝に行かせるようなことができるんじゃないかって」
亮くんは補足した。
「最近じゃ、『聖地巡礼』ていうのがあるんだってね。次の新作は前にも言ったけれど、中高生向けの作品になる予定なんだ。これが映画化とかアニメ化されれば、一気にそういうファンが増える可能性もある。実はイワナガヒメは美人だったなんて説だと、イマドキの子にはウケるんじゃないかと。これは、段逆くんのアイディアなんだけどね」
「さすが、厨二……」
ちいちゃんはくすくすと笑って呟いた。
「こら、ちい!」
「いや、そのアイディアはいいと思ってる。例えば、今更『古事記』や『古今和歌集』の新解釈をボクが発表したところで学会では誰も信じる者はいない。かと言って、今回のことをそのまま世間に公表するわけにもいかないだろう。けれど今のボクの実力なら、新作を実写化にすることは無理にしてもアニメ化くらいならいけるんじゃないかと思ってる」
軽くアニメ化とか言えるところがさすがに人気作家といったところなのだろうか。
「まあ、それでどの程度の人達がファンになってくれるかは未知数だが、ボクにやれることと言ったらこれくらいのことしかないからね」
「それ以上のことができる人なんていませんよ」
亮くんは断言した。それはわたしもそう思う。
「という訳で、キミたちをモデルにした作品を書いて発表したいんだけれど、許可もらえるかな? もちろん名前も舞台もまるっきり変えるし、脚色も入れるし、ストーリーとしては全く異なったものになるけれどね。ただ、発想の元となったこの事件はキミ達が関わってきたことだから、一応は確認をと思ってね」
「それは……」
これだけお世話になった恩人に断ることなどできるはずもなく。またそれで少しでも富士山の噴火が先延ばしにできるのであればいくらでも協力はすべきだとは思う。
「もちろん。わたしたちがどうのと言えることではありませんし」
「ぜんぜん、かまわないと思いまーす!」
一瞬口ごもったわたしに対して、ちいちゃんはなんの躊躇もなかった。
「よし決まった。もうプロットはできてるんだ。あとは出版社との打ち合わせで、オッケーが出れば、早速執筆にとりかかるとしよう」
先生は手帳を胸元にしまって元気に言った。
「じゃあ、朝食を食べたら出発しよう。帰るよ」
それから先生のポルシェで帰宅の途についた。
連休明けのクラスは全く以前の通りに戻っていた。まるであの時のことをみんな忘れてしまったかのように、男子は一様にわたしの前を空気のように通り過ぎていったし、告白してきた数名もすっかりわたしのことを忘れてしまったかのようだった。それに伴って女子からの意地悪もなくなり、それ以前の空気に戻っていた。
その後、亮くんと話をする機会がめっきり減ってしまった。亮くんは毎日放課後は予備校通いだったし、もちろん夏休みも休みなく通っていたらしい、ということはちいちゃんからは聞いていた。どうやら志望している大学はわたしの思っていたよりずっと上のランクらしく、亮くんでさえかなり頑張らないと難しい難関校なのだという。ちいちゃんでさえ、滅多に会わないという。
「もうね、完全にレアキャラね、あれ」
「なにそれ」
わたしはちいちゃんの言葉に笑った。けれど、少し寂しかった。どうもわたしには亮くんがわたしのことを避けているようにしか見えなかったから。時々見かけても、気がつかないフリをしているようにしか見えなかったし。もしかしたら、単なる被害妄想なのかも知れないけれど。でも、時々ちいちゃんが両親から聞いた話を元に状況報告してくれたりするのが支えだった。
「もしかしたら、卒業まで黙ってるつもりかも、あの唐変木」
時々亮くんへの不満を漏らしたりしてるちいちゃんをわたしは微笑ましく見ていた。
「でも、瑠璃ちゃんのこと気にしてるから。わたしの勘は絶対だからね」
と、わたしを安心させようとしてくれるちいちゃん。でも、さすがに秋を過ぎることになると、わたしも若干諦めかけていた。どの道、亮くんは進学で東京へ行くわけだし、わたしは地元の短大にほぼ決まりなんだし。
