妖鬼姫とオリエ
(やはりサンマはめぐろじゃなくて、あかしやでもないって)
戸惑いながらも雛壇に座るアカリーヌ。仕出しの食事は冷めきっていた。サンマが大漁らしく、仕出しにはいっていたが、スパイスだけが強い気がした。
(元王子が豪快に骨を捨てて食べてたのはおいしそうだったし。うん、ぜんぜんちがう)
「肩が凝るなやっぱり」
ニーバンが隣で退屈そうに言う。金色の羽織姿だが、王様の威厳は感じられない。
「なんとか銅板に国名と名前を刻んだんだから。解散すればいいのにね」
「王様たちの交流もあるらしい。いろいろ協力する部分もあるようだ」
「私は関係ないし。それにやることもある」
「美容術か。続けるのもいいさ。どうせ、対外的に王国。実際はアトゥカラ王国の一部みたいなものだから」
「それじゃなくて黒幕。フンヌウ以上に悪い女がいた」
「女か。どっちにしても危ないことは騎士に任せたほうがいい。美容術なら応援できる。ご祝儀は、このニーバン王国のものだから、アカリーヌが好きにつかっていいよ」
「庶民が。そうだ、国民っているの」
「ボンクラ地方へ戻ってくる庶民もいるし。流刑地にいた人々は新天地が欲しいだろ。誘うつもりだ」
「考えてはいるんだ。あっ、卵を食べる約束をしてた」
「王女様とハルナか。仲が良いんだな。どこかで食べてるはず、二階かな。王女様にしては目立たない役に徹しているな」
「そうだね。でも、庶民と仲良くしたいんだって。そうか食堂なら」
「美容術は?」
「肌には食事が大切なの。この冷めきったのより庶民のつくるのが美味しい」
「ニーバン王」呼びかけたのはヤマコエータ王。
「まさに、名案であろう。みんながメンツをつぶさずに済む。アカリーヌ王女様もあいさつ回りなされ」
「あの。いや。用事がある、のじゃ」
「王女様の真似か、似合わないな」
ニーバンが面白そうに笑う。
(堅苦しい挨拶なんてむり。逃げる理由は。あっ、あった)
「急なことでございまして、ご両親、じゃなくて。両親に報告いたしたく思います」
「そうであったな。まだ王都から戻らぬか」
「母は屋敷におります。父もそろそろ戻ってくるかと」
戦争が避けられた報告は船で伝えられたはず。
そういうわけで、無事に抜け出した。
(やっぱり庶民が集まるのとはちがうよ。へんに澄ました王族と、同伴した重臣の貴族たち、話が合いそうにないし)
雛壇を降りて迎賓館の建物を出る。駐馬車場の庇に停まるのは2台の荷馬車。
(捕まっちゃった人たちだ。ご飯は食べたのかな)
騎士に見守られながら食事は終わったところらしい。キャリロン王女とハルナがまえにするのは、オーボチャマ元王子たちが乗る馬車。フンヌウとアーホカが一緒だ。
「知らないってば」アーホカが叫ぶ。
「フンヌウ様は罪を逃れたいのでしょう」
「なにをいまさら。妖鬼姫様は存在している」
「作り話。オリエもほんとは存在しないの」
「いや、確かに居たぞ」オーボチャマ元王子が興奮したように言う。
「アーホカは罪を逃れたいがために、ボケた振りをしとる」
「もうバレてるから」フンヌウはすっかり諦めている。
「牢屋でスローライフするしかない。良い夢をみさせてもらった」
「主犯はフンヌウ様じゃ」
オーボチャマ元王子は、騙されただけ、と主張。罪を軽くしたいらしい。
「私は王族じゃ。子爵として田舎でスローライフする権利はあろう」
「遅いのじゃ」キャリロン王女が覚めたようにいう。
「ハーマベ王国の大使である私に剣をむけおったな。ハーマベ王国の掟で極刑じゃ」
「ここはアトゥカラ王国じゃ」
「新国家を企んだ反逆者であろう。あれほど、忠告したのじゃが、無駄であった」
「聖女様と王様が判断なさるでなー」
(たしかにねー。ここで話しても何かが変わるとは思えないし)
「それより、オリエ様に会えないかしら」
「アカリーヌサマ」皆が驚いたように口に出した。それほど話へ夢中だったのだろう。
「抜け出しちゃった、でございます」
「ちょうど良いところじゃ。妖鬼姫について聞いておった」
「屋敷におるはずだからのー」
「存在してない。私の想像なの!」
アーホカとしては意識の分身という主張を曲げたくないらしい。
「会いに行こう。屋敷にいらっしゃると聖女様がおっさ、おっしゃてた」
「それじゃ。道も空いて来たであろう。話してたところじゃ」
「証をなー。させるためにアーホカ様をお連れしようとしとるんよ」
「名案だね。ザコ、フンヌウは正直に言ってくれるでしょ」
「お会いすることは。恐ろしい」
怯えるフンヌウ。
「顔は知らん」オーボチャマ元王子は他人との顔。
「この失態は、あいつら、ボンクラたちのせいじゃ。妖鬼姫様も分かってくださるであろう」
「それはない」
ボンクラ元子爵と三兄弟が急に罪を負わされて、焦るように言い訳を始める。
そこへ門番の騎士が急ぎ足できた。
「ショーモナイ子爵様のオリエ様がご到着です」
「なんの用じゃ」
「王女様にお会いしたいと申しでております」
「わざわざ出向くとはのー。普通は、この騒ぎを知れば逃げるでー」
「まず、話してみよう。聞きたいこともあるし」
(美容術に関心をもっていたようだし、本心を知りたい。すぐに攻撃はしないでしょ)
門で待つのは、竹を組み作られる、黒い日本傘をさすオリエ。三人でオリエに近づく。日傘は白い帯がらせん状になった渦巻き模様。
(あれは。イケスカナイ王朝の紋章だと聞いたけど)
父のフーモト男爵が持っていた古文書に描かれた図柄を思いだす。
オリエが軽く会釈する。
「王女様が住まいをお移りなさったくだり聞き及びしが、乱れし時世ゆえ、お目通り遅くなるなり。民の噂も知りたいゆえ、船で参りそうろう」
(悪いことを考えてるように見えないけど、作戦かしら)
「気にしなくていいのじゃ。それより、アーホカへ会いに来たのじゃな」
「姉上様には伝えし言葉もありしが。トーナリーノ伯爵のくだりが疎かに思い至りて伝えもうしたき」
「これから取り調べもあるのじゃ。わたしから伝えるぞ」
「すでに牢屋へ移ったくだり。かの人が買収ぜし者も多し。いまの状況はいかが」
「買収であるか。牢屋から逃れられることもあり得るのじゃな」
「この騒ぎ、種をまきしはトーナリーノ伯爵。ショーモナイ子爵家へザコなる先生を連れてきたのも、猫かぶりのかの吾人なれば、姉上様が金に執着するように心も染められるなり」
「ザコ。聖女様からも聞いたけど。麦わら帽子をかぶった小柄な男かしら」
「是なり。いつも囁きて、言葉の術で罠にはめんとする乾物屋の隠居なり」
「まちがいあらへんなー。それがフンヌウやでー」
「あにはからんや。我をたばかるとは、裏表のある吾人。成敗にあたいするなり」
「牢屋へ行くのじゃ。オリコオも王城にいるでな」
船で王都へ行くことになった。オリエもトーナリーノ元伯爵を成敗するために同行する。
(なにか、予想とはちがうけど、いいか)




