人を癒せない聖女は、溺愛してくる辺境伯だけは癒したい
人のことが愛せない。人を癒すこともできない。
だから人に愛されることもない。
そんな者が聖女として相応しいはずがない。皆が言うように、私は「魔女」なのだ。
処刑台の上で私はそう自分を納得させようとしていた。
——でも本当にそうなのだろうか。
そういう心の声も聞こえてきた。
その理由も知っている。
私には、ひとりだけ、心に残る方がいた。
けれど、顔もはっきりと覚えておらず、名前も知らないその方は、本当に実在しているのかも怪しく思えていた。
私の心に残る気持ちには確かな感触があるのだけれど。
「ここに、聖女を騙った魔女、エリシア・ブランシェの処刑を執行する」
王太子ヴィクトル・グランツベルク殿下が宣言した。
「この魔女エリシアは、王宮に獰猛な犬型の魔物を呼び込み、王宮騎士が討伐しようとしたところを妨害し、魔物を逃し、王国を危機に晒した。あまつさえ聖女としての資質を疑われていたところに、この暴挙。もはやエリシア・ブランシェが魔女であることに疑いの余地はない」
それは少し違う、と思った。
王宮に魔物を呼び込んでなどいない。あの子は王宮に意図せず迷いこんでしまったかのように、ひどく怯えていた。それに、ひどく傷ついて疲弊していた。あの子は人間を襲う獰猛な魔物なんかじゃなくて、恐ろしい人間から逃げたかっただけなのだ。だから私は癒して逃してあげた。
けれど、もう抗うつもりもない。きっと何を言っても、この方たちに私の声は届かない。魔物を助けて逃したのは、紛れもない事実でもある。
「恐ろしい……。魔女が王都に紛れ込んでいたなんて……。早く処刑して!」
声を上げたのは、ベアトリーチェ・ローゼンベルク伯爵令嬢だ。
私が聖女候補になった頃から、彼女はずっと私につらく当たって来た。
聖女ともなれば、王太子の婚約者の第一候補になる。辺境の平民の出自の私がそうなるのが、どうにも許せないと言われたことがあった。
今はベアトリーチェ様がヴィクトル殿下の隣にいる。これで私がこの世から消えれば、きっと満足するのだろう。
ベアトリーチェ様の声に応じるように、一人の騎士が処刑台に上がって来た。
ディートリヒ・アイゼンハルト騎士団長だ。王国最強の騎士と称され、王都と王国を守る王国騎士団を率いている。
「この穢らわしい魔女を、聖女だと言って連れて来たのはいったい誰だ? そいつも処刑せねばならんだろう?」
そう言って、ディートリヒ様が剣を抜いた。
そして目の前で剣が振り上げられる。
——これで終わりだ。やっと解放される。
私は運命を受け入れようと目を閉じた。
……。
ガシャン。
何かが落ちた音がした。
……剣が振り下ろされない。
私は目を開ける。
ディートリヒ様の手から剣がなくなっていた。
その剣は地面に落ちており、別の男が屈んでその剣を拾おうとしていた。
ディートリヒ様とは対照的な、細身の男だった。
「ああ、申し訳ない。変なところに当たってしまったみたいです」
そう言いながら剣を拾い、男は顔を上げた。
色白で、とても剣を振るえるようには見えない。
「ユリウス……貴様、ここで何をしている? 辺境はどうなっているのだ」
ヴィクトル殿下が「ユリウス」と呼ばれた男に向かって言った。
……ユリウス……ユリウス辺境伯。私はその方のことを知っている。
「今は魔物の活動は活発ではないので、ご心配なさらなくても大丈夫です、殿下」
「なぜ処刑を止める。その女は魔女だぞ。まさか王国に逆らおうというのではないだろうな」
ヴィクトル殿下の顔が険しくなる。
ユリウス様は表情も変えずに応じる。
「殿下、お言葉ですが、辺境から奪った娘を勝手に殺されては困ります。不要なら返してもらいます」
「奪っただと? 俺はおまえが王都の聖教会にこの女を押し付けてきたと聞いているぞ」
「この娘の魔力を測って、教会で預かりたいと言ってきたのは教会のほうです。最後まで面倒を見ていただけないのであれば、返していただくまでです」
「その女は王国を害そうとする者だ。生かしておくわけにはいかん」
「辺境で魔物を討伐するのに、ちょうどいい囮が必要なのです。ここで無為に死なすくらいであれば、王国のために辺境で役に立たせてから死なせますよ」
「何?」
ヴィクトル殿下が訝しげにユリウス様を見た。
「殿下、この男を斬ってもよろしいですか?」
ディートリヒ様が尋ねた。
「よせ、ディートリヒ。剣も奪われたままではないか。……いいだろう、ユリウス。その魔女を辺境に連れ戻すがいい。だが、二度と王都にその魔女を入れるのではないぞ」
ヴィクトル殿下が衛兵に指示を出すと、私の縄は解かれ、ユリウス様の前に放り出された。
