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「竹取の」  作者: mofmof
10/30

「竹取の」第10夜<十日夜>

パパの事故、謎の人物の出現と、瑠璃の身の回りに様々な出来事が起こり、混乱する瑠璃。心の支えは親友のちいちゃんだけだった。

そして、ちいちゃんは瑠璃にある提案を…。

ファンタジーSF小説第10話目。

挿絵(By みてみん)

「月面人ねぇ……」

 ちいちゃんは長いストローからオレンジジュースを吸い込んでからそう呟いた。翌日の放課後、わたしはちいちゃんを誘って近くのファミレスにいた。この前わたしの家に遊びに来た時に、わたしの部屋で二人が出会った月面人の話を、順を追って説明した。途中まではちいちゃんも覚えていて、確かに二人で二階に上がったところまでは記憶が一致していた。ところがそこにいた不思議な生物の存在だけすっぽりとちいちゃんの記憶から抜けてしまっていたらしい。

「ただ、前後の話を繋げていくとー、なにか抜けているような気もするのよねー。なんて言うか、そこだけ切り取られたみたいにー? 確かにわたしは、卒業した後の進路について瑠璃ちゃんに話しようとして一緒に居間を出て二階に上がったところまでは覚えているしー、でも、その後なにか空洞みたいになってー、その後内緒にしてねっていう話をしているような気がするのねー」

 ちいちゃんは、飲み干したグラスからストローを使って水滴を取り出し、テーブルの上のストロー袋に垂らした。蛇のようにそれはにゅるにゅると伸びていった。

「でも、さすがにその後月面人と話したとかは、信じられないわよね?」

「ううん。瑠璃ちゃんがそう言うなら、わたしは信じるよー」

 ちいちゃんは真剣な眼差しでわたしを見た。いつも通りののほほんとした口調ではあったけれど、その真摯な気持ちは伝わってきた。

「ありがとう。もうね、わたしもどうしたらいいのか分からなくなってきたの」

「そりゃー、そうよねー。いきなり宇宙人ですー、よろしくーとか言われても困るわよねー。例えば今日は黄色い大雪が降りますって天気予報で言われても、すぐには信用できないわよね」

 それから、わたしはアメツチに頼まれた内容と、実際に祈りをした時の状況などをできるだけ詳細にちいちゃんに伝えた。加えて、パパの交通事故の件とその帰り道であった暴漢のことも。アメツチには他の人には内緒と言われていたが、それはちいちゃんと一緒の時だから、ちいちゃんは除外すると考えていいはず。

「わたし、頭悪いからよくわかんないんだけど、つまりー、アメツチとその男が対立していてー、その男は瑠璃ちゃんにアメツチと関わってほしくないから瑠璃ちゃんのお父様を事故に遭わせたってことになるのかしら?」

「それしか思いつかないのよね。で、どうしたらいいのかなと悩んでるのよ」

「んー」

 ちいちゃんは腕を組んで悩み始めた。

「お母様に話してみるとか?」

「ちいちゃんみたいには信用してくれないわよ」

「そっか-。そうよね-。大人がこんなこと信じるわけないわよね」

 いえ、子供でも信じませんけどね。

「わたしも頭ウニだわー。どうしたらいいのかは分からないー」

 ついにちいちゃんもギブアップした。そりゃそうよね。

「でもー。このままじゃ瑠璃ちゃんも困るよねー。どうしたらいいのかしらー?」

 それから一時間近く二人で頭突き合わせて考えたけれど、結論には至らなかった。同じところを堂々巡りしているかのようにわたしたちの会話は迷走していた。そして、かれこれレストランに入ってから4時間以上が経過していた頃、まだ夕食の混雑する時間にはまだ時間はあったけれど、店員さんの目がそろそろ気になり始めた。そんな時、ちいちゃんが一つ新しい提案を持ち出した。

