ラスボスとの戦い
いつも座るベンチあたりの公道。なにか騒がしい声がする。
「考え直してくだされ」ヨシキの声だ。
ショーモナイ子爵家の馬車と並ぶように走る二頭の馬。ヨシキとゼンタが馬車を止めようとしているが、鞭を振り追い払うのは御者台のゲーヒン。
「何事じゃ」
「もしかして脱走」
ヨシキの正義感から予想した。
「乗ってるんは、あの元伯爵かー」
「馬車を盗みしか。ショーモナイ子爵様は屋敷を留守に遊びしゆえに」
4人が公道へ出て馬車の前に出た。
「おやおやおや、良いところに」笑って言うトーナリーノ元伯爵。
「見よ。オリコオ王子を人質にした。まだ私の夢は終わらない。天守閣の武器があれば、騎士たちを脅して味方にできる」
「オリコオは大丈夫であるか」
「私は元気じゃ」低い姿勢で座るオリコオ第二王子の声。
「縛られておるが、王族の身の振り方は知っておる」
「元伯爵。実行するとは哀れなり。天誅をくださん」
オリエが傘を前へ傾けた。
「オリコオ王子も犠牲にできるか。どうか王女様」
「危ないでー。いまはなー」
「仕方ないんじゃ。元伯爵、何が望みじゃ」
「私を摂政にさせよ。いつもオリコオ王子は人質にしておる。この条件を王様につたえろ」
「王女様に命令するか。もう怒った」
「そこから蹴飛ばせるか。しょせん女だな」
「かまわん、天下の平穏こそ望む」オリコオ王子が叫ぶ。
「オリエ。カラクリガサを使え。命令である」
「やむなし。チハヤブレチハヤブレ」
回る傘。黒い渦が巻きが広がり、竜巻に似た風が起こる。
「ヨーキ姫様?」
竜巻に引き込まれるようにトーナリーノ元伯爵の服が巻き上がる
「相手が違う!」
トーナリーノ元伯爵が慌てて幌の枠を掴み身体を支えた。
オリコオ王子も枠へ身体を寄せるが膝が浮き上がり「このやろー!」脚を伸ばした。
蹴飛ばしたのだ。
「わっ、なっなっ」
トーナリーノ元伯爵が席から飛び出して、地面へ落ちていく。
「回れ、蹴飛ばせ」
反対側へ急ぐ。
起き上がるところへ、顎から蹴り上げた。
「ぅごっ」仰向けに倒れるトーナリーノ元伯爵。
「残念やなー」ハルナが指で腕を突いた。
「ほんと。これで、美容術が再開できるよね」
「まだだ」ゲーヒンが横から抱きついて来た。
「この女を」
「邪魔なの!」肘で相手の腹を打つ。
動きが止まった身体へ膝蹴り。
「ぅわっ」転がるゲーヒン。
(あら、また、あそこへ当たったのかしら。ぐにゃ、と柔らかかったけど)
ゲーヒンは臍の下あたりへ腕を伸ばして悶え苦しむ。
「なによりで」荒い息でニーバンの声がした。
振り返って見れば、走って来たらしく息を整えている。
(わーっ。見られた)
騒ぎを見て駆けつけたか、各国の王様たちが遠巻きにしていた。
「あの。黒幕を捕まえたよ」
「いいのだが。なにか。いいか」
「いつものニーバンらしくないね」
「回れ蹴とばせ、から聞こえたから。あとはヨシキとかに任してもいい状況だろ」
「ゼンタなら頼れたかもね。つい、やっちゃった」
(ぅわっ。何人いるんだよー。見ないふりしよっと)
「とりあえずさ。父へ報告と。あとはニーバンが仕切ってくれるでしょ」
「王様も聖女様もいらっしゃるから。それより、アカリーヌが考える施設を作ろと思う」
「えっと。美容術とか食堂とかいろいろ考えてるけど。王女様やハルナ様と話し合わなきゃ」
「一緒に考えよう。力になれるから」
「ええアイデアやでー」
ハルナが近くで言う。オリエと一緒に話をしていたらしい。
「王女様は。あら、馬車に」
オリコオ王子と一緒に話している。ヨシキとゼンタは離れた場所で、あっけにとられた表情だが剣を持っている。
「剣なんて危ないでしょ」
その言葉に残念がるヨシキ。
「なにがあったか気づかないのかー」
ゼンタが説明する。
「ここで黙ってみているわけないだろ。喧嘩してたんだ。兄上は弱いし」
「そうだね。結局は一対一だと。それで」
ゲーヒンはアカリーヌを人質にしようとしたらしい。
「逃げたのですね」聖女が元伯爵へ近づいて来た。
「伯爵を引退してもらいますが、刑期が終えると隠居として王都屋敷で住むのは許可しようと思いました。裁きもまだなのに、欲に流されて残念です」
「誘拐じゃ」馬車のほうから声がした。
「王族を誘拐しおった。極刑じゃ」
「裁判で罰は下ります。荷馬車へ」
駆けつけた騎士へ指示した。
オリエが聖女へ相談もあるらしい。
「一連の混乱。美容術における被害であるゆえ。その裁きこそ肝心と思いそうろう。いかが」
「このまえもお話しされてましたね。ゲストの方々にも証言していただきます。いいのですか、オリエ様は強要されただけと判断してます」
「左様なことでは、美容術ができませぬゆえ。罪を償いて、機会をいただけたらと願いそうろう」
「のちの裁判も王様がご判断なさいます」
(たしかに、美容トラブルだから、ゲストの証言はたいせつだよね。強引に元王子が罪をなすりつけようとした裁判だったから。うん、オリエ様は美容術を続けたいらしい。リン波念力の美容術に関心を持っているのも確かだよ)
なんとか、恋と美容術の生活が戻るはずだ。
・
非公開で裁判は行われた。ただの水を使うことになったらしいが、アーホカが顔に伏せるタオルへ大地の雫を染み込ませたようだ。
オリエは美容トラブルで収めようと、姉の所業を言わなかったらしい。ここまで大騒ぎになるとは思わなかっただろう。
「美容コーナーで働くことになったんじゃが、準備もあろう」
「オリエ様は起用やでー。ツボ美容もできるでなー」
「そうじゃ美容術が被るのを避けておった。これからツボ美容をするつもりじゃろー」
「ツボ美容のファンはおりますからね。それでハルナ様は?」
(答えは分かるけどさー。すっかりフーモト地方で住む気になってる)
「温泉はなー。マッサージもするらしいでー。ツボをたまに施術するのもええなー」
「温泉は効果もあがりそうだね。大地の雫は酸性とかいってたけど、あれも使い方でしょ」
「そうじゃな。皮膚病や、ニキビに良いと聞く。何でも使い方を間違えないことじゃ」
(列車があるから行けるかも。酸性のコーセンスイも試してみたいね。肌の健康にいいんだよ、きっと)
美容食があるし、総合的な美容術へ関心を持ち出した。