見上げたユリウス様は、安堵したような表情をしていた。
※
私はユリウス様に連れられ、辺境に向かう馬車に乗せられた。
「先ほどは、ありがとうございました」
馬車に乗り、私はユリウス様に礼を言った。
けれど、すでにこの王国に絶望し、死を受け入れていた私は、本音では助けられたことを少し迷惑に思っていた。
「……何のことですか?」
「私の命を助けていただきましたよね」
「ああ……でも、魔物の囮になってもらうので、助かったと思われるのはまだ早いかもしれませんね」
そう言ってユリウス様は薄く笑みを浮かべた。
「だから私に礼を言う必要はないですし、恩義を感じる必要もないですよ」
「そうですか……」
それならそれでいい、と思った。
嫌いな人間より、魔物に殺されるほうがまだいい。
奇妙な話だが、私は人には嫌われたが、魔物には好かれることがあった。それは私の能力によるところが大きいかもしれない。私は魔力によって、人は癒せないが、獣なら癒せることがあった。
だから、王宮に紛れ込んだ魔獣の傷も癒して逃してやれた。あの子は無事で生きているだろうか。
「ところで……。ユリウス様が聖教会に私を押し付けたというのは……?」
「そのことですか……。覚えていないですよね」
「はい。幼い頃のことはあまり……。ですが、辺境の出自だということは知っています」
辺境の平民の出自というだけで、王都ではひどい差別を受け、いじめられてきた。
「ええ。エリシア、あなたは幼い頃、辺境伯領で暮らしていました。その頃は、辺境はひどく貧しい場所でした。あなたは孤児で、この貧しい辺境で暮らしていたのですが、僕はあなたがとても高い魔力を持っていることに気がつきました。それで王都に報告したところ、王都から魔力測定士がやって来て、あなたの魔力が認められ、王都に連れられたのです」
「では、王都に押し付けたというわけではないのですね」
「はい。あなたの魔力量を考えると、王都に連れて行かれるのはわかってはいましたが」
では、間接的には押し付けたということになりそうね。
私を苦しめた、あの王都に。
「それにしても、ずいぶん当時のことを詳しく覚えていらっしゃるのですね」
「ええ。あなたは特別な子でしたから」
「特別……?」
「それより、寒くないですか? 毛布ありますよ」
「大丈夫です」
「甘いお菓子はいかがですか? 先ほど王都で買ったんです」
ユリウス様は手に持った焼き菓子を見せた。
「……いりません」
「そうですか」
ユリウス様は少し残念そうな顔をした。
囮だか奴隷だかにするつもりの娘に……この人は何なのだろう、と思った。
ユリウス様は焼き菓子を食べ始めると、とても幸せそうな表情になる。
そのお顔が、なぜか懐かしいような気がした。
※
辺境伯の城には、少し見覚えがあるような気がした。
少なくとも、懐かしさのようなものを覚える程度には。
城で私にあてがわれた部屋は、そこまで広くはなかったが、きちんと手入れされ整えられた、きれいな部屋だった。
少なくとも「囮」や奴隷に与えられるような部屋ではない。
「なぜ私のことをこんなに厚遇されるのです?」
「厚遇? ああ……囮として働いてもらうので、しっかり眠れる環境だけは整えておこうと思いまして」
どういうこと? 偶然ではなく、最初から私をここに連れてくるつもりだったような口ぶりに聞こえるのだけれど。
「今日はゆっくり休んで、明日に備えてください」
私はとても疲れていた。
王都で逮捕され、処刑台に立たされ、そのまま辺境まで移動してきて、休む暇などまったくなかった。
ユリウス様の不審な行動や、明日からの「囮」で命を失うかもしれないことなど、考えたいことはいろいろあったのだが、あたたかいベッドに横になると、私はすぐに眠りに落ちてしまった。
翌朝、目が覚めて、私は辺境伯の城にいたことを思い出した。
寝室から出ると、一人の老紳士が出口にいた。
「おはようございます。辺境伯家の執事のオスヴァルトでございます。旦那様がお待ちです」
オスヴァルトさんは、その風貌も口調もとても柔らかく、不思議とこちらの緊張をほぐすような雰囲気があった。
一方で、私が目覚めるまでずっと待たせてしまっていたかと思うと申し訳ない気持ちにもなった。
オスヴァルトさんに連れられたのは、城の小食堂で、その食卓にはユリウス様が座っていた。
「おはようございます、エリシア。よく眠れましたか?」
「はい」
そうだ。今日はこの後、私は魔物の「囮」になるのだ。
「座ってください。朝食にしましょう」
「……ユリウス様と同じ食卓で、食事をとるということですか?」
「そうですけれど、何か?」
「私はこれから、この辺境伯領で、奴隷として働くのですよね?」
