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フーモト地方の市場にて

 フーモト地方の市場前からオーカウエ地方へ向けて仮設住宅が並ぶ。

(やっぱりさ。王家が直接に動けば作業も早いよね)

 アカリーヌは故郷の急な変わりように何かを期待もする。

(賑やかになるのは楽しいかも。でも、田舎って感じがなくなるのは、ちょっと寂しいかな)

 いまは、迎賓館へ戻って、角のベンチに座っている。休憩するときはお決まりの場所になった三人。

(アーホカ様のおっしゃったのはやっぱりおかしい)

 キャリロン王女へ確認してみる。

「カガクは知らないけど、オリエ様は妾の子だと」

「そうじゃ。戸籍にも載っておる。聖女様がショーモナイ子爵家へ出向いてるはずじゃ」

「オリエ様もなー。被害者かもしれんでー」

「アーホカ様がむりやり、あの変な水を使わせたんだよ」

 裁判では、はっきりと悪だくみがばれている。

「そうじゃ。それも含めて、聖女様がアーホカ姉妹の関係を調査なさるつもりじゃろう」

(そうか。いまは待つしかないよね。美容術では良いライバルになれると思う)

 その前に大きな問題があるのは知ってもいる。ツヨーイ侯爵が新王国へ味方すると本当に戦争が始まる。

「元王子様は変わるだろうっておっしゃってた。つまり、まだ決まってはいないのかしら」

 オボーチャマ元王子の言葉尻が、未確定をあらわすなら説得する余地はある気もする。

「サナエがグーチョクに動きがあるか確かめているはずじゃ。どっちにしても、父がハーマベの軍隊を動かすのも迂闊にはできないんじゃ」

 キャリロン王女の父ハーマベ王も迷っているだろう。ツヨーイ侯爵を攻めれば内乱になりかねないし、アトゥカラ王国と対立すれば、近隣諸国も巻き込む争いになる。お互いに軍事と政治では協力する取り決めがあるのだ。


 ハルナが何かに気付いたように「来よったでー」と注意を促す。

「サナエ様やなー」

 侯爵家の馬車が駐馬車場に停まり、降りてきた女性。避難した庶民が仮設住宅へ移動する慌ただしさの中で、サナエは近づいて来た。

「ここやったんやな。ツヨーイ侯爵はどうなってるん」

 キャリロン王女に訊ねるが(こっちが知りたい)の言葉は飲み込むアカリーヌ。

「なにか動いておるか、どうじゃ」キャリロン王女が急かす。

「陣幕を造りよった。こっちの動きは筒抜けや。スパイがおるんや」

「トーナリーノ伯爵かもなー」

「あの人も、味方の振りをいつまでするんだよ」

(ボンクラを庇いながらも、王様のためって顔をしてるんだよ。まったく、まえから何を考えてるか分からない人だったけどさー)

 隣の領土だから、幼いころから知っていて交流もある貴族だ。

(ヨシキとの縁談にも、のらりくらり、考えもないって感じ)

「カレヤンも協力しよる。敵はツヨーイ侯爵だけや。いやトーナリーノ伯爵もいるやんか。王様は正規部隊をトーナリーノ領へ送るようや」

 その侯爵が保有する騎士団が最強なのは4人とも知っている。

「隣だよ。あそこ、川向う」幅十メートルほどの川を指さす。

(目の前で正規部隊が戦うのかー。後戻りできないことになる)

 装甲騎馬隊が正規部隊だ。戦闘用馬車は騎士も敵わない。

「明日じゃな。騎士たちが戦場へ赴いたとき、トーナリーノ伯爵はどうするかで敵か味方かはっきりするのじゃ」

「いまはなー。待つだけやろー」ハルナが往来を眺める。

「どうやー。茶店があれば、お客さんがきそうやでー」

「そうだね」

(ハルナ様は、いつも別の見方をするから。うん。前向きに考えなきゃ)

「美容術で食べ物が大切だからさ。食べ物屋で試せると思う」

「そうじゃな。悪いことばかり考えておった。すぐ平穏になるはずじゃ」

「元気やんか。庶民も不安なはずや。安心させなきゃあかん」

「市場があるし。飲み物とか出せる。もうしてるかも」

(庶民のほうが対応も早いはずだよ。それを後押しするのが貴族と教えられたし)

「市場じゃな。参るぞ」

 キャリロン王女がさっそく立ち上がる。

「面白いやんか。暇だから」サナエも乗り気だ。

「馬車にしますか」

「荷馬車で混雑しとるしのー」

 そういうわけで、4人は市場へ向けて歩き出した。


 松並木が見えて、市場の近くは庶民の数も多い。

「あんなところに、テーブルが」

 入口に置かれたテーブルを十人ほどで囲む。たぶん貴族と思われる服装。

「場違いやのー。なにか騒いどるでー」

 ちょっと品のない笑い声と、奇声ともいえるインワイな言葉。一人の貴族が立ってわめく。

「そこの町娘、相手せー。貴族様だぞ」

(ゲーヒンだね。伯爵家の3男のくせに人を見下すのが趣味みたいな男だよ)

