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「竹取の」  作者: mofmof
12/30

「竹取の」第12夜<十二月>

ついにアメツチに対峙した亮くんとちいちゃん。

そして、アメツチの語る真実とは…?


ファンタジーSF小説、第12話。

挿絵(By みてみん)

 じゃあ、ボクたち月面人の成り立ちから説明した方がいいかな。実はキミたち日本人とボクたち月面人は起源を同じくする同種民族だと、ボクは教えられてきた。その起源は「古事記」に遡る。イザナギはアマテラスオオミカミ、ツクヨミノミコト、スサノオノミコトの三人の子供を産んだ。スサノオノミコトの子孫である大国主神が日本の国と造り、アマテラスオオミカミとタカミムスビの子孫である神武天皇が最初の天皇となった。

 そして、ツクヨミノミコトの子孫がボクたち月面人の起源となった。ちなみに、ボクたちは自分たちのことを、月読人ツクヨミビトと呼んでいる。ボクたちが言う「月」とはキミたちの言う「地球」のことなんだけどね。だから、ボクたちから見ると、キミ達の方が「月面人」なわけだ。

 そもそも、ボクたちの起源である神々は永遠の命を持っていたけれど、神武天皇の親である天孫「ニニギ」が命に限りのあるコノハナノサクヤヒメを娶ったため、神武天皇以降の日本人は寿命をもつようになった。

 もともと、ボクたちの月読の世界は、葦原中津国の中でも高天原に近い位置にあり、キミたちの言う神話の世界にずっと近い。そうだな…キミたちの分かりやすい言葉で言うなら、「アストラル界」というべきか。高天原はもっと純度の高い精神世界「エーテル界」に属する。そのため、ボクたち月読人は地球に住む者たちよりずっと長寿なんだ。

 これは仮の姿と言ったけれど、そもそもボクにはキミたちのような肉体のないアストラル体なのだよ。可視的に見えるようにならばどんな姿にでもなれる。

 これがキミたちの言う、「月面人」の説明。

 次に、月の現状を説明しよう。死にかけているというのは少し説明が足りなかったかも知れない。ご存知の通り、月は地球の唯一の衛星であり、直径比率で地球の1/4という他に類を見ない大きさだ。その均衡は非常に微妙な物理界の力学とエーテル界のエネルギーによって保たれている。そのエネルギーのことを、ボクたちは「カグヤエネルギー」と呼んでいる。カグヤエネルギーは月と地球の間を行き来しており、そのエネルギーの交換によって、月と地球の感覚は平均的に保たれている。カグヤエネルギーは何十年間に一度不定期に地球に下り、月を引っ張る原動力になっている。

 ところが、ここ数百年カグヤエネルギーは地球に下りたままにもかかわらず、月を引く力を発揮しないままどこかに雲隠れしてしまった。そのため、地球と月の間隔がここ数百年徐々に広がってきてしまった。そこでボクが派遣されてきたというわけ。

 カグヤエネルギーは、何千年にも亘って日本人の肉体に宿り、転生を重ねてきた。その中の一回が「竹取物語」で出てくるかぐや姫らしい。その時にはボクのおじいさんがかぐや姫をお迎えにあがったのだけれど。「カグヤエネルギー」は、あまり長いこと地球に存在してもいけなかったからだ。

 そして、ボクの調べでようやく瑠璃ちゃんの中にカグヤエネルギーが宿っていることが分かったんだ。けれど、その力は封印されてしまっていた。それを解放してもらうために、この前の儀式をしてもらったというわけさ。

 これで説明になっただろうか?


 アメツチの説明が終わると、亮くんは腕を組んで考えこんだ。

「まあ、一応筋は通っているけどな……」

 わたしには、どんな筋が通っているのかがぜんぜん分からなかった。月面人ってだけでパニくってるっていうのに、カグヤエネルギーとか、アストラル体とか、全くちんぷんかんぷんで何のことを言っているのやらさっぱりだった。

「じゃあ、その封印を解いたとして、かぐや姫の時のように竹泉を月に連れて帰るっていうのか?」

「ううん。かぐや姫の場合、そもそも月読人そのものが地球に下り、その肉体にカグヤエネルギーが宿ったという極めて特殊な事例だったんだ。だから、月に戻るべくお迎えにあがったと、ボクは聞いている」