ユリウス様が少し驚いた顔をする。
「え? 働いてはもらいますけれど、奴隷なんて言っていないですよ。そもそもこの辺境伯領で奴隷は禁止していますからね」
「奴隷でなくとも、領主と下僕が同じ食卓につくのはありえないです」
「いいから座ってください。僕がひとりで食事をしたくないのです」
私は諦めて席に座った。
ユリウス様は満足そうに笑みを浮かべた。
逆らうほどのことでもない。どうせこの後、私は死ぬのだ。
オスヴァルトさんがパンとスープを運んできてくださった。
部屋の外で待っていただいた上に給仕までしていただくとは、ますます申し訳ない気持ちになった。
「しっかり食べてください。この後は仕事ですから」
最後の温情というわけね。これが私の最後の食事になるのだ。
私はスプーンでスープをすくい、口に運んだ。
温かくて、とてもおいしかった。
こんな食事をいただいたことはなかった。
「泣いているのですか?」
そう言われて、私は頬に涙が伝っていることに気づいた。
「とてもおいしくて……」
「そう。それはよかった。好きなだけ食べてください」
そう言って、ユリウス様はまた小さく笑みを浮かべた。本当にこの人は何なのだろう。
「お菓子も食べますか?」
ユリウス様がお菓子まで勧めてきたが、そこまで贅沢するのはどうしても気が引けた。
「けっこうです」
お菓子はお断りすると、ユリウス様は寂しそうな顔をした。
「じゃあ……食べたら出かけましょうか……」
※
ユリウス様と馬車にがたがたと揺られ、ユリウス様の言う「仕事場」に向かった。
辺境伯領には田畑が広がり、農地で働く人々は生き生きと働いているように見えた。
ユリウス様の馬車に気づくと、農夫たちは笑顔で大きく手を振ってきて、それに応えるようにユリウス様も手を振り返す。
王都では見たことがないような光景だった。王家の方にそんなことをしたら、「不敬」だと罪に問われかねない。
たどり着いたのは、辺境伯の城よりもさらに王都から離れたところにある、丘の高台だった。
「さあ、ここだ。降りて」
ユリウス様に促され、私は馬車を降りた。
その高台からの見晴らしは素晴らしかった。
丘の向こうには田畑はなく、人の居住区域ではないようだったが、手付かずの草原が一面に広がって美しかった。
ここで最期を迎えるのは悪くない、と思った。
少なくとも、あの王都で首を落とされて死ぬのより、ずっと良い。
ユリウス様は、馬車に積まれていた荷物をいくつか下ろした。
椅子や小さなテーブルや……お菓子まで。
「さあ、座って」
私は戸惑いながら、椅子に座る。
「お腹が空いたらお菓子もありますよ」
まだ言うか……。
「けっこうです」
やはりユリウス様は寂しそうな顔をする。
「それで、ここで魔物を待っていればいいのですか?」
「そうですね……。試しに少し魔力を放出してもらえますか?」
「魔法を使えばいいのですか?」
そうは言ったものの私は獣しか治せない治癒魔法もどきしか使えないのだが。
「それでもいいのですが、特に詠唱はいらないです。ただ魔法を使うつもりになれば、自然と魔力が漏れ出すと思いますので」
「はあ……」
「さあ、お願いします」
私は言われるままに、治癒魔法を使う想像をした。
確かに、体から魔力が漏れ出るような感覚があった。
「ほう……思った以上に純度の高い、すばらしい魔力だ」
「何の役にも立たない魔力ですけれど」
「そんなことはありえないです」
ユリウス様は真顔でそう言った。
すると突然、丘の中腹に、大きな山猫か豹のような姿をした大きな魔獣が現れた。つい先ほどまでは何もいなかったはずなのに……。
「やはり……思ったより早く出ましたね」
魔獣は丘をゆっくり登って、こちらに向かって来る。その歩き方に少し違和感があった。
やがて目の前までやってきた魔獣は、私が顔を見上げるほど大きかった。
ああ……この魔獣に食べられて、私はやっと死ねるんだ……。
私は自分でも驚くほど、とても穏やかな気持ちだった。
目を閉じて、魔獣が攻撃をして来るのを大人しく待った。
「何をしているのですか?」
ユリウス様の声がして、私は目を開けた。
「なぜって、私は囮ですから……。こうして魔獣を引きつけて攻撃されるのを待っているのです。ユリウス様は、それを望んでいらっしゃるのでしょう?」
ユリウス様は不思議そうに首を傾げた。
山猫の魔獣のほうに目を向けると、お座りのような姿勢で、やはり不思議そうに私を見て、首を傾げていた。魔獣の体は大きいのだが、よく見ると愛らしい顔をしていた。
私はその様子を見て、何だかおかしくなって、つい笑ってしまった。
「おかしいですか?」
「はい。この魔獣の子の様子が何だかおかしくて」
