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「竹取の」  作者: mofmof
13/30

「竹取の」第13夜<十三夜月>

瑠璃と別れた亮くんとちいちゃんの前に現れたのは……。

アメツチは本当に仲間なのか?


ファンタジーSF小説、第13話です。

挿絵(By みてみん)

 二人が家を出てからしばらくして、わたしが自室で一人まんじりもせずに待っていると、ちいちゃんから電話が入った。

「きたきた、きたよー!」

 ちいちゃんはやたらとハイテンションだった。

「すっごかったよー!アレが出てきて、ひゅーんって飛んでいって、ばかーんって。で、逃げてったわよー…」

 と、そこでがさごそ音がして、

「ちょっと貸せ……竹泉か?俺だ。今のじゃ何だか分からんかったろ? えっとだな……アメツチの言う通り、奴が出た。多分竹泉の言っていた奴と同じじゃないかな。他に人影がなくなったあたりを狙ってきたみたいだ。あんまり素早くて姿はきちんと見れなかったが、黒づくめの小さい奴だった。渡された腕紐から何か白い物が出てきて、そいつを追い払った。アメツチの言っていた式神ってのが、アレみたいだな。初めて見たよあんなの」

 どことなく、亮くんの声は興奮冷めやらぬといった風に高ぶっていた。

「とにかく、なんか癪ではあるが、アメツチの言う通りのようだ。少なくとも、これ以上は竹泉の周りに被害が及ぶことはないんじゃないかな」

 わたしは少し安心した。

「そ、そう……。よかった。ちいちゃんも大丈夫?」

「大丈夫どころか、やたらとハイテンションだよ、こいつ」

 横でちいちゃんがなにやら叫んでいるのが聞こえた。わたしは思わず吹き出した。

「亮くん、ありがとうね」

「いや、礼には及ばないさ。大変なのは竹泉の方だろうし」

「わたしは大丈夫だから。心配してくれてありがとう」

「本当のことを言うと、今の男もとっ捕まえて、話聞きたかったところなんだが、そんな余裕はなかったな……」

「あんまり危ないマネはしないでね」

「ああ。俺も暴力沙汰には自信ないしな……あ、代わるよ」

 電話の向こうで携帯を渡す音がした。

「瑠璃ちゃん、安心して。私たちは大丈夫だからー」

「ちいちゃんもありがとうね。でも、本当に気をつけてね」

「亮ちゃんが送ってくれるから大丈夫だよー。瑠璃ちゃんも気をつけてねー。また明日ー。月に代わっておしおきよ!」

 電話を切るとわたしはため息をついた。ちいちゃん、それ古いから。

「ほら、ご覧よ。ボクの言った通りだったろ?」

 いつの間にか部屋の中にアメツチがいた。

「まだいたの?」

「お言葉だね」

 アメツチはまた猫のような仕草をした。その仕草が気に入ったのだろうか。

「これでボクの言うこと信用してくれたかい?」

「ええ。まあ」

 わたしは曖昧に答えた。

「じゃあ、儀式の続きを……」

 アメツチは昨日わたしにくれた黒い紐状の物をまた差し出した。わたしは一瞬躊躇した。確かにアメツチの言う通りに亮くんとちいちゃんを護ってはくれたけれど、それで本当にアメツチが信用できるかというと、それはまた別のような気がした。

「どうしたんだい? ボクの言うことが聞けないのかい? キミのお友達は護ったじゃないか。だから、ボクたちの星も護ってよ」

 そう言われると、返す言葉がなかった。

「わかったわ……」

 わたしは観念して、その紐を受け取って、昨日と同じように右腕につけた。

「じゃあ、始めるよ」

 昨日と同じように、アメツチの言葉に呼応するかのように、周りから音が消えた。わたしは昨夜アメツチから言われたように、手を合わせて目を閉じた。

「早く思い出して……おくれ……か……め……」

 アメツチが呟いた言葉は最後まで聞こえないままに、わたしはまた漆黒の闇の中に落ちていく。宇宙空間を彷徨うスペースデブリのように宛もなく彷徨い続ける欠片になったかのように。そして、意識が肉体と離別したかのようにわたしの五感がてんでばらばらになった錯覚に陥る。そしてわたしは意識を手放した。


 気がつくと、わたしの目の前にあの繭があった。

「誰?」

 あの繭がわたしに尋ねた。これがカグヤエネルギーというものなのだろうか。しかも、意思疎通ができるなんて。

「誰なの?」

「わ、わたしは……」

「起こさないで。わたしを起こさないで」

「でも、月の人達が困ってるんですよ?」

「いいの。放っておいて。わたしはもう……ここからは出ない方がいいのです」

「そんなことありませんよ。皆さんが待ってますから」

 わたしは誰がこのエネルギー体を待っているのかなんて全然分からなかったけれど、何となくそう言ってみただけ。分かっているのは、アメツチという月面人が待っているらしいこと。