「お前たちは、肉体を持たないんじゃなかったか?」

「……カグヤエネルギーの宿るアストラル体に限って肉体を持つことができるんだよ」

 アメツチの言葉に少し詰まりがあったような気がしたけれど、わたしは話についていけずに黙って様子を見ていた。

「じゃあ、つまりその肉体を持たないお前は月明かりの下でしか活動できないっていうことなのか?」

 わたしも勘づいていたことを亮くんも質問にした。

「まあ、そういうことだね」

 アメツチはあっさりと認めた。だから、夜だけ出没するんだ。

「じゃあ、封印が解けたら、竹泉はどうなるんだ? それと、月との地球の均衡がとれたら、どうするつもりなんだ?」

「また、封印は解けても何も変わりはないさ。均衡がとれたら、またカグヤエネルギーを封印して終わりさ」

「本当に、それだけで終わりなのか?」

「それ以上はボクを信用してもらうしかないな」

「だが、それだと竹泉が一方的に大変な思いをするだけじゃないか?」

「大変なって?」

 アメツチはきょとんとした顔をして、わたしを見た。

「結構苦しかったのよ、あれ……」

 実際、儀式が終わった後は胸が苦しくなった。

「おかしいな。そんなことはないはずなのに……。だいたい、その後オムライスとやらをペロっと平らげたじゃないか?」

「み、見てたの?」

 わたしは慌てた。あの後、すぐにアメツチがいなくなったと思っていたから。

「どうせお前達の世界は時間の流れは俺たちと違うんだろ?そのカグヤエネルギーとやらが次に転生した時にその人に頼むんじゃ遅いのか?」

「やっと見つけたっていうのに……。次の転生で見つかる保障はないし、そうしたら次はまた何百年後になるかも知れないんだよ?そうなったら手遅れになる可能性だって……」

「じゃあ、最後にもう一つ」

 亮くんは人差し指をアメツチに突きつけて真剣な顔つきで言った。

「昨日の夜お前に協力した後、竹泉は暴徒に襲われた。お前に関わるなら、竹泉の家族に手を出すと忠告しにきたと言ったらしい。実際にそれで竹泉の父さんが怪我をした。あいつらは何者だ?」

 アメツチは大きな目をさらに大きくした。

「ああ……。あいつら気がついたんだ……」

「あいつらってことは、知ってるんだな? 複数?」

「ああ。あいつらは、ボク達の邪魔をする団体だ。で、瑠璃ちゃんの父上に怪我をさせたとあいつらが言ったのかい?」

「ああ、そう言ったらしい」

「ふーん」

 アメツチはまた目を細めた。

「分かった、それはボクがなんとかしよう。ボクのことを信用してくれて、儀式を進行させてもらえるなら、瑠璃ちゃんの家族はボクが護ろう」

「お前、昼間はここでは動けないんだろ?」

「ボクが出ない間は護衛をつけるよ。でも、あいつらも、公衆面前で白昼堂々とは出てこないと思うけどね」

 そう言うと、アメツチはまた紐のような物を取り出しだした。今後は白い紐で、いくつかの紋様を織り込んだようなものだった。

「これをつけておけば、もしあいつらが来ても、ボクの護衛がキミを護るから。いわゆる式神のようなものだ」

「その団体って何者なんだ?」

「邪教の奴らさ。詳しくはいずれ話すよ。とにかく瑠璃ちゃんと家族は必ず護るから」

「邪教って……。本当に大丈夫なんだろうな?」

「じゃあ、キミたちにもこれを渡そう」

 アメツチはわたしにくれた紐と同じ物を亮くんとちいちゃんにも渡した。

「今日ここから帰る道すがら、キミたちの前にも必ずあいつらが現れる。そうしたら、それがキミ達を護るから。そうしたら、ボクのことを信用してもらえるかな?」

 アメツチはなにかの小説に出てくる猫のように、後ろ足だけで立ち上がってそう言った。少し気味が悪い。

「どうしてあの暴漢が今晩現れるって、分かるの?それにちいちゃん達が危ない目に遭うのはわたしはイヤよ」

「あいつらのことだ。何百年も戦ってきたボクには分かるんだ。それに、危ない目には遭わないよ。そのお守りを着けている限りはね」

 それを聞いて亮くんは立ち上がった。

「いいだろう。それが確認できたら、竹泉が協力するってことでいいか?」

「でも……」

 わたしはちいちゃんの方も見た。

「わたしたちは大丈夫よー。亮ちゃんもいるしねー」

 亮くんも一緒に頷いた。

「なら……」

 わたしがそう言うと、さっきまで止まっていた時間が動き出した。

「とにかく瑠璃ちゃんが納得してくれないと封印は解けないからね。じゃあ、じゃあ、今日のところはボクは退散するよ。納得したらまた呼んでおくれ」

 アメツチはそう言って、またいつものように窓から出て行った。

「ちいちゃん、亮くん、本当にそれでいいの?」

「ああ、大丈夫だ。これであいつの言っていることが本当かどうかを試せるからな」

「でも、本当に危ないことしないでね、お願い」

「もちろん。分かってるさ。じゃあ、今日のところは帰るよ」

「うん、気をつけてね」

 三人一緒に部屋を出た。

「お邪魔しましたー」

「失礼します」

 二人が居間を覗きながら挨拶していく。

「おや?もう帰るのかい?今来たばかりだろう?」

 そう言えば、アメツチが時間を止めてたんだっけ。

「うん、答え合わせだけだから、早く終わったの。玄関先まで送っていくね」

「そっか。気をつけてお帰り」

 パパは大して不思議そうでもない様子で二人に手を振った。

「じゃあ、本当に気をつけてね……」

「大丈夫だって。心配すんな。これがあれば大丈夫だっていうしな。もし俺達になにかあったら、困るのはアメツチの方だろ?」

「そりゃ、そうなんだけど」

「大丈夫だよー。何かあったら、すぐに電話するからね」

 二人はそう言って、わたしの家から家路に着いた。

 そして、アメツチの言うことの真偽がはっきりしたのは、それから間もなくのことだった。

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