望まないシンデレラストーリー
「お迎えに上がりました。───第十二皇子」
齢十歳の誕生日の時に多くの人が家に来た。
毎年、いつもと変わらないホームパーティー。事前に狩っておいたオークの肉を使った料理は楽しみでもあった。なのに……それらは食べられずに今乗っている馬車に運ばれた。そう、母様とは別々にされて。
美しい執事、美しいメイド……世の男女からすれば煌びやかで楽しい世界なのかもしれない。だけど、僕は知っている。今から運ばれる王家というのは最低最悪な伏魔殿だ。それが分かるからこそ、少しも嬉しいという感情が湧きやしない。
「ローラン様、現在のリーディス王国の状況について御理解はどこまでしていましょうか」
「えーと……難しくて分からないな!」
「……申し訳ございません。貴方様の周囲にいる者達は先代の王に仕えた者達。既にロード様からローラン様が転生者である事は伝えられております」
ロード……何度聞いても、そのままの意味だな。
王国のために母を捨てた存在、だというのに、隠れて何度も誕生日を祝いに来た馬鹿父だ。当たり前だけど事情は理解している。国王ともなれば自由に動けないのは当然の事だ。……だけど、その父が暗殺されたのだから本当に興味が湧かない。
「……代理国王となった途端に情勢が悪化した。外交を重視していた父ならば確実に行わなかった戦争重視の方針だったか」
「ええ……当然の事ながらマリア様は王家に名を連ねはしますが縛られる事はありません。ですが、ロード様の遺書が、ローラン様を指名した時点で他を当たる事は出来ません」
「興味が無い、やる気もない……父を殺した輩をどうして生かさなければいけないんだ。どうせ、王となっても見せかけだろ。それなら席を外したままの方が楽でいい。そうだな」
「駄目……さすがに見過ごせない」
いきなり、対面の女性が俺の腕を掴んできた。
いいや、分かってはいた事だ。見えないように調整をかけてはいたが掴まれた左手首には魔道具がある。静かに魔力を集めていたというのに……今ので拡散されてしまったよ。
「バレましたか」
「……集中していたから分かっただけ。私じゃなかったら確実に二人に逃げられていた。十は魔法陣が描かれていたから多分……追えないと思う」
「そこまで分かるなんて、王国の人間でも面白い人はいるのですね。まぁ……宮廷第一魔道士ともなれば当然の事でしょうか」
全員が驚いたような顔をしたが……分かるだろ。
だって、目の前の女性の魔力量は冒険者として上位にいた母様より多い。それに手の紋章からしてそれなりに生きていた事が見受けられる。なのに、美しく若さを保っていられるなんて一人しか僕は知らない。それに他だって、そうだ。
「さすがに分かりますよ。先程までは出方を伺っていただけです。隣に座る執事は執事長のメイガス殿、反対に座る侍女は侍女長のイザベラ、今し方、僕の魔道具を看破した女性はマーリン……そして横で馬を走らせているのは」
「ハッハッハ! お初にお目にかかりますな! 我が名はジークといいますぞ! これからはよろしくお願い致しますな!」
「……どうして、これだけの人を……なんて聞くのは意地が悪いですかね」
僕が転生者だから、そして、手を焼いたからか。
父様の願いは聞いていた。だから、父様にバレた時から一緒に良い国について話をしていたんだ。どういう世界で生きていたいとか、どういう世界なら皆が幸せになれるかなんて話していた。きっと、それは父様の手には過ぎたものだったのだろう。
「ロード様は貴方様を絶賛しておりました。王国を良くしたいと改革に励んだのも身分の違うマリア様と共に過ごすため、そして政策に手を貸していた貴方様を頼らない忠臣がいるのでしょうか」
「……聞いていましたよ。貴方達の名前は父様から何度も聞かされていました。誰を取っても誇りと思える程の臣下達だ、と」
その言葉を聞いた瞬間に全員が俯いた。
知っている、彼等は本当の意味で父様が召し抱えていた者達だ。知らないフリをしているがメイガスには幼い頃に何度か、抱き上げられた事がある。父様が大切にしていたからこそ、僕だって無碍には扱いたくはないが……。
「わ、私は……貴方様が王となる事を望みます。王となる道を選ばないとなれば共に進む事すら認めましょう。ですが……どうか、ロード様が望んだ世界を見たいのです」
「イザベラ……はぁ、なる気はありませんよ」
それは今の状況では変わらない事実だ。
若いように見えるが既に五十は過ぎているはず、そんな地位も経験もある存在が涙を流している。本当なら素直に認めてやればいいのに……そんな事が不可能である事を嫌という程に僕が理解してしまっているんだ。だから、言い訳のように四人に聞こえるように続ける。
「ですが、幾つかの条件を呑むのなら王城までは行ってもいいですよ。王になるかは現状を見てから考えます……それで構いませんか」
『ハッ……!』
どうか、この四人に幸福を……。
ただただ、美しい月に願うしかなかった。
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