「でも、その魔獣は怪我をしてしまっているようです。治癒してあげてもらえませんか?」
ユリウス様がそう言うと、山猫の魔獣が右の前脚を差し出してきた。
見ると、そこには切り傷のようなものがあり、傷口が化膿してしまっていて痛々しかった。
「でも……私の魔法は不安定で……治せるかわかりません」
「まあ、やってみてください。その子はあなたの優しい魔力に惹かれてやってきたんです」
自信はなかったが、私は詠唱を始めた。少なくとも、この子を助けてあげたいという気持ちはあった。
「治癒」
魔法を発動すると、私の手から光が溢れた。
濁った灰色がかった光……この光の色も、王都で私が「魔女」のようだと言われる要因の一つでもある。
光が収まると、山猫の魔獣の前脚の傷はきれいに消えていた。
「よかった……」
安堵のあまり、ついそんな声が漏れた。
山猫の魔獣がにこりと笑った気がした。「にゃあ」と大きな声を出して、私に顔を擦り付けた。
そしてまた丘を下りていこうとすると、そこにユリウス様がついていった。
その中腹で、山猫が姿を消した。
そこで、ユリウス様が横に薙ぐように腕を振ると、線状に黒い光が現れ、消えた。
ユリウス様がこちらに戻ってきて、私に言った。
「お疲れ様でした。では帰りましょうか」
「えっ?」
「どうしました? お菓子食べてから帰りたいですか?」
「いえ、囮の仕事は……?」
「今やってもらったじゃないですか」
私はわけがわからなかった。
確かに魔獣を誘き寄せはしたが、何の危険もなかったから。
「お菓子食べないなら帰りますよ。ほら」
そう言ってユリウス様は私の手を引き、私は馬車に乗せられ、辺境伯の城に戻っていった。
※
それから毎日、私は丘で魔獣を誘き出す「囮」の仕事をした。
たまに複数の魔獣が現れることはあったが、ほとんどが一匹だった。
どの子も穏やかな魔獣なのだが、傷や病を持っていたり、ひどく疲弊していたりするので、私は毎回魔法で癒してあげた。そうすると、どの魔獣も甘えたような仕草をしてきて、私はとても幸せな気分になった。
王都では、人に治癒魔法が効いたことは一度もなかったのに、ここの魔獣には必ず魔法が成功した。
魔獣は、私たちが丘で座るすぐ近くに現れることもあれば、かなり遠方からやってくることもあった。本当に遠方のときは、ユリウス様が魔獣を追ってから戻ってくるまでにずいぶん時間を要するので、城への帰還が遅くなることもあった。
あるとき、ユリウス様が思い立ったように私に紙とペンと方位磁針と砂時計を与え、魔獣が帰っていく方角と、ユリウス様が戻ってくるまでの時間を記録するように依頼してきた。
あるときは北東、あるときは西、あるときは北北西と、方位は定まっていなかった。ただ、辺境伯の城や人々の居住区のある、丘の南側に魔獣が帰っていくことだけはなかった。
ユリウス様が戻るまでの時間も、目の前で数分で戻ることもあれば、日が落ちかけるまで何時間も戻ってこないこともあった。
私はそれを記録しながら、いったい何をしているのだろう、と思った。
囮の仕事以外は自由な時間が与えられた。
食事も毎食ユリウス様と取り、早く帰った日には、午後にお茶まで飲むことがあった。
あまりに心地良すぎる毎日だった。
私は何だか申し訳ない気持ちになり、執事のオスヴァルトさんに、城の仕事の手伝いをさせてもらえるようにお願いしたのだが、「エリシア様には、お仕事に集中していただきたい」と取り合ってもらえなかった。まるで私がお客様ででもあるかのように。
※
その日現れた犬型の魔獣に、私は見覚えがあった。
私が処刑されそうになったきっかけの魔獣だった。私はその再会が嬉しかった。あの子は無事でいたのだ。
けれど、それは一瞬だった。
その魔獣はものすごい速度でこちらに向かってきた。その魔獣は、私に治癒をねだりに来るいつもの魔獣とは明らかに様子が違った。
魔獣は瞬く間に私の前までたどり着き、口を開けた。
短剣のように鋭い牙が見えた。
恐ろしくて目を閉じた。
今度こそ、私は死ぬのだと思った。
不思議なことに、そのとき私は「死にたくない」、と思った。辺境に来た頃は、いつ死んでもよいと思っていたはずなのに……
そのとき、黒い影が私の前で動いた気がした。
次の瞬間には大きな衝撃音がして、地面が少し揺れた。
私は……無事だった。
「くそっ。油断した」
ユリウス様の声が聞こえた。
恐る恐る目を開けて、息を飲んだ。
ユリウス様の脇腹からひどい出血があった。
音のしたほうを見ると、犬型の魔獣が倒れて横たわっていた。
「何をしたのですか……?」
「いや、ちょっと噛まれちゃって」
違う。噛まれようとしていたのは私だ。
この方は私を庇って、こんな深手を負ってしまったのだ。