それに、ちいちゃんが言うとおり少しでもわたしのことを想ってくれているなら、こんなに放っておくことができるものなのだろうかと思ったり。ちいちゃんの応援を受けてもやっぱり悲観的な考えにしかならない、悶々とする日々が続いた。時々学校内で亮くんを見かけても、こちらに視線を合わせてくれなかったこともさらに拍車をかけていた。
それから数ヶ月が過ぎ、年末の声が聞こえ始めた頃、そろそろ志望校を決定しろと先生に迫られたり、模試を受けたりと立て続けに多忙な日々を過ごしていたある日。亮くんからメールが入った。
『浦城先生の本が出た。同時にアニメ化も決定したらしい』
と、ごくごく簡単なメールだった。短いメールではあったけれど、わたしのこととか、あの出来事を忘れてしまったとか、そういうことではないことが分かって、少し嬉しかった。
『お知らせありがとう』
とまで返信を打って止まった。その後に色々聞きたいことが沢山あったはずなのに、なんて打てばいいのかが分からない。色々迷って、そのまま送り返した。ひどく素っ気のない返事で気分を害したのではないかと心配するくらいだった。ところが、その後にすぐにまた返信がきた。
『クリスマスイブに会えないか?』
また短文だった。わたしはドキっとした。これって期待していいことなんだろうか。いや、半年もまともに会ってない相手に何を期待しろというのか。わたしはまた悩んで、短い返事を送った。
『いいよ』
送り返してから、すぐにアドレス帳からちいちゃんの電話番号を検索して、電話をかけた。
「それ絶対、告白だから! 絶対OKするのよ!」
ちいちゃんは元気にそう言った。電話の向こうでサムズアップする姿が想い浮かんだ。ちょっと後ろめたさもないわけではなかったけれど、あの夜二人で語った二人の想いに偽りはないと確信して。
────────そしてクリスマスイブの夜。
「あのことは、ちいには内緒なんだ……」
亮くんは顔を赤らめながら、開口一番にそう言った。予備校が終わってから会ったので、すでに外は暗かった。
わたしたちは、駅前のカフェで会った。外は昨夜降った雪がうっすらと路面を白く染めている。このカフェは以前に亮くんと一緒に来たことがあった。今度は奥のテーブル席に座っているところが違うけれど。
「あのことって?」
わたしは最初何のことか分からなかった。
「竹泉、見てたんだろ?……その……俺とちいが……いや、アメツチ王とイワナガヒメの……キス……」
「え!」
思わず大声が出てしまった。
「あ、ごめんなさい」
わたしは俯いて黙った。顔が紅潮しているのが自分でも分かった。
「やっぱりか。見てたんだな…。実は俺もあの時意識があって。なかったのはちいだけらしい」
あ、そうなんだ。ちいちゃんだけ? 亮くんは覚えているのに、ちいちゃんだけ知らないってこと、あるんだろうか。
「竹泉から言ったか? その話?」
わたしは俯いたままブンブンと首を振った。実は言いかけたとかはここでは言えない。
「そっか。じゃあ、それはずっと黙っておいてくれ。なかったことにするっていうか」
わたしはコクコクと頭を縦に振った。
「あ、今日話したいのはその事じゃないんだ。……その、サクヤ姫って、あれから出てくるか?」
「サクヤ姫? ううん。あれからは全然でてこないよ。夢にもでてこなくなったし」
「そっか。ならいいんだ……」
わたしはちょっとだけ頭を上げた。亮くんはわたしから目線を外して、壁の方にやった。なんとなくそわそわしているように見える。
「あの……さ。……今言うべきことではないのは重々承知してるんだが……」
一旦外した目線をまたわたしに戻して、亮くんは口ごもった。それから、目を白黒させて、思い切ったように口を開いた。
「俺と付き合ってくれないか?」
わたしは、頭が真っ白になった。
まるで宇宙空間にでもいるような、ふわふわした感覚。
え、何? 今なんて言ったの? マジ? 信じられない。あり得ない。聞き間違い? 勘違い?