「ね、たとえばだけどー。亮ちゃんに相談してみるとか?」

「亮くん? え……どうだろう……。『アホか』って言われて終わりそうな気がするけど?」

 と言うか、そんなアホな話を亮くんにするのが恥ずかしいというか。

「そんなことないよー。実は亮ちゃんってば結構オカルト好きだし中二病はいってんのよ」

 ちいちゃんはケラケラ笑いながらそんなことを言った。

「真面目な顔して、『宇宙人はいる』とか、『古代大和民族は宇宙から来た』とか、平気で言うのよー。痛いよねー、アイツ。もちろん学校ではそんなこと言わないけどねー」

 ちいちゃんは、亮くんのモノマネをしながら、眼鏡を押し上げる仕草をした。特徴は掴んでる。それにしても、あの亮くんにそんな面があったとは知らなかった。そう言われてみれば、浦城先生と話し込んでいる時すごく嬉しそうだったし、古事記とかの話をしていた時、どの辺までが史実なのかとかやたらにこだわってたところはあったけど。

「こんな話したら、あんまり食いついてきてかえってやぶ蛇になったらイヤだなーって思って控えてたんだけど、他にこういうネタ話せる相手いないし。あんまりアイツに頼るのも、なんだかなーって感じなんだけどー」

 そう言って、ちいちゃんは、何杯目かのミックスジュースを飲み干した。確か最後はカルピスとメロンソーダの黄金割り。もうわたしもお腹がジュースでたぷんたぷんになっていた。にしても、ちいちゃんが亮くんのこと「アイツ」呼ばわりするのも珍しい。でも、何かあったのかなと思うのではなく、すごく妬けてしまうのは何故だろう。

「でも、アメツチが、他の人には内緒って言ってたけど、大丈夫かしら?」

「大丈夫じゃないー? そしたら、うち来ない?瑠璃ちゃん家だったら、アメツチなんちゃらが来るかも知れないけど、わたしの家なら大丈夫じゃないかしら? 亮ちゃんもうちに呼ぶからさ」

 そう言いながら、ちいちゃんは携帯を取り出してメールを打ち始めた。そんな安易な発想でいいのかしらとは思ったけれど、わたしの部屋だと確実にアイツがいるのは確かなので、ちいちゃんの申し出は嬉しかった。それに、亮くんがいてくれるのは心強いとも思った。ちいちゃんがメールを送ってからしばらくすると返信が返ってきた。

「オッケーだって。予備校終わってからだから、少し遅くなるけどって。先にうちに行ってようか? そろそろ店員さんの目も気になってきたしね」

 ちいちゃんはそう言って、ウインクした。亮くんにはどんなメールを送ったのかしら。ちょっとだけ心配。

「それよりさ、夕べの暴漢の方が心配よね。言うこと聞かなかったら、瑠璃ちゃんの家族とかに手出すっていう意味でしょ? あれってさ」

 ちいちゃんは店を出てから、わたしに呟いた。わたしの心配もそこで、パパはとりあえず今日は退院できることになってるし、昨夜の話ではアメツチに関わりさえしなければ手は出さないという意味だろうから、今晩家に帰るまでは安心なのだけれど、その後家に帰れば多分アメツチに出会うことになるはず。そうなると昨日の男がどういう行動にでるか分からない。というのが、ちいちゃんとわたしの結論だった。

「今晩うちに泊まっちゃう?」

「そうしたいのは山々だけど、今日パパが退院するから早く帰ってくるようにってママから言われてたのよね。本当のことを言うと、そろそろ帰らないとママから催促がきそう」

「それなら、わたしからお母様にお話してあげるから、心配しないでー」

 ちいちゃんは自分の胸をドンと叩いて請け負った。そう言えば、連休の遠出の件もどうやってかママを説き伏せてくれてたっけ。一体ちいちゃんってどんな話をして、今度はどんな説得をするつもりなのだろう。またちいちゃんの七不思議が増えそう。

