えっ、フンヌウを捕まえたがラスボスは誰だ
重い車輪音。振り返れば4頭立ての馬車が近づく。
「ヤマムコー王様」ニーバンが知っていたらしい。
「兄嫁の実家だが。なんだ」
「挨拶すべきじゃ。私も親戚じゃからな」
キャリロン王女とニーバンが迎えるふうな姿勢。うしろからアトゥカラ王の馬車も来た。
「来たか。援軍じゃ」オーボチャマ元王子は喜ぶ。
「新王国を承認した、私の味方じゃ」
「アトゥカラ王様へ確かめないで、賛成するかしらね」
アカリーヌとしては、最初に確認することだと思っている。
「何事ぞ。キャリロン王女を救いに参ったが、アトゥカラ王城も混乱しておった」
ヤマムコー王が急ぎ足で近づく。アトゥカラ王が後ろから走ってくる。
「お待ちくだされ、ヤマムコー王様。ご用でありますか」
(王都から直接来たんだー。たぶん、煙をみたはず。それに気づいて、王様もかけつけてきたと。15か国の王様が集まるのかしらねー)
「非道なる王だ」オーボチャマ元王子が調子に乗る。
「黙れ! 浮気男は引っ込むんじゃ」
キャリロン王女がヤマムコー王の前に進み出た。
「私がキャリロン王女じゃ。順を追って話そうぞ」
「婚姻のときに会ったか、覚えておる。これは」
「あの浮気男の企みじゃ」
(そこにくるのか。うん、浮気はねー)
愛は無いといっていたが、ほかの女性へ目移りするのは別のことだろう。
本人もいることだし、納得したようなヤマムコー王。
「祝儀として1万マニー渡しておる。臣下や庶民たちへも新王国の報告はおえたぞ。詐欺にあったと申せると思うか」
「革命と、侯爵あたりが言いかねませんな」
アトゥカラ王は少し余裕もできたらしい。
「迎賓館でほかの王様たちへも説明いたそう」
「いいアイデアであろう。正午に合わせて来る予定じゃ。私は、話もなく新王国と招待状が届いたんで、確かめに早く参上いたした」
「それはそれは。では、久しぶりに囲碁でも」
「女王も来てるゆえ。かるたはどうじゃ」
「うちのカテリヤも喜ぶであろう。新王国について相談もいたそう」
カテリヤは王女の名前だが、めったに名前では呼ばれない。
元王子とアーホカは縛られて魔女の馬車に乗せられた。ほかの馬車に乗せられないからだ。
王様は目を移す。
「イーバヤとやら。元は、へ地区長だったか。罪を懺悔せよ」
「はい。恐れ入ります」
「聖女様、懺悔の部屋へ」
イーバヤは聖女と同じ馬車に乗せられた。
ニーバンとゴーチョクも戦争はしてないのを証言するために王様たちに同伴する。魔女と聖女の馬車も迎賓館へ、一時待機するようだ。いざとなれば、元王子からも証言させたいらしい。
金色の馬車に乗り込むと、さっきからの計画を思いだす。
「卵じゃ。市場であるな」
「混んでへんかー。船が来とるし、貴族の令嬢たちも羽を伸ばしたいはずやでー」
「考えただけで面白そう」
(これだよ。身分に関係なく、騒々しいような雰囲気。なぜか落ち着く)
騒がしくて落ち着くのもおかしな話だが、平穏な世の中だからと安心もするのだ。
「そうじゃな。私も庶民と近づきたいんじゃが、王都は気取っておる」
「それを、肩が凝るっていうんでしょうね」
「そうやなー。田舎では人の性格も大らかになるでなー」
話す間にも公道にでるが、やはり馬車が混んでいる。ほとんどが市場へ向けて、王都へ曲がりながら各地方へつながる道へ進む。
「歩いた方がはやいよねー」
「歩道も混んでるでー」
仮設住宅の前でお喋りしたり、遊んだりする子供までいた。
「王都より賑やかじゃな。のんびり見学もいいのじゃ」
市場前は松並木沿いに馬車が停まり、交通整理をしている。十数人単位で集まると人々が横断していた。
「駐馬車場はあるか」
「屋敷へ。ここで降りてからが良いかな」
「そうやなー。入り口やしなー」
御者へフーモト男爵家の屋敷へ停めるように告げる。王家の馬車だと分かったのか騎士が近づいて来た。
「御者様の待機場が設けられてます」
「分かった。屋敷に停めてから」
地元だし、アカリーヌが相手する。
「卵はどこかのー。おや、変な人やなー、あそこまで麦わら帽子を被るかー」
ハルナが、あそこ、と指さすのは公道。荷馬車だが、麦わら帽子を深くかぶる人物。
「ザコだよ。こんな早い時間からなんで」
「あの男じゃろうか。確かめるんじゃ」