なぜ「囮」の私なんかを助けたのだ。
そのとき、私は突如思い出した。
——この方は、あの方だ。
「ユリウス様、しっかりしてください!」
「いや……うーん……困ったな」
ユリウス様の吐く息が浅くなっていく。
気づくと私は詠唱を始めていた。
私はこの方を失いたくなかった。
この方は私を魔獣の囮だと言いながら、王都では処刑から救い、この辺境では温かい食事と心地のよいベッドを与えてくださった。
その上で、魔獣に襲われそうな私を命をかけて救ってくださった。
間違いない。私の幼い頃の記憶にある方もユリウス様だ。あのときも私の心を救ってくださった。
私は人を癒せたことはない。自信など微塵もない。
それでも、どうしてもユリウス様を癒したい。
——今回だけでもいいから、どうかうまくいって。
「治癒」
私の手から灰色がかった光が放たれ、ユリウス様を包んだ。
やっぱり濁ったままの光……こんな光で人が治せるはずが……
「おお、治りました!」
ユリウス様の服は破れたままだったが、血は止まり、きれいな白い肌のお腹が見えた。
急に恥ずかしくなって目を逸らす。
でも……。
「人が……癒せたの……?」
「ああ、完璧に治りました。エリシアの治癒魔法のおかげです」
私の目からどっと涙が溢れた。
「よかった……」
私はどうしてもユリウス様を失いたくなかった。私がなぜ人を治せたのか疑問に思うよりも、ユリウス様の傷が治ったことが嬉しくて仕方なかった。
「あの……申し訳ないですが、あの魔獣も治してあげてくれませんか」
ユリウス様が、私たちを襲った犬型の魔獣を指で示した。
近づくと、その魔獣はまだ息をしていた。この魔獣の子にも何が起きたのか謎ではあるのだけれど。
「さあ、治してやってくれませんか」
「でも……」
「大丈夫です。万が一何かあってももう油断はしませんから」
私はまだ少し怖かったが、苦しそうにしている魔獣を見ていて、そのままにしておきたいとも思えなかった。
私が治癒すると、魔獣はきょとんとした顔で私を見た。
その目に、獰猛な狂気の光は見えなかった。
「やはりあなたはすごいですね。魔術による『混乱』状態の魔獣も治せましたね」
「魔術?」
「ええ、その魔獣は『召喚痕』がありました。人為的に召喚されると痕が残って、無理に境界を通されると、『混乱』状態になってしまうことが多いんです。あ、ちょっと待っててください」
魔獣が丘を下って帰ろうとするので、いつものようにユリウス様が後を追い、腕を薙いだ。
「あの魔獣は王宮を襲った子なんです。私、獣の顔を覚えるのは得意で、間違いないと思います。もし召喚されたというのなら、王宮で召喚されたのではないかと……。それなら突然王宮に現れた理由もわかります。私は慌てていたので、治癒魔法が不完全だったせいで、『混乱』状態が残ってしまっていたのかも……」
戻ってきたユリウス様に、私はそのことを告げた。
「そうですか……。ただ、あなたの治癒が不完全だったとは思いません。おそらく人為的に作られた『境界』を通って戻ったときに、『混乱』したのでしょう」
そう言って、ユリウス様が少し考えこむように黙った。
「王都がまずいかもしれませんね」
「王都が?」
「急ぎましょう。王都の人々も魔獣も危ないかもしれない」
「王都の……魔獣……?」
「馬車では遅い。僕に乗ってください」
そう言うとユリウス様の体がみるみる変容していくので、突然のことに私は驚いた。
ユリウス様が、黒い狼のような魔獣の姿になっていた。
※
聞きたいことが山ほどあったけれど、有無を言わせずユリウス様は疾走した。私は黒い毛に覆われたその背中にしがみついているだけで精一杯だった。
ずいぶん長いことそうしていた気がしたのだが、王都に着く頃、まだ日も落ちていなかった。
王都の門をくぐる前に、ユリウス様は人の姿に戻った。
「獣人ですか……?」
「うーん、まあそんなところですかね。人には秘密なので、誰にも言わないでくださいね。もちろんオスヴァルトは知っていますが。……それよりも急ぎましょう」
遠目にも、王都は明らかに様子がおかしかった。
騒音や怒号がここまで聞こえてくる。
私たちは王都の城門に急いだ。
王都の中では人々が逃げ惑っていた。
私たちは、人の流れに逆らうように王都の中に向かって進んで行った。
その先にいたのは、犬型の魔獣だった。
以前王宮で癒し、辺境で再会したあの魔獣に似ていたが、別の個体だとすぐにわかった。
しかし、その目は、辺境での治癒前のあの魔獣のように、残忍な光を宿していた。
「これはまずいな」
そう言うなり、ユリウス様が黒狼の姿に変容した。
周囲で逃げ惑っていた人々は突如増えた魔獣に、さらに騒然とし、その場から走り去っていった。