 そこへダニエルが出て来て注意するふうだが、言い合っているらしい。ミテルシは貴族に対抗もできないし、周りの庶民を近づかないように誘導しているようにみえる。

「まちなさーい」 

 黙っているわけにいかない、小走りで急ぐ。

「フーモト領の市場で勝手は許さない。ですのよ」

「なんだ、そのことば。やはり男爵家か」

 ゲーヒンが下品な笑い方で言う。

「そこにいらっしゃると庶民の邪魔なのですのよ」

「伯爵家の恥だのー。ゲーヒン様」

「ハルナか。どうだ一緒に、ワインもある」

 ゲーヒンはほろ酔いかげんでもあるらしい。

「朝からなんじゃ。貴族が庶民へ酔った姿をみせるものじゃないぞ」

「なにが。元王女だな。もう離婚して王家ではないんだろう」

(ぅわっ。なんてこというんだー。見下し男でも言っちゃいけないよー)

 しかしサナエが割り込む。

「不敬罪や、覚悟あるんかゲーヒン」

「なにを。本当の」それを遮るのがサナエ。

「養子縁組をしとる。王女様は女王様の娘やんか」

(あっ、そうなの。べつにかまわないし、ハーマベ王国の王女だしね)

「それはそれは、すみません」

 酔って砕けた喋り方のゲーヒン。


「待て待てまてー」ヨシキの声が響く。

 馬に乗って来た二人の貴族。弟のゼンタと一緒だ。松並木に馬をつなぐ。

「この騒ぎ、ダニエル様の使いから連絡を受けてきた。このヨシキが沙汰する。もう大丈夫だ」

(いいけど、いつもタイミングはおそいよね)

「ヨシキ、もう済んだよ。でも、ありがとうね」

(気持ちは受け取りたいし。やはり正義感の強い男だよ)

「アカリーヌ、私をわすれては困るって。それより」

 テーブルはあとにして庶民のほうへ歩く。

(純粋に庶民を心配してならいいけど。女漁りでしょ、たぶん)

 ゼンタがちゃんとキャリロン王女へ挨拶すると、状況を教えあうようす。サナエが、わかることや、とうなずきながらテーブルに座る貴族たちと話しこんでいた。

 ヨシキはミテルシになにか耳打ちしている。

(この二人は、へんに仲がいいんだよね。ま、私に蹴飛ばされた同志だからかしら)

「いい判断でしたなー」ハルナはダニエルへ話しかけている。

(たしかに、ダニエルでは止められなかったけどさー。ま、話す機会があったのはいいか)

 いまは非常事態でもある。やはり見どころはあるのがヨシキ。

「約束しよう。貴族が庶民の平穏はまもる。避難してこられた皆様もいらっしゃいましたな。フモート地方は住みやすいから定住するといい。悪者はアカリーヌお嬢さんが蹴飛ばすから大丈夫」

「名前を出すなって」

 それでも知っている人たちから納得した笑いと拍手。

(まったくもう。ほらほら、女を捜してる)

 ヨシキの目の動きが分かる。視線を追うとみつけた。

(コマチだ。商売人も来ると話は聞いてたけど)

 想像したようにヨシキが演説みたいなのを終わるとコマチへ近づく。

「王都の商店街でお会いしたことがあります。私はヨシキと申します」

「トーナリーノ領の貴族様でございましょう。キューりをご注文いただいております。松茸が旬ですのよ、いかがでしょう」

(やっぱり商売人だよねー。若奥さんで、頑張らなきゃって話してたなー。庶民のなかで暮らす、この感覚が安らぎも感じる)


 さて、長居もしていられない。テーブルなどを片付けた貴族たちも連れて迎賓館へ向かう。

「王城じゃ」キャリロン王女が提案する。

「二の丸にバーがあるであろう。メイドになにか食べ物を作ってもらうのも良い。明日に備えて早めに眠るのじゃ」

「承知しました。ご無礼をお詫びもうしあげる」

 ゲーヒンたちは反省したらしい。

(分かる気もするけどねー。明日が大変だし、戦争になったら前線だしね)

 騎士と一緒に貴族の令息と呼ばれる男性も前線へ赴くようになっている。

(守備隊として女は迎賓館に集まる。ちょっと怖いけどね)

 混乱した時期には恋も美容術も思い通りにならない。


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