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王子が新王国をたてること

 フーモト地方の朝は騒々しかった。船の試運転を見学する庶民たちも王家の馬車を見守る。

(独立を認めるの)

 アカリーヌたちは離れて見守っていた。ボンクラ領の入り口で王様とオーボチャマ王子が誓約書を交わした。ボンクラ子爵の屋敷を前にして三兄弟も揃っている。

「お世話になった」

 ボンクラ子爵が別れの言葉を述べる。アトゥカラ王国の貴族ではなくなり、新王国で貴族になる予定らしい。

「そちは、もうよい。流刑地を譲るだけであり、国など認めておらんぞ。庶民はアトゥカラ王国の宝じゃ。引き取るゆえにな」

「庶民の自由でございましょう」

 ボンクラ子爵としては領地があれば、なんとかできると思っているのだろう。

「ボンクラ。ハーマベ王国が加勢するわけじゃないぞ。戦になればどうする」

 ツヨーイ侯爵だけがオーボチャマ王子へ肩入れしていると話す王様。

「経済で勝負する時代と王子様もおっしゃっておられる。新王国がお手本にこそなりましょう」

 なるほど。フンヌウ商会の貨幣を武器にした経済的な支配を考えているらしい。金で人の心を縛るという20世紀と似た体制だ。

(国としては認めてないし、どうするんだろうね)

 そこへ4頭立てで金色の馬車が近づく。ハーマベ王家の馬車だ。王様の代理としてカレヤンが降りてきた。ボンクラの後ろで、王様気取りのオーボチャマ王子へ声をかける。

「ハーマベ王の伝言だ。新王国は認めない。以上」

 ぶっきらぼうな言い方で、あまり歓迎してないようだ。

「構わないのじゃ。もし攻められたときには武力も必要じゃ。友好地方としてツヨーイ侯爵が加勢することになっておる。平和のためじゃ、ハーマベ王へ言い訳もたつであろう」

「夢を見てたらいいさ。ハーマベ王になにか伝言はおありか」

「新王国を認めないなら、経済で認めさせるだけじゃ」

「それしか言えんか」

 呆れたように言うと背中を向けて去っていく。

(王女様のことで、離婚したお詫びはないのかしら)

 金のことだけを考えていると分かった。平穏が戻るなら消極的に認めたい成り行きだ。


 会見はもう終わりにいたす。王様の言葉で貴族たちは自分の馬車へ戻る。

「あれ、王女様」

 金色の馬車へ乗り移るのが見えた。

(もうハーマベ王国に戻るのかしら)

 経緯も知りたいし、最後の別れに話もしたい。領地へと戻る準備をする貴族たちの中をかきわけて、道へ出た。

 金色の馬車は向かいの迎賓館に曲がっていく。

「最初に行きはるのは迎賓館が普通やなー」ハルナが横に並ぶ。

 同じように気になったのだろう。

「行ってみよう。なにか準備をするなら、お話しする時間もあるよね」

 すでに歩きながら話す。

「来るときに見かけたがなー。騎士たちの動きが慌ただしかったでー」

「戦争の準備」

「かもしれんなー。王女様は知っておられるやろー」

「冗談でしょ。美容術を競ってる余裕はなくなる」

「止められるんは、王女様かもなー」

「あのツヨーイとかいう侯爵だね」

 まずは、どういう人物か知りたい。金で動くなら買収されているかもしれない。それならキャリロン王女が直接会えば人質になりかねない。ハーマベ王国を巻き込む全面戦争になるはず。


