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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
2章・美容術の対決だが相手は魔王エーアイのカガクを信じていた
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施術対決の前哨戦

  次の日、ダニエルは樽も軽そうに早足で急ぐ。ハルナと会うのを楽しみにしていた。

 しかし立ち止まる。それでも、ゆっくり恰好つけるように歩きだした。

「王女様が、もういらっしゃるからね」

 ダニエルは緊張もしているのだろう。それにマームもうなづく。

「王女様のことでございます。せっかちですから、なにか始めるとか」

「そうかもね。競うとかおっしゃってたけど」

 話ながら近づくと、さっそく声をかけた。

「待っておった。美容術の対決じゃ。前哨戦を始めるでな」

「いまからですか。あの。なにをどうしてどうなるのか。ご説明願えれば」

「そうだったな、初めてか。ハルナも参加せよ。アカリーヌは習うと良い」

(ほんと、大らかというか、おおざっぱというか)

「予約客があるよってなー、堪忍や」

 やはり逃げにはいるハルナ。

「いつもじゃな。よい。それではアカリーヌ。客は通行人から見つけるゆえに。施術の準備をいたせ」

(だから、詳しく聞きたいんだってばさ)

 キャリロン王女の後ろには侍女が付き添っていたが、イザベルと名前は分かる。王女の付き人みたいな役柄だ。

 頃合いとみたのか、アーホカが「王女様」と声をかける。

「ゲストを呼んでおりますので。いつでも美容対決を始めさせていただけます」

 やる気満々だし、いつものパターンだろう。こうなれば乗りかかった船だ。

「今回は試しと言うことですね。あの。普通に施術すればよろしいのでしょうか」

「そうじゃ。あとから、お互いに相手の施術を批評し合え」

 キャリロン王女の言葉だが、ビンタ美容に文句をつけて良いのか。アーホカなら言い返してくる材料も揃えているだろう。

(他人の美容術に、あれこれ言いたくはないけどねー。お客様の反応がすべての答えだと思う)

 まずは、ゲストへ料金の説明が必要だろう。

「施術料が20マニー、竜の涙は1樽5マニーで販売しておりますので、お気軽にご相談ください」

「さすが男爵家、安価ですわよねー」

 アーホカの言葉は無視する。

(ゲストはあの人の知り合いだろうから、不利になると思うが、どうだろう。綺麗になりたい女心に友情は邪魔できないはず)

 この隙にダニエルはハルナとお喋りをしている。目を向けると、それでは、と帰っていった。

 コマチと名乗るゲストを、アカリーヌは受け持つことになった。浴衣を着け、小顔で目が大きい女性。

「貴族様に肌のお手入れを任せるなんて、恐れ多いですが、お願いいたします」

「大丈夫ですよ。いまはコマチがお姫様、綺麗になる手伝いをしますからね」

 緊張していては、美容効果も半減する。気持ちをほぐすことから入るのは基本だろう。竜の涙をつけて、しばらく置く間はリラックスタイム。

「商店街へはお買い物かしら?」

「押し入れの底に敷いて、押し花をね。卸して売ってます。小遣い稼ぎにはなるよね」

 コマチもリラックスして普通に話す。

「かわいいよね。クローバーなんかは」

「四葉でしょ。あんがいないよね。見つけたら、自分で持ってる」

「私も、そうする」

「でしょ」

 表情筋を動かせば、なお温熱効果は上がるかもしれない。

 椿油をつけて、リン波念力を送る。耳の周りから首筋へ。肘をあげないと、難しい。

「ご自分でなさる場合は、反対側の手でやりやすいですよ。右手で左のうなじから肩へ撫でおろすようにね」

 ちゃんと鎖骨までたどれば効果は増すと説明した。

「肌へ軽く触れて、ゆっくり。そんなに長くする必要はないから」

 コマチはマッサージでうっとりした表情だが、肌を長く刺激しすぎていいことはない。乾いたタオルで余分な椿油を拭き取る。

(これで、当たってるはずだよね。うん、実際に他の方へ施術なんて不安しかない)

 竜の涙に効果があるのは確かだ。美肌効果のあるアルカリ温泉水だから。それでも、マッサージには相手との相性もある。お客様は感想をいうことも少ないだろう。

 背もたれを起こして、コマチへ鏡を見せた。

「なるほど。ふむふむ」

 ちょっと頬を指で摩る。

「あれだね。うん」

(褒めて欲しいけど。大袈裟にされても興ざめだし)

 なにかコマチの思いが読めない。相手の方は未だか目を向けるとアーホカと視線があった。

「もう済んだのかなー。やはり素人技だわ」

 なにか挑発したいらしい。

(そうか。あからさまにコマチが喜ぶとアーホカが気分を悪くするはず。よし。自信を持とう。半分はったりで良い)

「リン波念力を使えば、すぐに綺麗な肌になりますのよ。個人差はありますけど」

「それで。ほんと、きめ細かい肌だね」

 コマチがアカリーヌをみつめていう。そういうことにして置こう。アーホカとしては、貶してほしかったらしい。舌打ちして、自分のところへ引き返す。

 アーホカは施術をしないのか、王女とアーホカより気になる施術者だ。

(施術している令嬢とあの女は双子かもしれない。髪型も似てるけど、顔も似ているし)

 魔女からきいたことのあるリアルバーチャルか。どちにしても、競うのは美容術ひとつ。魔王エーアイと関わるなら厄介だと思いながらも、いまは相手の施術結果を待つしかない。

 ビンタ美容が終わったらしい。背もたれを上へ上げる仕草が見えた。

「これは! 湯上りみたいな肌」

「お判りかしら。お風呂あとで浴衣姿の乙女。人気のトータル美粧ですのよ」

 おほほ、と変な笑い方までするアーホカ。キャリロン王女も満足そうにうなづく。

「さすがであるな。お互い相手の肌へ触れて、批評せよ」

 気になるのは、やはり赤らむ部分。アカリーヌは、そー、と相手の頬へ触れてみる。

「しっとりしてるよね。そうか、ほんのりとピンクに変わるのかな」

 血流は良くなり、表情筋肉が忙しく動いたのだろう。

(もしかして汗かもしれない)

 しかしアーホカは美容術に自信があるようだ。

「分かったようだね。王都で私に敵うのはいない。今からでも授業料を払って習え」

「それより、こちらも。湯上りとまでは行きませんが、温熱効果がございます」

「あんな手抜きマッサージで良くなるわけがない」

 アーホカがコマチの頬へ触れた。少しだけ眉がピクつく。

「コマチは元から綺麗な肌だった。まー、一応は頑張りを認めよう」

 肌の変化へ気づいてもいる表情。ここで負けを認める女性ではないようだ。互角だとキャリロン王女が判断したらしい。

「明日からの勝負が楽しみじゃ。勝者に賞金千マニーを与えるでな。明日は美容の講師から詳しく説明させよう」

 詳しい説明を聞くのはありがたい。それにしても、立て続けに対決では大変だ。

「すぐ明日でしょうか。普通のお客様へ、もう少しは施術を試したいのですが」

「心配ない。午後3時から始まるでな。明日もいつもの時間に参れ。そのときに説明じゃ。続けるからイベントの効果もあろう」

 そういえば、観客が何人か遠回りに眺めていた。まえもって知らせたのだろう。これは良い宣伝にもなるはず。

(ここは流れに任せたほうが良いかも)

 賞金も10万円ぐらいだろう。想像できる大金だ。


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