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一角獣

本作は「巨竜と少女の花畑」の続編にあたります。前作を未読の方でも楽しんでいただけるよう努めたいと思いますが、未熟ですので至らない点はお許しください。

また、私事の事情により遅筆となってしまいますこと、あらかじめご容赦いただければと、切にお願いいたします。

 空を飛ぶヒバリからは、地上はどのように見えるのだろうか。

 北にそびえるは大国ゴンドーヌ共和国、南方に強国エルトシアナ大王国を望み、東国ザーマ連合国は目と鼻の先。ローデシア王国東端、起伏の多い大地は、その地方独特の地形で、狭隘な谷が続く中、二本の大河が短くない距離を隔て、並んで蛇行している。

春らしい輝くような緑が地を覆う中で、時折りぽつりぽつりと人の住まう集落が存在し、中でも、西方の大河の西わきにある集落は、田畑に囲まれているからでもあろうが、広い。

 尖った大木の防柵で囲まれた、いびつな円形の中では、建物はおおよそ石造りで、屋根だけがわらで葺いてある。家屋とおぼしきものが百は並んでいるだろうか。中央には一際大きな集会所があり、また、いくつかの特殊な造りをした建物もある。

 区画整理とは程遠い町中の通りは広く、未舗装であっても清潔だ。清潔、とはいえ、家畜が放し飼いにされていて保たれる、最低限の清潔、という意味だが。

 暴れまわるにわとりを蹴飛ばしそうになって、彼は思わずたたらを踏んだ。

 距離感を失ってから一年近く経とうとしているのに、いまでも、昔と同じ感覚で行動してしまうことがある。このクセは、いけない。

 彼は、左目を失っていた。

 顔の左側には縦に長い傷跡があって、閉じた左目と交差していた。

「遅いわ、どこに行ってたの?」

 村落の中央にほど近い一軒の窓から、彼と同年代と思われる少女が、顔を突き出していた。燃えるような赤い髪が、さらりと揺れる。

「先に食べちゃおうかと思った」

「ああ、悪い。用水路の改修で、ちょっと」

 少女は窓から頭を引っ込めると、今度は戸口から飛び出してきて、嬉しそうに彼の右手を取った。

「改修って、前から言ってた?」

「そうだ。やっと俺の意見を認めてくれた」

「凄い! それって、ね、村の一員って認めてくれた、ってことよ」

「そうかな?」

 彼は懐疑的な眼差しで彼女の顔を覗き込み、それから、自嘲の笑みを浮かべた。

「俺なんぞ、なんの役にも立たん人間だ。一員もくそもありはしない」

「そんなこと……」

 彼が自らを貶める笑みを浮かべる時、彼女の表情もまた暗く沈み込む。怒るとか悲しむとかいうのではないだろう。

「行こう」 彼は顎をしゃくった。「いつまでもこうしてたら、親父さんも昼メシが食えないだろ」

「ええ……」

「それと、いつまでも右手を掴んでいるなよ。それじゃ、俺もメシが食えない」

 彼は左肩を見せて笑った。

 彼の左腕は、二の腕から先が、ない。

 反射的にぱっと手を離した彼女は、しかし、笑顔でもう一度手をつないだ。

「照れちゃって」

「照れてなんかない」

 そう言いながらも、左手の二の腕の切断部分で頬をさする仕種は、感情表現が下手な彼の、一種のクセだ。彼女は、それを知っているのだろう。

 さきほど彼女が顔を出した窓から、今度は初老の男が頭を突き出した。

「先に食ってしまうぞ、早く帰ってこい、アイマ、イッペイ」

「ああ、悪い」

 イッペイと呼ばれた彼は、アイマと呼ばれた彼女から右手を奪い返し、軽く手の平を振った。




   巨竜と少女の第二章・一角獣



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