黒狼となったユリウス様は、その姿のまま、犬型の魔獣に突進していき、犬型の魔獣を前脚で薙ぎ払った。
黒狼のあまりの速さに、犬型の魔獣は反応する間もなくその場に倒れた。
ユリウス様は人の姿に戻ると、私に、魔獣の治癒を施すように言った。
私がすぐに治癒をすると、魔獣はどこかに向かって歩き出した。
まるで、私たちについて来いとでも言うようだった。
王都内では、まだそこかしこで怒号と悲鳴が聞こえていた。王都に現れたのは、この魔獣だけでないのは明らかだった。
私たちが魔獣についていくと、その先は王宮だった。
魔獣はそのまま王宮の中に入っていった。
王宮の中には、多くの衛兵たちが倒れていた。中には、王国騎士団の立派な甲冑を身につけた騎士もいたが、その甲冑は無惨に歪んでいた。とても無事だとは思えなかった。
生きている人もきっといるはずなのに、人を癒せないことが申し訳なく思った。
「貴様ら、なぜここに?」
倒れた騎士の一人が突然声を上げたので、私は心臓が止まるかと思うほどびっくりした。
「ディートリヒ様……?」
それは私を処刑しようとした……王国最強と呼ばれる騎士、ディートリヒ様だった。
「まさか……王国最強騎士が死んだふりをしていたのですか?」
「貴様らは何をしているのだ、と聞いているのだ」
ディートリヒ様は自分のことを棚に上げて、尋ねてくる。
「『境界』を塞ぎに来たんですよ。辺境にまで迷惑を被っているのでね。ついでに王都も救いに来たのです」
ユリウス様は答えた。
「わけのわからないことを……また魔物を連れ込んでいたではないか。やはりその女は魔女だったか」
「あなたに構っている暇はないので、失礼します」
私たちは、そのまま犬型の魔獣について歩いていった。
「待て。私を助けてくれ」
王国最強の騎士が、かつて愚弄した私たちに助けを乞うと?
「大人しく死んだふりをしていれば助かるのではないですかね」
ユリウス様がそう言い捨て、私たちは先を急いだ。
魔獣は王宮の地下の一室にやってきた。
そこには、魔法陣が描かれた祭壇があった。
魔獣が吸い込まれるように魔法陣に近づこうとするのを、ユリウス様が前に立って制止した。
「この『境界』を使わせるわけにはいかない」
そう言って、ユリウス様は黒狼の姿になったかと思うと、前脚をひと振りして、祭壇を破壊した。
そしてユリウス様は人間の姿に戻った。
祭壇があった場所の空間に、歪な形の空間の切れ目のようなものが浮かび上がっていた。
その切れ目の奥には、黒い森のような場所が見えた。
「これが『境界』です。人によって無理やり引き裂かれています」
その空間から、ぬっと顔をのぞかせる魔獣がいた。
「エリシア。この魔獣が境界に挟まってしまっているようです。いつものように魔力を放出して、この魔獣を呼び寄せてください。それから、『混乱』する可能性があるから、『境界』を通ったらすぐに治癒してください」
ユリウス様に言われたとおり、私が魔力を放出すると、魔獣が裂け目を通って、こちらにやってきた。
通過するときに、痛々しい咆哮を上げたので、私はすぐに治癒を施した。
「ありがとう。これで閉じられます」
ユリウス様が辺境の丘でいつもやっているように、腕を横に滑らせる。辺境では離れていてよく見えていなかったが、手首も上下し、指先も何度も往復を繰り返している。
すると、少しずつ空間の裂け目が、まるで縫い合わされるように閉じていき、やがて完全に塞がった。
「これでこの裂け目は閉じました。残っている魔獣を癒して、辺境の『境界』に連れて帰りましょう」
※
魔獣たちを鎮め、その魔獣たちを引き連れ、黒狼の背に乗って王都を出ていく「聖女」エリシアと称された私のことが、人々の間で大きな話題を集めたようだった。
魔獣たちを辺境で自然発生する正常な「境界」から送り返し、最後の魔獣まで返すと、ユリウス様が境界を縫い閉じた。
「境界」を「縫い閉じる」なんてことは、もちろん、ユリウス様の「魔族」としての特殊な能力でしかできない。
今になって、私が、「囮」として何の仕事をしていたのか理解した。
「エリシアが来てくれたおかげで、魔獣を境界から無理やり引き出したり追い返したりする必要がなくなってすごく助かったんですよ。場合によっては戦わないといけないこともあって……。魔物が発生する辺境を治めるのは、まったく楽じゃないんです。王国に魔物が溢れないよう、毎日のように『境界』を閉じないといけないのでね」
私に記録をさせたのは、「境界」の発生傾向を分析し、予測を立てて、なるべく発生箇所の近くで私が「囮」の仕事ができるようにしたかったそうだ。