三人はのろのろ動く馬車の列を止めて、ザコの馬車へ近づく。
「ザコ。早いけど、どこに」
「急ぎますんで」
いつもの囁くような声。
「女王様の前だよ、馬車から降りてくれない」
「いえ、交通渋滞になりますんで」
「停めなはれなー。荷馬車なら停める隙間があるでー」
「急ぎますんで」
「時間をずらすんじゃ。そのほうがスムーズだぞ」
「申し訳ないが」
「怪しいなー。何かから逃げてるんかー」
「滅相もない」
「行こう。甘酒も奢ってあげる」
「乾物問屋らしいのー、珍しいモノがあるかー、お喋りだけでもなー。降りなきゃ、話にもならんでー」
「左様でございますか。もう引退したんで、分かりませんが」
仕方ないというふうに、馬を歩道へ向けた。
伯爵家の馬車が並ぶすきまに荷馬車を停めた。
「ザコと言う名じゃな。ちょっと話がある。降りて良いぞ」
「ほんとに、ちょっと声が」
「多くは聞かないぞ。フンヌウ商会のことじゃ」
「関係ございません。それでは」
疑われたくないと思ったか、御者台から降りたザコ。小柄な男だし、麦わら帽子はかぶったままだ。
「キャリロン王女じゃ。顔を見せて良いぞ」
「畏れ多い」
ザコが身をかがめて挨拶するふう。
「遠慮はいらんでー」
ハルナが麦わら帽子を掴むと、高々と持ちあげた。
「わっ。何をする!」普通の声で怒鳴るザコ。
(垂れ目、その声)
「ロリコン子爵! そうだよね」
「おそれいりました。慰謝料はお支払いします」
相変わらず囁くような声で、後ろを向いて話す。顔は隠したいらしい。
「爵位は失ったしね。なぜ逃げたの。誘拐未遂だし温情もあるでしょ」
(この男に怯えていたんだ。今は私が背丈もあるじゃん。なにを怖がってたんだ、わたしゃあ)
笑いたくもなるが、そうでもない状況。
「フンヌウじゃな。も一度、顔を見せるんじゃ」
「いや。その」
ザコが戸惑うような口調。
(あのフンヌウって人か。すべて解決じゃん)
「これは何かのー。金を入れる麻袋やでー」
ハルナが荷台のカバーを開けたらしい。
「はい。申し訳ございません」
ザコは身体ごと顔を向けて、普通に喋る。
「やはり、フンヌウであったか。ハーマべの王城で会ったこともあるぞ」
「いくつも麻袋はあるなー」
「大金じゃな。十億マニーぐらいは入る麻袋の数じゃ。フンヌウ、なにに使うんじゃ」
「こうなれば、罰を受けて、流刑地でスローライフいたします」
(十億マニーかー。見たこともないや)
千億円ぐらいだろう。どこから持ってきた。
「いや。何に使うかでしょ。新王国と関係あるでしょ」
「お調べになったとか」
ザコが不安そうな表情になる。
「裁判やなー。大人しく捕まってくれはるんかー」
「はい。これが運の尽き。ひっそりスローライフを」
ザコがマントを調えるようにするが、内ポケットへ右手を入れた。
「人質だ!」ナイフを取り出したザコ。
「危ない」
キャリロン王女の腕を引っ張り寄せた。勢いで尻もちをつく。
上に転がって乗るキャリロン王女。
ザコの腕が宙を切るが、体制を立て直して迫る。
(もう怖くないもんね)
もう一度キャリロン王女を押して転がすと、蹴飛ばす準備をした。
(刃先を避ければ、はじき返せる)
「な、なななっ」
ザコがナイフを振り上げて動かない。後ろにハルナが立っていた。また気孔をついたのだ。
「なんの。さわぎ。ござる」
騎士が息も荒く、ザコを羽交い絞めした。走ってきたらしい。
「アカリーヌ。礼をいうぞ。ハルナ良いフォローじゃ」
「この金は。多いよ、王家クラスが扱うはず」
「そうやなー。あれやでー。祝儀かもなー」
「集めて届けにきたのじゃな。フンヌウどうじゃ」
「お察しの通りでございます。なぜ火事に」
「引き返さなかったの。これから、どこへ」
(火事と分かったら、ハーマベ王国へ引き返すのが安全だよねー)
「届ける相手は、別の者じゃな」
「私の不徳といたすところ。盗人でございます。流刑地でスローライフは覚悟いたしました」
「妖鬼姫やろう。知ってるでー」
「妖鬼姫様を。いや、知りません」
(知っている口ぶりだよ。まだ知られてない悪者がいるんだ)
ラスボスは別にいるらしい。
(いつになったら、また、美容術が始められるのだろう)
最後の美容対決から三日がたってしまった。




