恋も美容術も忘れて命を賭ける貴族の掟
王都の方向から太陽は上る。アカリーヌは馬車にのり迎賓館へ向かう。
(花嫁道具は聞いたことあるけど、戦争道具かー)
女性も鎧を着ける予定になっていた。剣と盾など装備一式が入った箱を載せている。騎士や馬に乗る貴族が迎賓館に向かう道。朝早くの仕入れなどで荷馬車も行きかう。
「アカリーヌ」ハルナが呼びかけるのは道端を歩いている。
「早いですね。船から?」御者へ馬車を停めさせて話す。
「姉が馬車で来やはるからのー」
(ここは一緒に行こう)ハルナを隣へ乗せた。
(聞きたいことは分かってるって)
「ダニエルは、迎賓館に集合してるはずだから」
「だからなー。はよう来たんや。会えるやろうか」
「まだ出発はしてないと思いますけど。どうでしょうか」
迎賓館の敷地に入り駐馬車場に停まる。馬に乗る貴族と騎士がいて、すでに国境へ向かうものもいた。ちょっと急ぎ足になる。
いくつかの馬が離れて来るが、ハルナが素早く見つけた。
「ダニエル様。どちらへ配置になりましたんやろー」
(馬に乗ると、ダニエルも逞しくみえるよね)
「王都の警備でござる。万が一でござるが、手柄はたてられないでござろう」
「それで、いいんやねー。生きてこそ、なー」
「ハルナ様もご無理なさるな。庶民の避難誘導へ任命されるのを願っております」
「ありがとうなー。市場で待ち合わせようなー」
「心得た。必ず、屋敷へ案内いたしたい」
後ろから急かされてゆっくり話もできないようだ。
(これで、婚約までいくつもりかもねー。それにしては)
ニーバンに会うために、朝早くから来たのも確かだ。9時に集合になってはいた。
(防災大臣って、戦争の最高指揮官だってさ。父が話してた)
捜すまでもない。迎賓館の前に陣幕が張られて、前に立つニーバン。馬と騎士が迎賓館を出ていくと、隠れる場所もないし、理由もない。
「ニーバン。あの。お気をつけて」
(それしか言えないのかよー、私は)
「アカリーヌもな。早いが、戦争にやる気をだしても危ないぞ」
「そうじゃないって」
(会いたいからに決まってるつうの。ほんとうに鈍感かもしれない。うん、あんがい口下手なんだ)
思い当たる部分もある。
(思うことを喋ればいいんだ。だけど、話してる暇はあるのかな)
「あれは。トーナリーノ伯爵は来るの?」
(やっぱり、こういうことしか浮かばないし、気になるよね)
「来ないなあ。ここで戦いになったら庶民も巻き添えだ」
「それは嫌だ! なんとかして」
「王様も最後の使者を送ることになっている。もう脅しになるから、伯爵の身分も剥奪される」
「行ってみる。ヨシキが何とかすると思う」
「無茶だ」
「名案じゃ」キャリロン王女が陣幕の中から出てきて言う。
「女なら心も許るはずじゃ。それにヨシキは正義感もあるようじゃな」
「ゼンタ様もおるしなー」ハルナも賛成した。
慌ててきたのは女王。王族は陣幕内に集まっていたようだ。
「立場を表明したあの男は何をするか分からぬゆえ。もう遅いです」
「そうであるか。やはりオーボチャマを。だな」
言葉では言わないが、王女も女王も、アンサツを考えているらしい。
(怖い人だよ王女様も。そうだあれだ)
「魔女様が生物兵器を使っておられるはずです。効果を確かめるのが必要と思います」
「そうやなー。一番にやることやでー」
(決めた。たぶん様子を見に魔女様も近くにいらっしゃるはず)
「魔女様を捜しに行く。近くでみてらっしゃるかも」
「そうじゃな。上手くいくかもしれん」
「ほな、いこうか」
ハルナも賛成して、三人は外へ向かおうとするが、慌てるのはニーバン。
「ボンクラ地方にはいくなよ。もう戦争は始まったようなものだ」
「大丈夫だって。近くに魔女様はきてるはずだから。話を聞くだけ」
「トーナリーノ伯爵家やでー」
ハルナの声で入口を見ると一台の馬車がやってきた。
「馬車だけだよねー。なにか企んでいるのかしら」
「ジャンヌ婦人ですね」
王女がいち早く先頭に乗る女性を見分けられたらしい。トーナリーノ伯爵家の馬車が直接に陣幕へ近づいて来た。
「遅くなりましたです」ジャンヌ婦人が降りて、軽い挨拶。ゆっくりしている状況でもない。
「うちの唐変木を捕らえました。騎士たちはアトゥカラ王国へ忠誠を誓っております、ご安心ください」
それに王様は思ったより喜んだ。
「ジャンヌ。手柄であった。トーナリーノ伯爵家は安泰である」
まずは、と後部席から・ヨシキとゼンタが降りた。寝巻のまま縛られたトーナリーノ伯爵を引っ張り出すと、騎士たちに渡される。
「最後の温情です、トーナリーノ」王女が話す。
「この反乱になぜ加担するのですか」
「黙秘いたす。新王国はフンヌウ様もご援助なさっていらっしゃる。オーボチャマ新王を正式にお認めになさるのがアトゥカラ王国のためでございます」
「それで、充分です。王都の牢屋へ」
王女は騎士へ指示した。
(この伯爵もフンヌウって人をしってるんだ。ボンクラ地方と同じように元王子のやるがままになってたよね)
少なくとも、トーナリーノ地方の平穏は守られた。
「あとはボンクラ地方よ。魔女様が分かるはず」
ニーバンが焦ったように言う。
「だから、あそこへ行くなって」
「あの屋敷あたりに魔女様はいると思う。安心して、深入りしないから」
「9時までは待機である」王様が言う。
「いざとなれば武装する予定だが、魔女様の作戦が当たれば、おおごとにはならんだろう」
「そうじゃ。いまは、確かめることが優先じゃ」
キャリロン王女が話すと合図した。ハルナとアカリーヌは後に続く。ニーバンも引き留めるのは諦めたらしい。
「騎士がいなくなるから、用事が済んだら二階でな」
「三人ともきなさい、お菓子もありますよ」
王女が言う。
「了解」
一緒に答えて答えて歩き出す。




