この物語はフィクションです
作:青木弘樹
佐々木ケンジ:主人公
佐々木ケンイチ:ケンジの兄
俺は今、大金を持って路上に立っている。天気は晴れ。
どうも、こんにちは。俺は佐々木ケンジ。29歳。といっても、あと3日で30歳になるが。
フリーターで、とくに将来の夢もなし。
両親はいない。二つ上の兄がいるが、ここ数年、連絡も取っていない。兄の名前がケンイチ、そして俺がケンジ。まあ名前なんざぁどうでもいいが、もう少しひねってほしかったと思う今日この頃。
29歳でフリーター、つまり人生の負け組み…あんたそう思ったろ?甘いな。じゃあ今から言うことをよく聞けよ。
さっきも言ったが俺は今、大金を持っている。額にして数百万だ。紙袋に入っている。偽札なんかじゃない。ほら、これでも負け組かい?
まあこれだけじゃあ何のことだか分からないだろうから、きっちり丁寧に説明してやろう。今後はその日の飯に困ることもない、あんたとは違う人生を歩むことになるんだからな。
どこから話そうか迷ったが、小学生時代までさかのぼってみよう。え?そんなにさかのぼるな?まあそう言うなよ。たぶんあんたとはもう会わないだろうから、ちょっとしたストーリー、ある男の生い立ちってやつを聞いてくれよ。
小学生の頃、俺は足が速かった。学年で一番速かったのさ。そして学校全体では二番だった。じゃあ一番は誰かって?それは俺の兄さ。歳の差がハンデになったなんて言い訳はしない。悔しいが兄が学校一番で、俺が二番ってわけ。
まあ兄が卒業してからは、俺が一番で、俺が卒業した後の事は知らないけどな。
給食は残さず食べた。時にはまずいおかずもあったが、食べ物を粗末にする奴は人間失格だ。だから残さず食べた。食は生物の基本であり、もっとも大事な要素だからな。
中学の俺はサッカー部だった。足の速さを活かしたプレイヤーとして名をはせた…というような漫画のようなことはなかった。まあ…それが人生だ。
部活自体、2年の途中でやめたしな。とりあえず勉強に専念して、そつなく生きてたよ。音楽をよく聴いていたっけな。
高校では軽音楽部に入った。ギターをやりたかったんだが、途中からベースをやっていた。あの低音に魅せられのさ。ベースは目立たないポジションだが、ベースのないロックバンドなんか、醤油をかけない玉子かけご飯と同じだ。ベースが芯を支えてる。それが真実だ。
まあ個人的には、玉子かけご飯に醤油がなくてもいけるクチだが。
軽音楽部は3年の途中でやめた。就職活動のためだ。大学には行ってない。勉強はもうたくさんだった。まあ頭も良くなかったが、とにかく暗記と数字だけの世界にはうんざりだったんだ。
就職したのはカラオケボックス。最初の一年はアルバイト扱いだったが、後に社員に昇格。昇格っつっても、健康保険だの、厚生年金だのがつくだけ、ボーナスはなかった。給料は増えたが、労働時間も増えた。まあ…世の中そんなもんだ。
そして7年くらい経って店は倒産。店長は行方不明。給料は最後の分までちゃんともらえたけど、まったくついてないぜ…。
倒産する半年くらい前に、かなりかわいいバイト店員が入ってきたのにな。噂じゃその子は今キャバ嬢らしいが、詳細は知らない。
その後はいろいろバイトを転々とした。
なんとなく、やる気が出なかったから正社員にはならなかった。
欲しい物はそこそこ手に入れたし、そんなに物欲もなかった。例えばテレビは今持ってるのは22インチ。どいつもこいつもでかいテレビを欲しがるが、結局飽きるんだよ。それに後々処分するとき困る。だからドデカイのは買わなかった。部屋も狭いしな。
そして…ここからが本題。ここからがお待ちかね、メインだ。
一ヶ月前のことだ。俺は競馬でもやろうかと競馬場に向かった。それまでギャンブルといえばパチンコあるいはパチスロ。競馬はやったことがなかった。
その日は何となく当たる気がしたんだ。そして狙いをつけた馬に賭け、なんと!1万円が10倍の10万円まで膨れ上がった。ビギナーズラックってやつかな。
その一週間後、パチンコに行ったら7万円も勝った。
そのまた一週間後、パチスロで5万円勝った。
そして…今から二日前、俺は夢を見た。競馬で大穴を当てる夢だ。夢の中では20万円の軍資金を20倍に膨れ上がらせる俺がいた。つまり400万円だぜ。
これはきっと神様のおぼしめしだ。不幸な俺にゴッドブレスが吹き荒れたんだ。
そして…今から一日前…つまり昨日だな。俺は競馬に出かけた。帽子をかぶり、サングラスをして。
夢の中で見たあの美しい馬に俺は賭けた。少し手が震えたが20万の軍資金を賭けたんだ。
そして……
負けた…。
そして…今…俺は、大金を持って路上に立っている。
人がたくさん集まっている。
パトカーが3台いる。警察官は10人以上か。
俺はついさっき銀行強盗をしたんだよ。けど警察に通報され、あっけなく取り囲まれてる。銃でもありゃあ少しは抵抗できるが、あるのは小さなナイフのみ。それとスッカラカンの財布のみ。
まあいっか。刑務所に入ったら、その日の飯には困らない。
まあつまり、そういうことさ。
「動くな!」
「手を上に上げろ!」
テレビでよく見るシーンが俺の目の前で繰り広げられている。嘘みたいだ。
「分かった、分かったよ。じゃあこの(袋に入った)金はどうすりゃいい?」
「袋は床に置け!そして手を上げろ!」
「分かったよ…」
俺は現金の入った紙袋を床に置いた。
「よし!そのまま手を上げるんだ!」
警察というのは同じ事を何度も言う。うるさいやつらだ。
「…」
数人の警察官が銃を構えたままゆっくりこちらに近づいてきた。しかし、その時!
”ヒュン!”
ものすごい速さで、帽子にサングラス、マスクをした男が俺に走りより、紙袋を奪い、これまたものすごい速さで去っていた。
「!!」
「…」
一瞬の出来事に、誰も対処できなかった。
そいつは路地へと消えていった。警察はあわてて追いかけたが、どうやら捕まらなかったらしい。
俺は捕まり、当然有罪となった。刑期は懲役5年。銀行強盗にしては短かった。
後で分かったことだが…その男は俺の兄だった!俊足は健在だった。
兄は俺が捕まった一年後、万引きで捕まったらしい。
その時に、あの日のことも発覚したらしい。
兄よ、今度は二人で何かやろうぜ。
なにかでかいことをさ。
いや、やっぱ真面目に働くべきか?
真面目に働いて、いいことあるか?
あの競馬の夢は幻だったのか?
結婚しても、半分は離婚してるってか?
中小企業の社長が100万の金を資金繰り出来ずに困っている。
大企業の社長が100億の借金踏み倒して海外へ高飛び。
世の中どうなってる?それが資本主義の正体か?
つか、まあ…
どっちにしても…要するに…この物語はフィクションなんです。
けど、もしかしたらノンフィクションかも…なわけない!(タモさん風に)
おしまい☆
ありがとうございました。他の作品もよかったら見てください☆