 わたしは昨日そうしたようにゆっくりと繭から糸を解いていく。

「やめて、お願い。せっかく、こうして安寧の中に落ち着いたというのに……。静かに眠らせて……」

「こちらはそうもいかないのよ……。約束もしちゃったし」

 わたしはなんとか説得しようと、そう言葉をかけながら繭から糸を引っ張りだす。

「わたしの罪はまだ終わっていないというの? それとも……?」

 それはわたしの言葉を全く耳にしていない様子。繭はそれからも同じような言葉を何度も何度も繰り返した。

「ねぇ、あなたは何故わたしの中にいるの?」

「起こさないで。わたしを起こさないで」

 わたしはふと思ったことを訊いた。しかし、その答えは返ってこなかった。相変わらず同じことを繰り返すばかり。

「やめて、お願い。せっかく、こうして安寧の中に落ち着いたというのに……。静かに眠らせて……」

 だんだんと作業が単純になっていき、わたしもなんだか疲れてきた。別に実際の作業をしているわけでもないのだろうけれど。気力疲れというか、精神的に疲労を感じるようになってきた。しかも、糸を手繰る度に、繭の中の声が大きくなってきたようにも感じる。

「目立たないように、普通に……普通に……」

 繭の糸がわたしの足下に何重にも積み重なっていくと、その繭から発せられる言葉が少しづつ変わってきたように思えた。

「見つからないように……」

 何から見つからないようにというのか。つまりはアメツチ達、月面人からということなのだろうか?けれど、アメツチの話では元々この子(と言っていいのか分からないけれど)は月にいたもののはずなんだけれど。

「罪滅ぼしは終わったのよ……」

 罪ってなんだろう? わたしはなんのことやらさっぱり分からないけれど、この子が悲しい思いをしてきたのだということは何となく感じてきた。ずっと逃げ回ってきたのだろうか。けれど、月の人達にとってはこの子が必要なわけで、可哀想にも思えるけど、多分このままだともっと沢山の人達が可哀想になってしまうのではないかとも思う。

 ようやく繭の大きさが半分くらいになったような気がした。あくまでも気がしただけ。計ったわけじゃないし。その辺でついにわたしの気力も底をつきた。

「もうダメ……」

 わたしはその場に倒れた。


 気がつくとわたしの部屋だった。わたしは床に寝転がった状態だった。やっぱり胸が苦しい。

「お疲れ様。もう一回くらいかな……」

 アメツチは至極事務的な口調でそう言った。

「ま、まだやるの?」

 わたしは起き上がりながらアメツチにそう訊いた。心臓が高鳴ったまま動悸が止まらない。

「そりゃそうだよ。封印が全部解けないと、先には進まないからね」

「あれって、何の繭なの?」

「繭?」

 アメツチは少し首をかしげるようにして。

「キミには繭に見えるのか。視覚化は人それぞれだからね。それがボクの言った『カグヤエネルギー』だよ。それがボク達には必要なんだ。

「でも、あの子『起こさないで』って何度も言っていたわ」

「うん。でも、気にしなくてもいいよ。いつものことだから」

 アメツチは冷たい声でそう言った。

「でも、なんか、可哀想な感じで……」

「そりゃぁ……キミが……、いや何でもない……」

 珍しく一瞬アメツチが取り乱したかのように見えた。

「わたしがなんなの?」

「気のせいだよ。キミの気のせいだよ。とにかく、あと一回。あと一回で封印は解けるはず。そうしたら、キミも責任から逃れられるんだから、頑張ってくれないか。もちろんキミの周りはボクが責任を持って護るから。これは約束だ」

 そして、アメツチは一方的に話を終わらせて、また窓から飛び出して行った。それを合図にしたかのように、また時の流れる音がした。

「なんなのいったい?」

 わたしは釈然としないまま、その後ろ姿を眺めるしかなかった。


「瑠璃ー。ご飯よー」

 わたしが一人部屋でぼんやりしていると、下からママの声がした。

「は、はーい」

 階下に降りると、パパもすでに食卓についていて、テレビを観ていた。珍しくバラエティ番組を観ていた。

「パパ、もう大丈夫?」

「大丈夫だってば。ははは」

「でも、さっきはソファで寝てたじゃない」

「まあ、一応医者からは安静にしていろって言われたからね。でも、本当に大丈夫だから」

 テレビでは、天文の話題になっていて、今年のスーパームーンは6月23日の日曜日ですと、アナウンサーが説明していた。

「でも、電話もらった時は本当にびっくりしたんだから」

 ママが台所からお箸と小皿を持って来た。

「うん、ママ、すごい顔してたもの」

「だって、心臓止まると思ったくらいだもの」

「おいおい。本当に大げさなんだから……」

「そういうけどね、あなた……」

 わたしは二人の会話を上の空で聞いていた。やっぱり胸が悪かったのもそうだけれど、あの繭がわたしに語りかけてきた言葉の数々が何か心のどこかに引っかかっていた。

 言葉にはならないけれど、何か重要なことを思い出さなければならないような気になる。何か忘れているのか、それとも何か気づくべきことがあるのか。わたしの心にもやもやが広がった。数日前から続く一抹の不安が、この頃にはわたしの中で膨れあがっていた。ついさっき、友人達の安全を確認して安心したばかりなのに、拭いきれない何か。その何かが分からないままだった。


 そして、異変は翌日起こった。

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