ユリウス様は、私を何時間も待たせることを申し訳なく思っていたらしい。私は特に気にもしていなかったのだけれど。
その後、私とユリウス様は再び王宮に呼び戻されていた。
先の王都での魔獣発生事件についての聴取のためだ。
……と、聞いていたのだが、王宮ではさながら裁定の様相だった。
裁かれるのは、王太子ヴィクトル殿下と、婚約者で自称「聖女」ベアトリーチェ伯爵令嬢だ。
「王太子ヴィクトル殿下が魔物の召喚を主導して、ベアトリーチェ伯爵令嬢が魔物の召喚陣を用意し、王都で魔物を溢れさせ、多数の死傷者が出た。ここでこの罪を問います」
宰相閣下が裁定の開始を宣言した。
「ぬ、濡れ衣だ。俺は何もしていない。この女が勝手にやったことだ」
ヴィクトル殿下は開口一番にベアトリーチェ様を非難した。
「何を……。私こそ何も知らずに、殿下の指示にただ従っただけです」
ベアトリーチェ様も負けずに責任転嫁を試みるようだ。
「責任のなすりつけあいはいらん」
口を開いたのは国王フリードリヒ陛下だった。
「ベアトリーチェが魔物の召喚陣を用意したのは紛れもない事実。罪を逃れることはできん」
「そんな……。国王陛下……王太子殿下をひいきするのですか?」
「いや、ヴィクトルは主犯と認め、もっと厳しい罰を与えよう。
功を焦ったのか、ヴィクトル? ユリウスが辺境で魔物を防ぎ、名声を上げるのが気に食わなかったのか?」
「ち、父上、功を焦ったのではありません。これは王家のためです」
「何? 王家のためだと?」
フリードリヒ陛下が訝しげにヴィクトルを見た。
「ユリウスは辺境で力をつけ、王家を脅かす存在になろうとしています。それも、あやつが『境界』を操り、魔物を支配する力があるからです。このままでは王家を、いや、王国を滅ぼしかねないでしょう。だから王家が同等の力を持つ必要があるのです」
「戯言を抜かすでない。王国を滅ぼしかけたのはおまえとベアトリーチェで、それを救ったのがユリウスとエリシアではないか」
「それは結果であって……」
「今はその結果について裁いているのだ。たった今、おまえはその動機も犯行も認めた。これ以上、おまえの戯言に耳を傾ける気はない」
「父上……。どうか温情を……」
フリードリヒ陛下はヴィクトル殿下にはそれ以上構わず、私のほうを向いた。
「エリシア・ブランシェ、このたびは王国を救ってくれたこと、王として感謝の意を示したい。だが、ユリウスについてもそうなのだが、王都がこの惨状で、金品の褒賞を与えるのが難しくてな。そこでだ。先の『魔女』の裁定は撤回し、王家の名において名誉を回復するのはもちろん、今回の功績に相応しい地位を与えたい。王都で、聖女として仕えてはくれまいか?」
それが、フリードリヒ陛下からの提案だった。
ありがたい提案のようにも聞こえたが、返答する前に、どうしても尋ねたいことがあった。
「ユリウス様はどうなるのですか?」
それだけは確認しておきたかった。
「エリシア、僕は辺境の防衛があるから、辺境を離れることはできません」
フリードリヒ陛下に代わって、ユリウス様本人が私の問いに答えた。
「そうですか……」
私はフリードリヒ陛下に向き直った。
「では私もお断りさせていただきます。
そもそも、今回は特別に許可されて王都に参りましたが、ヴィクトル殿下に『二度と王都に入ることは許さない』と言われました。私も嫌な思い出しかない王都に戻りたいとは思いません」
私がそう言うと、ただでさえ白い目で見られていたヴィクトル殿下が、さらに白い目で見られる。
フリードリヒ陛下が大きなため息をついた。
「甘やかして愚かな息子に育てた自分を呪おう」
今度は、ユリウス様が私のほうを見る。
「エリシア、『囮』の仕事のことなら気にしなくていいですよ。僕は今までひとりでやってきたのですから。王都の暮らしがよければ、僕に気をつかう必要はないです」
私はユリウス様を睨んだ。この人は私の気持ちがわかっていない。
「私は辺境に住んではいけないのですか?」
私の剣幕に、ユリウス様がたじろぐ。
「いや、でも、辺境にはあまりおいしい焼き菓子もないですよ……」
「そんなものはいいのです。私は辺境に……ユリウス様の領地にいたいのです」
※
「なぜ王都より辺境を選ぶのです? せっかく王都で認められたというのに」
辺境に戻る馬車の中で、ユリウス様がまだそう尋ねてくるので、私は何だか少し腹が立ってきた。
「ユリウス様は、なぜそこまで私を王都に追いやろうとするのですか?」
「追いやるだなんて……」
ユリウス様は、私が怒っていることには気づいたようだった。
何かを決めたかのように、ひとつ息を吐いて、ユリウス様が言った。
「わかりました。本当のことを話しましょう」
本当のこと?
