粘土美容術のソフィー
市場へミナミダ伯爵家のオリビアが久しぶりに来た。
「おはよー、アカリーヌ様、マジ市場ね! 姫のビューティーコーナーにいるって。ちょーウケるんだけど!」
「はい。縁がございまして」
(それより、一緒にいるのは誰だろう。貴族ではないらしいけど)
その女性はポニーテールでまとめた髪。シンプルなワイシャツに動きやすいようなキュロットスカート。
相手とは挨拶も簡単に、オリビアが紹介してくれる。
「粘土美容とかでマジぱねぇ、ソフィー様連れてきたんだけど。可愛くなりたい人を応援してるんだー!」
「初めまして。わたくしがソフィーよ。あらあら、お店はこんな奥まったところにあるのね。これじゃあ、お化粧品も売れにくいでしょうねぇ」
「はい。あまりね」
(余計なお世話だって。なにしに来たんだよ)
「いまは商店街でのんびりと施術してますね」
「存じ上げておりましてよ、貴族様ってば、のんびりなさっていらっしゃるのねぇ。その、竜の涙とか仰るものでしょう? わたくしがもっと売れるようにして差し上げますわよ」
「ま、有難いことではありますが、お金がかかるとか」
(アーホカのやり方にこりてもいるし。粘土美容とは関係ないじゃん)
それでもオリビアが話す。
「なんか粘土に竜の涙混ぜるとかマジ意味わかんねぇんだけど、ダチがあり寄りのあり! ま、今日それ買いに来たわけ」
「それならね。裏で湧いてますから」
(あ、言わないほうが良かったか)
「あら、湧水ですのね」含み笑いのソフィー。
「大地の恵みなのね。知ってますわ、粘土も同じこと。相性はよろしいのですよ。ええ、使って構いませんわ」
(ぅわ、なんだ。この上から目線は。いちおうは買いたいと言うことか。ま、貴族と違って、施術の腕も確かなんだろうけど)
業務提携ということらしい。
「はい。椿油もお付けして一樽5マニーです」
「あらあら、欲なんてございませんってことですの? 商売には意欲も肝心ですのよ。まっ、お安い方がよろしいですわね」
「ありがとうございます。温めてお使いください」
樽を準備しながら、コーセンスイについても話す。
「あら、美容術というものは、形もまた重要なのですよ。もっとお勉強なさいな。あの、アホなんとかは、全く参考になりませんけどねー」
(たしかにあの子爵の女は口だけが達者だよね)
「あまり。はい。施術は始めたばかりで」
「ミナミダ地方の店にいらっしゃい。教えて差し上げてもよろしくてよ」
「なにかあったら。いまはまだ」
「美容術を名乗る者は多くてよ。この国では粘土美容術が双璧なの、お判りでして」
「それは。双璧ですか、凄いですね」
(粘土美容術に興味もあるけどさ。なに威張ってるんだろう。ま、売れたから良いや)
オリビアが耳打ちしてソフィーのことを教える。
「ダチの家系、マジ代々美容術の先生やってるからさ、話し方とかもう天狗通り越して神レベルっしょ!」
「王女様と同じだね。買って貰えて助かるし、ありがとうね」
(施術してるときは、どうだろう。たぶん違うよね)
すくなくとも何かが動き出した。
(でも、双璧って。ほかに何かあった。あの女であるはずはないし。こんど、調べてみよう)
美容術の世界が複雑に絡み合うのだろうか。