わたしの頭の中を色んな考えが回り回って、考えがまとまらない。ちいちゃんに予め言われていたにもかかわらず、いざそう言われると、緊張して、何と答えていいのかが分からない。
「ダメか? そりゃ、そうだよな、こんな時期に。受験前だっていうのにさ。……分かってたんだ……ごめんな」
わたしが黙っているのを否定ととったのか、亮くんは悲しそうな顔でそう言った。
ブンブンブンブン。
わたしは黙って首を横に振った。ダメなわけない。ダメはわけない。
「あ……あの…い、いいよ。ううん…お願いします」
わたしは頭を下げた。
「そっか。よかった……」
亮くんはほっとため息をついた。
「で、でも、何で?」
何故わたしなのか、それが聞きたかった。
「だよな。何で今かって……その……俺は、サクヤ姫の魅力のせいで竹泉を好きになったのか、どうかってずっと悩んでいたんだ。そんなことないってずっと思ってた。でも、自信なくって。だから、時間置いて、それでも好きだったら、告白しようって思ってた。それに、あの時、護ってやるっていう約束果たせなかったから、今度こそ護ってやるって言えるようになったらって思ってた」
わたしが聞いたのは、何故今かということではなかったのだれど。亮くんはそのまま続けた。
「俺の志望校さ、結構ギリギリで。あの事件があってから、ちょっと一時的に学力が落ちてさ……あ、それは竹泉のせいじゃないからな」
そうだったんだ。わたしのせいって言おうとしたけれど、先を越されてしまった。
「それから、俺かなり頑張ったんだ。目標も設定して。夏休みもほとんど予備校に缶詰だったし。それで、今回の模試、かなり良かったんだ。ようやく合格圏内に入れそうだって、予備校の先生からもお墨付きをもらえた。それで、目標に達したら竹泉に告白しようと思ってた。その目標にようやく辿り着いたところだったんだ」
真剣にわたしのことを想ってくれたということだけでわたしは胸いっぱいだった。
「それにもう一つ、今じゃなきゃならない理由があるんだ。竹泉、一緒に東京に出ないか? 東京だって、短大は沢山ある。そうしたら、遠距離じゃなくても済む。できれば一緒に住んだ方が経済的にはいいんだろうけど、さすがにそこまでは言えないしな。
今ならまだ願書提出間に合うだろ?」
「え?」
わたしは一面ピンクの世界にいた。いたような気がした。亮くんと一緒に東京。もう甘い将来しか想像できなかった。しかも、いきなり同棲とか、恥ずかしすぎる。
「そうだよな、急にそんなこと言われても、だよな。ごめん、なんか一足飛びな話で」
そう言って亮くんはコーヒーカップを持ち上げた。若干カップが揺れていた。
わたしはブンブンと首を振って、
「そんなことない!わたし一緒に行きたい。聞いてみる。パパとママにも。……さすがに一緒に住むのは……アレだけど……」
わたしは俯きながら、そう言った。
「はは……そっか。よかった。必要なら、俺も説得に行くよ」
亮くんと一緒だと、マズいと思う。絶対。あの優しいパパがどう豹変するか分かったもんじゃない。
「あの……ね、亮くん。一つ聞いていい?」
「ん? なんだ?」
「どうして、わたしのこと好きになってくれたの? いつから?」
どうしてもここは聞いておきたかった。
「ん……ああ……。いつだったっけ。ちいの家に遊びに来ていた時さ。一度会っただろ? あれ、中学に入る前だったはずだな。竹泉がまだ三つ編みの頃だよ」
え? 高校入る前に会ってたんだっけ? 全然覚えてない。しかも、亮くんわたしが三つ編みしてた頃知らないって言ってたのに。
「そん時は、それほどでもなかったんだけどさ、まあ、ちょっと気になるって程度かな。で、高校入ったときに、ちいの友達って、紹介された時かな。どうしてって言われても、分かんねぇ。好きなんだから、好き。……じゃダメか?」
