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「竹取の」  作者: mofmof
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「竹取の」第26夜<有明月>

いつも「竹取の」をお読みいただきまして、ありがとうございます。


コノハナサクヤヒメに懇願されて富士山頂を目指す瑠璃と浦城先生。無事記憶の欠片を拾い終わる間もなく暴風に巻き込まれるヘリコプター。そして、瑠璃たちは…。


ファンタジーSF小説、第26話、クライマックスへ。

挿絵(By みてみん)

 ヘリの中で揉まれる時間が長時間に及び、いよいよ覚悟を決めなければならない時がきたのかと何度も思った。けれどヘリは乱気流にもまれながらも、なんとか富士山上空を抜けた。計器も徐々にグリーンランプに切り代わり、パイロットもようやく落ち着きを取り戻したようだった。ヘリ会社のスタッフも額に大汗をかいているのを手で拭った。

 わたしはというと、サクヤ姫に身体を乗っ取られたまま、激しく揺さぶられたため、今朝食べた朝食を全て備え付けの袋に戻してしまった。

「大丈夫かい?」

 隣で始終わたしの背中を撫でてくれた浦城先生が心配そうに何度もそう言った。わたしは出す物は出してしまったし、ヘリの揺れも収まったところでようやく姫にも開放されたようで、声を出せるようになっていた。

「はい、もう大丈夫です」

 ヘリのモーター音のため、どれだけ先生の耳に入ったかは定かではなかったが、わたしがそう言うと、背中をさすってくれていた手を止めた。

「瑠璃ちゃん……に戻ったのかな?」

 先生はわたしから紙袋を取り上げて、口を閉じてから、ふとわたしにそう訊いた。わたしは、頷いてそれに応えた。先生は少し安心したように溜息をついたような仕草をした。

「いやぁ、あんな乱気流は初めてでした。まるで真冬か、台風でも来たかのようでしたよ」

 パイロットはヘリを無事着陸させてから全ての電源を切ると、興奮したようにそう言った。

「彼は、元自衛隊のヘリパイロットで、うちの登録パイロットの中でもピカ一の腕なんです。彼じゃなかったら、どうなっていたことか……」

 同乗のスタッフがそう説明を加えた。その口調はパイロットへのお世辞の色は全くなく真に迫ったものだったから、本当に間一髪であったのだろうことは容易に想像できた。

「いや、本当に申し訳ない。急なチャーターでしかも、こんな思いまでさせてしまって」

「いえいえ、そういう意味ではありません。それに、あの乱気流は先生のせいではありませんから」

 実際にはわたしたちのせいだったように思うのだけれど、そんなことは口が裂けても言えるはずはなく。

「あの……先生、大変申し訳ないのですが、サインいただけませんでしょうか?」

 ヘリを降りる時に、元自衛隊員だというパイロットが浦城先生におずおずと尋ねた。

「うちの家内が先生の大ファンでして。もしいただけたら、ありがたいと」

「もちろんですよ。命の恩人ですからね。サインくらいならいくらでも。ご住所教えていただければ、最新刊をお送りいたしますよ。サイン入りで。奥様のお名前は?」

 と、先生がそんな話をしているうちに、ちいちゃんと亮くんが駆けつけてきた。

「大丈夫か? 乱気流に巻き込まれたって聞いたけど」

 まずは亮くんが心配そうに聞いた。

「うん。でも、パイロットさんがなんとか切り抜けてくれたわ。わたしたちは、大丈夫」

「ならよかった。ここも酷かったんだ。ちょうどヘリが頂上に着いた頃から地震が何度もきて。どうだった? 何か分かったか? 」

「姫はもう分かったって言ってたけど。地震酷かったの?」

 わたしは頂上で起こったことを粗々でふたりに話した。

「サクヤ姫が出たのか? 今度は夢の中じゃなくって? 揺れ自体は大して大きくはないんだけど、何回も揺れて」

「うん。わたしの身体使って。憑依っていうの? あんなの初めて。気持ち悪かった……」

「そうか……ごめんな、一緒にいてやれなくて」

 あの晩、『護ってやる』と言ってくれた亮くんだった。それに対して謝っているのだろうことはわたしには分かった。

「ううん。大丈夫。それに亮くんのおかげでここまで来られたんだし」

 わたしは強がった。実際、裏大社で亮くんが庇ってくれなかったら、わたしがもし怪我をしていたら、今日頂上に登ることはできなかっただろう。だから、それは大げさな話ではないはず。

「瑠璃ちゃん、顔青いよー?」

「揺られてね……その、今朝の……戻しちゃって」

 わたしはちいちゃんにだけ、小さく囁いた。と、その時、ゆらゆらと地面が揺れた。それが地震によるものなのか、それともヘリの揺れの影響なのかがなんとも判断つきにくかった。

「ほら、こんな感じで揺れてたのー」

 と、ちいちゃんが言った。確かに今のは地震だったみたい。地震と言ってもさほど大きく激しく揺れるものではなく、目眩にも似た大きくゆっくり揺れるものだった。

「さて。次はどうすればいいのかな?」

 先生が事務所から戻ってきて、私の背後から声をかけてきた。

「今晩ですわね。今日の夜で全てが決まります。けれど、ご安心ください。みなさまのおかげで記憶の欠片を回収できましたので、もう大丈夫です。あとは瑠璃さんの頑張り次第で」

 またわたしの口を通して、姫が言った。できれば、突然現れるのだけはよして欲しかったけれど、今はそうもいってられないのだろう。……ってか、姫、今さりげなくすごいプレッシャーをわたしに与えませんでした?

「それ……が、姫なのか?」

 亮くんとちいちゃんが少しポカンとしか顔をした。明らかに普段のわたしと口調が違うからなのか、声のトーンも違うのか、彼らはすぐにわたしではないと気がついた。

「あなた方にも大変ご迷惑をおかけしました。しかし、大変助かりました。お礼を申します」

 姫はそう言って、亮くんとちいちゃんに向かって頭を下げた。

「あ、いえ……」

 亮くんは恐縮したように返事した。

「今晩ですか? 今晩何があるのですか?」

「この揺れは、お姉さまが起きた証拠です。そして、今晩アメツチノオオワカミコは必ず現れるでしょう。そうしましたら、わたしたちの全ての決着をつけなければなりません」

「決着……ですか?」

 先生は不思議そうに聞いた。

「あの、へこりぷたという乗り物は大変便利なものでありますね。わたしが1000年以上かけてなしえなかったことがたった一刻やそこらで到達できてしまったのです。大変な散財をさせてしまったようですが、大変助かりました」

 姫はそう言って、再度先生に対して丁寧に頭を下げた。下げたのはわたしの頭だったのだけど。ちなみに、ヘコリプタではなく、ヘリコプターなんですけど。

「つまり、富士山頂に登るために1000年以上をかけてきたと? 姉上というのは、山頂でも仰ってましたけど、イワナガヒメのことですか? 王とは、誰のことなんですか? それと地震と何か関係が?」

 先生はそんなことは構わず、質問の連発を投げかけた。ずっと先生の中でも疑問であった点が噴出したのだろう。

「その辺のお話をするのには、きちんとした説明が必要かと思います。順を追ってお話いたしましょう。どこか落ち着いてお話ができるところが良いのではないですか?」

「わかりました。では、一度別荘に戻りましょう」

 先生の先導でわたしたちは一緒に車に乗り込んだ。

「瑠璃さん、ごめんなさいね。しばらく身体をお借りしますね」

 車に乗り込みながら、姫はそう呟いた。

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