 ちいちゃんの家に着くと、彼女は鞄から鍵を取り出して扉を開けた。お互い小学生の頃から同じ鍵っ子仲間。

「入って。一応、わたし先に自分の部屋見てくる。アメツチがいないかだけ調べてくるね」

 そう言ってちいちゃんは自分の部屋に上がっていった。わたしは玄関口でそれを待った。まだ夕方前で外も明るい。何故だかわたしはまだあの月面人は現れないような気がした。しばらくして、ちいちゃんは部屋から出てきてわたしに向かってOKサインを出した。わたしは玄関から上がってちいちゃんの部屋に入った。

「おじゃましまーす」

 ちいちゃんの部屋は、殺風景なわたしの部屋とは違って、女の子女の子していた。ピンクを貴重にした部屋はほんわかとしたちいちゃんのキャラクターそのものだった。それからしばらくわたしたちは何でもない話に花を咲かせ、二人で笑い転げたりしていた。夕日も沈みかけてきた頃、玄関のチャイムの音が鳴った。わたしたちは一緒に玄関に下りていった。玄関を開けると亮くんがいつも通りにクールな顔つきで立っていた。

「なんだ、竹泉も一緒だったのか」

 亮くんは意外そうな顔つきでわたしにそう言った。

「なんだって何よー。とりあえず入って。わたしの部屋」

「あのさ。居間じゃダメか?ちいの部屋入り辛いんだよな。ピンキーすぎて」

「あらー、お言葉ね。仕方ないわね。いいわよ、居間でも。どうせ二人とも帰り遅いはずだし。まあ、亮ちゃんがいても別に問題ないけどね」

 わたしたちはそのまま居間の方に向かった。ちいちゃんの家の居間は居間というより、客間、むしろ応接間とでも言うべきなのだろうか、立派なダイニングテーブルが中心に据えられ、周りにはどっしりとしたヨーロピアンな家具が据えられている。時々商談とかに使うらしく、うちの居間とは雲泥の差だった。

「なんか、冷たい飲み物ないか?」

「わたしたちはもう沢山飲んだからー。たっぷんたっぷんー」

「ちいのことは聞いてねぇ。俺が喉渇いたんだってば。じゃあ、勝手にもらぞ」

 そう言って、亮くんは一度居間を出た。ちいちゃんはてへぺろして、ソファに座った。わたしもそれに倣う。

「わたしがいること言ってなかったの?」

「うん。ただ呼び出しかけただけー」

 呼び出しって、半グレヤンキーの集会じゃないんだから。

「あ、ちょっと待っててね」

 ちいちゃんは何かを思い出したかのようにソファから飛び上がって、居間から駆けだして行った。

「う、うん……」

 わたしはそう言うのが精一杯だった。それから5分程度待たされただろうか。遅いなと思い、台所の方に向かおうかなとソファから立ち上がろうとした時、二人が戻ってきた。亮くんの片手には冷たいお茶が入ったコップが握られていた。

「竹泉。今ちいから話は聞いた。相談に乗るよ」

 開口一番、亮くんはそう言ってわたしの向かいに座った。だから、ちいちゃんはどうやってこの人を説得したの!? と、わたしはちいちゃんに目で訴えたけれど、ちいちゃんは小さく微笑んだだけだった。

「まずはアレだな。そのアメツチなんとかという月面人と話してみないとだな。俺が一緒に会うよ」

「えっと…それって、大丈夫かしら?」

「ちいが出会ったのも多分偶然だろう。聞いた話によると、あくまでも目的は竹泉だと思う。たまたま居合わせたからちいにも話したって感じだ。じゃあ、今度もたまたま俺が居合わせたことにすればいい。もちろん俺は他の人には口外しないと誓う。それから、できるだけ早いうちに竹泉の家に行こう。もし今日現れるとしたら多分日没後だ。日没までもう時間がない」

 亮くんもあの生物が日没後に現れると予想している。わたしの勘と同じだ。

「瑠璃ちゃん-、そうしてもらいなよー。亮ちゃんには作戦があるらしいんだ-」

「作戦?」

 作戦ってなんだろう。

「そう、作戦名、名付けて『ドイツ式のコウモリ』!」

 亮くんは、トレードマークの黒縁眼鏡を押し上げながら、ビシっとクールに決めた。

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