亮くんは照れた顔で、ぶっきらぼうにそう言った。
「ううん。ありがとう」
「あ、ただ、本当にサクヤ姫のせいじゃないからな。サクヤ姫が出てくるずっと前からだからな」
続けて言い訳のようにそう言った。この点はこだわって引けない一線らしい。それはそれで嬉しかったけれど。
「それに……うちの高校選んだのは、そのせいもあるし……。もちろん近いっていうのもあるんだけどな」
最後にボソボソとそう呟いたのを聞いて、わたしはむしろ恥ずかしくなった。そんな前から。しかも、一度会っただけなのに。恥ずかしさを紛らわすようにわたしはふと外に目をやった。
「あ」
わたしのピンクに染まった瞳に、少し欠け始めた丸い月が映った。
「月、きれいだね」
今頃、アメツチはどうしてるのかな。なんて思いながら。
「あ、ああ。そうだな」
亮くんも頷いて、わたしに手を差し伸べた。
月はまるでわたしたちのことを祝福しているかのように、目を細めていたように思えた。わたしは今遠い、富士山に月が重なる景色を想像しながら、亮くんの手を握った。
<Fin>
さて、「竹取の」いかがでしたでしょうか?
この「竹取の」ですが、「即興小説トレーニング」というサイトで連作として書いたものを加筆訂正したものがこちらにアップさせていただいたものです。
「即興小説トレーニング」とは、あるお題と必須項目(これは選べます)を元に制限時間(15分~4時間を選べるようになっています)内に即興小説を書き終えるという内容のサイトです。ここに投稿するようになったのは今年、2013年3月頃でした。それまでは、まともに小説なんて書いたことなく、某人狼ゲームでPRする程度。あとは、チャットとかは好きでしたけど。人狼繋がりで、他の方がやっているのを見て、面白そうだな~程度で始めたのが、数ヶ月前です。
そこで、何名か気に入った作者さんがいらっしゃって、その中のお一方が連作をやっているのをみて、ああ、こういう使い方もあるんだな~と、なんとなくマネしてみたのが、第一作目の作品でした。これは、追々こちらのサイトにもアップしてみようかなとは思ってますが、恋愛モノでした。二作目もなんとなく恋愛チックな、婚活ストーリーと銘打ってました。そして、三作目の連作がこの「竹取の」でした。実は、この作品、全くのノープランから始めて(前作2作もそうでしたけどw)、ここまできちゃいました。最初のお題が「死にかけの月」というものでした。さらに必須要素が「英検」なので、最初のシーンは英検前夜だったのです。さらに、月→かぐや姫→ファンタジー書きたい→月面人が現れる、みたいな感じで至ってシンプルに、「竹取の」と題して、第一話を書き下ろしました。
ところが、です。改めて「竹取物語」を調べてみると、これが実に奥深い、かつ神秘的で謎の多い物語だということが分かったのです。ただのお伽噺だと思っていたのが、実は全くそんなことはなく、日本最古のSF小説であり、未だに沢山の謎に包まれた作品だったのです。さて、こんな大変なモチーフにしてしまっていいのだろうかと考え直してもみましたが、逆にネタとしておもしろいなと思いつつ、続けて話を展開していくことにしました。特に、小説内でもありますが、「竹取物語」の終盤には、帝が不死の薬を富士山に投げ入れるように指示したため、「不死の山」=「富士山」となったという伝説があります。あたしは今回この作品を書くにあたって、調べている内に初めて知った部分でした。意外に知られていないのではないかと思い、この部分をうまく使いたいという方針で序盤は進めました。
また、太古の謎を調べていくうちに、古事記や日本書紀にもあたり、これは日本神話も混ぜていくと面白そうだなと。特に「竹取物語」に出てくる月の使者の属するお月様を司る神様「ツクヨミ」については、あまり記述がないようなので、この辺を膨らませてみることにしました。また、富士山の伝説繋がりで、「コノハナサクヤヒメ」を主軸にもっていくことに。実は、富士山伝説では、コノハナサクヤヒメ=かぐや姫は定説らしいのですね。