「何のことです?」
「エリシア、あなたはなぜ人を癒すことができないのか、考えたことはありますか?」
「私に魔法の才能がないからです」
「いえ、違います。あなたほど才能のある者はそうそういないでしょう。では、なぜ魔獣や私のことを癒すことができるのか、考えてみてください」
「そんなこと……」
私は、濁った光を放つ私の魔法を思い浮かべる。
ユリウス様は魔族の獣人で、私は癒すことができる。魔獣も……。
「あっ……」
「わかりましたか? あなたは、魔族なのです。だから、その魔力は人ではなく、魔族や魔獣を癒すのです」
「嘘……」
もちろん、私は驚いた。けれど、それが本当なら、私はユリウス様と同じ種族ということ? そう考えると、何だか嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
「僕は魔界を追われて、この王国にやって来ました。そのとき、魔界で孤児だったあなたに出会い、こちらに一緒に連れてきました。僕は運良く善良な辺境伯に拾われて、養子にしてもらいました。しかし、あなたには、辺境のように魔界に近い場所ではなく、人の中で、人として普通に暮らしてほしかったんです。それで、魔界に近い辺境ではなく、王都で過ごせるように計らったのだけれど……。気づけばあなたは『魔女』にされてしまって、僕は大きな過ちを犯したのではないかと思いました。ですが、改めて人に認められるのであれば、王都で暮らすことをまた考えてもよいのではないかと思うのです。僕のような魔族と、辺境で魔獣の相手をするよりも、王都で聖女として暮らすほうが幸せになれるのではないかと……」
私はユリウス様の言葉を遮る。
「人として、と仰いますが、私は人ではないのですよね?」
「……はい」
「それなら、私は人として認められたいとは思いません」
「……」
「そんなことより、私が一緒にいたい方といたいです」
ユリウス様は困ったように言葉を詰まらせた。
「ユリウス様……。以前、王都にいらしたことがありますよね? 私に会いに」
「はい。覚えていましたか。あなたが王都に行った後、どうにも心配で、様子を見に行ったことがあります」
「あの頃、辺境からやってきた私は、王都でいじめられて、友人と呼べるような方もおらず、とても寂しかったのです」
「そうでしたか……」
「でも、その日、見知らぬあなたが私のところにやってきて、『いつも私を見守っている』と仰ってくれたのです。何を言っているのだろうと思いながらも、私はそのとき、救われた気持ちになりました。そして、私は幼いながら、あなたが特別な存在だと思いました。今思えば、私は恋をしたのだと思います。それからあなたが再び来てくださることはなかったのですが、それでもずっとあなたを想っていました。だから、王都ではなく、辺境で、ユリウス様と一緒に暮らしたいのです」
私の話にユリウス様は驚いたような顔をして、照れくさそうにした。
「本当は何度も会いに行こうとしたのです。ですが、僕が近づきすぎることで、あなたの素性が調べられるのはまずいと思って……遠くから見守っていました。あなたが王都でつらい思いをしているとも知らずに」
そう言ってから、ユリウス様が焼き菓子の入った袋を差し出してきた。
「お菓子を食べますか?」
ユリウス様がそう尋ねてくるので、私は笑みを浮かべた。
「はい。本当は甘い焼き菓子が大好きなんです」
ユリウス様も笑顔を見せた。
「知っています。だからいつもお菓子を勧めていたのです」
ユリウス様は私の目をまっすぐに見た。
「あのとき、救われたのは、僕のほうでした。辺境で激しい魔物の侵入があった頃で、僕は心身ともに疲弊していました。あなたは覚えたての治癒魔法で僕の傷と疲れを取り除いてくれました。それから、あなたは持っていたお菓子を僕にくれました。あなたの大好物だと言って。それは、僕の心も満たしてくれました」
私は勧められた焼き菓子を食べ、ユリウス様も同じ焼き菓子を食べた。
「こうしてあなたと一緒にお菓子を食べていると、とても幸せを感じます」
ユリウス様は本当に幸せそうに微笑んだ。
「本当は、あなたに王都に戻ってほしいなどと思ってはいなかったのです。あなたとの辺境での暮らしは楽しくて、ずっと一緒にいたかった。でも、そのことで、あなたの幸せを奪いたくはなかった。でも……」
ユリウス様はまた、私のことをまっすぐ見つめた。
「やっぱり、僕もエリシアと一緒に過ごしたいです」
その目に強い決意が見えて、私はやっと安心した。
今までに感じたことがないほど、とても幸せな気持ちになった。
「もうあなたを手放したくはないです」
ユリウス様はそう言って、私の手を握った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白かった」と思っていただけたら、
①ブクマ登録 ②★評価 ③一言感想
のいずれか一つでもいただけると、めちゃくちゃ励みになります。
改めて、ありがとうございました!