 道を渡り迎賓館の広場。金色の馬車が駐馬車場に停まる。二人に気付いたようなキャリロン王女。大きく手を振り近づく。

「ここに住むでな。落ち着いたら連絡するつもりじゃったが」

 王族会議の内容を話しながら、広場の片隅へ。ベンチがあり展望台になっていて、座りながら話す。

「従兄妹とも話しておるから、父に伝える手筈じゃ。私がハーマベ王国の大使として、ここで住むのじゃ」

 指さすのは迎賓館。煉瓦造りの横に広がる建物だが、王様が控える二階が設けられている。そこを利用するようだ。

「でも、オーボチャマ様のいる荒れ地に近いと思います。なにか王女様を誘っておられますから」

 もう王子ではないが、ちょっかいをかけないか気になる。

「なぜやろうなー。夫婦だからかのー」

 離婚は納得しているはず。

「何かに利用するしか考えない男じゃ。なぜ誘うか分かれば、グウチョクに説明もできるんじゃが」

 ツヨーイ侯爵の名前がグウチョクだというキャリロン王女。

「まっすぐな男じゃったが、金に目がくらんで変わるかもしれない」

「あの方に直接、聞くしなないと思いますけど。ハーマベ王城なら安全でありましょう」

 やはり一度は戻るべきと考えた。

「そうじゃがな、女王様に思惑があってな。私がここに留まるのには理由もあるのじゃ」

 早期発見早期治療らしい。いまのうちにオーボチャマ王子の出鼻を挫く作戦が進んでいたようだ。

「ボンクラの庶民を引き取る話は王様もなさってたじゃろう。流刑地の罪びとも解放するおつもりじゃ。新王国に賛成する者だけが残る手筈じゃ」

 そして、ツヨーイ侯爵の騎士たちが来るのを阻止するため、騎士たちが動き出していたのだろう。

「孤立するとなー。降参するやろう」

 そこで、オーボチャマ王子に新王国建国を諦めさせるという筋書きらしい。

(じょうだんじゃない)

「国境で戦争は起こると。すぐ近くでございますが」

 サナエと天守閣を見た場所だし、歩いても行ける。フーモト地方として他人事ではない。

「男たちは、すぐに喧嘩で決着をつけたがるんじゃ。止める手立てがあればよいのじゃが」

「分かった。魔女様に頼んでみましょう。魔王エーアイを滅ぼさせた昆虫がいるようです」

 生物兵器で荒れ地を汚染させるのだ。流刑地のある荒れ地が使えなければ、オーボチャマの計画も叶わないだろう。

「別の場所でというのは無理じゃろうからな」

「受け入れる場所はあらへんでー」

 生物兵器コクロッチとエンツを使うことになるのか。

「庶民が避難したあとなら。一番被害は少ない方法だよ」

 魔女へ会うことへ話は決まった。

「美容術も平穏があってのものじゃ」

「フーモトで美容術はどうかー。船も来て王都から近くなるし、竜の涙も使いほうだいやでー」

「言おうと思ってた」

 ハルナがフーモト地方へ拘るのはダニエルに会えるからだと予想もした。

「オンセンとかいうのは、未だであるか」

「煉瓦ボックスがございましたので。外を板で囲う作業も始まってるようでございます」

 明るい未来を話題にする。たしかに戦争は近づいているが、いまは、奇跡が起こるのを願うしかない。


    ・


 魔女と聖女は連絡を取り合っているらしい。迎賓館でアカリーヌたちと会う。

「コクロッチを使いましょう」

 自然界では普通の虫として、ちょっと気味悪いと感じるぐらいだ。大量発生すると害虫になる。

「仕方ないか」聖女は反対もしていた。

「庶民のいる場所では、使わないで欲しいです」

「避難してからじゃな」

 キャリロン王女が明日の朝から避難を実行する計画を話す。

「明日の夜やなー。泊まり込みやでー」

「ハルナさまは、うちに泊まるおつもりで」

「ダニエル様とは別で構わんけどなー」

「勝手にしてちょうだい」

 二人のことは親も公認の節がある。ここで魔女が言う。

「仲間がいるから。準備して夕方には」

 聖女もうなずく。

「スマフォーたちは影から王国を守っておられる。戦になるのを防ぐためには生物兵器使用も止む得ないですね」

(そうか。私たちは明日の避難を無事に済ませることだね)

 恋の話をしている状況ではないらしい。魔女と聖女は真面目で考えも固いのだ。


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