しかしながら、この設定を後悔し始めたのは10話前後あたりからでしょうか。調べれば調べる程、日本神話体系や竹取物語の奥深さに打ちのめされました。こんな単純な発想でやってていいの?とか考え始めました。この辺で、一度挫折しかけまして、途中で打ち切ろうと思ったこともありました。けれど、毎回読んで感想を述べていただける方が数名いらっしゃいまして、なんとか挫折せずに済みました。本当にありがたいことです。おかげで、何とか無理やりにでもこじつけて話を進めることができました。最終的にはそれほど矛盾がでないようにはできたと思ってます。ただ、神話研究とかされている方からすると、突っ込みどころは満載だと思いますけど。まあ、そこは、ファンタジーなので、ご勘弁を。
終盤にかけて、読んでくれている方から、「もふさん、なんか降りてない?」と言われるほどのめり込んでいた部分があったようです。特にサクヤ姫やイワナガ姫が頻繁に出てくるあたりでしょうか。
話の中にも出てきますが、イワナガ姫はサクヤ姫と兄弟なのですが、醜いという理由でニニギノミコトから拒否されるのです。これは、天皇の末裔が神の血族なのに、なぜ寿命をもっているのかという理由づけではあるのですが、それにしても、酷い逸話ですよね。しかも、イワナガ姫のその後については、古事記にも記述がないようなのです。そこで、このお姫様にもスポットを当てたいなと思って、こういう流れになったのです。もしかしたら、イワナガ姫がちょこっとばかし、あたしに降りたのかも知れませんね。イワナガ姫がその名の通り、「岩」を司る神様のようなので、そっくりそのまま富士山にもってきて、実は富士山はサクヤ姫ではなく、イワナガ姫そのものだったという結末に、この小説では収めてます。実際、サクヤ姫は水の神様なのに、何故か富士山信仰では火の神様になっているのです。
今年、富士山は世界遺産に認定されましたね。世界に誇る美しい山が、実は大昔醜いと言われて突き返された神様だったという結末で、ハッピーエンドになればいいなとの思いも込めて。
話は変わりますが、この物語のもう一方の主軸は、主人公の瑠璃ちゃん、ちいちゃんと亮くんの三角関係です。ちいちゃんと亮くんは従兄妹で幼馴染み。瑠璃ちゃんとちいちゃんは大の親友という関係。オーソドックスな恋物語の予定でしたけど、ちいちゃんの存在が意外に大きく、思ったよりは色々紆余曲折がありました。ただ、即興小説サイトで公開した時には、特にちいちゃんと瑠璃ちゃんの思いとか関係とかがあまり深く描けなかったため、ラストシーンが若干唐突な感じになってしまったのではないかという指摘もいただき、確かに自分で読み返してもそう思ったので、この辺はかなり加筆しました。特に別荘での夜にちいちゃんと瑠璃ちゃんの会話をさらりと流していた部分をかなり深く描写するようにしました。これで二人の思いが読者の方々にも分かるようになったのではないかと思います。
あと、心残りがあるとすれば、亮ちゃんの心理描写がもう少しできたらなとは思いましたが、一人称で始めてしまったために、どうしてもここは描くのが難しかったですね。余裕があれば、短編で亮くん視点のサイドストーリーみたいなものを書ければいいなぁ~とは思ってますが。いつのことになるやら…(笑
扉絵を描いてくれたららんさんには感謝いたします!
では、長々とありがとうございます。「竹取の」の感想など、本当に簡単なもの、一言でも結構ですが、残していっていただけると嬉しいなと思います。では、皆様にもコノハナサクヤヒメのご加護がありますように!




