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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
6章・美容対決で企むもの
32/49

裁判の日

 朝が来た。当たり前だが当たり前でないオーボチャマ王子もフーモト家に訪問した。ニイニイゼミがうるさく鳴いている。

「悪い話ではないぞ」

 機嫌が良い表情で話す。

「市場をフンヌウ商会へ任せてくれんか。土地使用料は払うぞ。ウインウインじゃろう」

「なにが」フーモト男爵は不満げ。

「言われもない罪で裁判をなさるお方が。なにをおっしゃってるか分かりませんが」

「物分かりがいかんか。つまりじゃ。交換条件というもの。罰金の代わりに経営を任せてくれと申してる。ご令嬢の罪も消えるぞ」

(何言ってるの)隣で聞いていたアカリーヌは怒る。

「私はなにもしておりません。それに、市場へご執着なさる意味は、薄々感じております」

「なんのことじゃな」とぼけるオーボチャマ王子。

「フーモト地方は古代からの要所じゃ。異国人の交通も多かろう」

 もっと儲かるようにできると話すが、魔王エーアイとイケスカナイ王国復興に関係あると思う。

「魔王エーアイのカガクを悪用する、アーホカ様こそ犯人ではございませんか」

「それはまた別の話じゃ。裁判の行われる正午まで、よく考えることじゃな」

「考えない! あ、間違えた。ご配慮はご無用でございます。どうぞお帰りりなさい、くださいませ」

「正直なかたじゃ。それでは裁判で会おう」

 オーボチャマ王子は不満そうな表情をして、帰っていく。

「蹴飛ばすのをがまんしたね」母が苦笑いで言う。

「あれが王様になると国は大変なことになる。オリコオ第二王子が適任だと婦人会では噂しているのよ」

「革命かー」

 サナエが言ってたのが起こりそうな気もした。


 裁判は正門横の三の丸。市場とは別だが、王城を囲む塀の外だ。

「聖水は準備しましたよ」

 聖女が言う。ちゃんと竜の目の涙を手に入れたらしい。だが、油断はできない。

 王様と女王が奥に座り、王族が前に並ぶ。その前で、嘘は言わないと宣言するのだ。左に王子が進行役として立ち、後ろに並ぶのは証言者たち。

「なぜアーホカ様は、あそこへ座っておられますのでしょうか」

 思わず訊ねる。オーボチャマ王子が薄きみ悪い笑い方をする。

「保釈金を払ったのじゃ。無罪である」

(保釈? 悪いことをしたと認めてるじゃん)

「まずは、始めてからだ」言うのはイチタロ。

「王子様にも公平な立場であられるように。王様が判断なさるからな」

 成り行きを見守るようだ。ニーバンから事情を聞かされたはずだが、まだ判断がつかないでいるらしい。

「私は中立じゃ。聖女様、聖水を」

 オーボチャマ王子は真面目そうな表情で言う。とりあえず始めなければ。ニーバンは間に合うか、ハーマベ王国の王都までは遠いし、気がかりだ。

 アカリーヌは竜の涙を桶に入れて芝生に座る。大地の雫と同じか試すというのだ。酸性とアルカリならすぐ違いも分かるはず。オーボチャマ王子が検査薬に任命したのはボンクラ子爵。

「ボンクラ子爵なら隣の領土として交流もあろう」

「はい。竜の涙も使っておりまする」

 額と顎がへこんだ三日月形の顔で芝生へ進み出たボンクラ子爵。

(息子たちは甘やかすし、化粧水を使うわけないじゃん)

 ボンクラ子爵は三人の妻へ逃げられて独り身だ。ボンクラ兄弟の母親は別々だし、離縁している。

「適任の女性はボンクラ様の領土にもおられます」

 村長の娘と嫁はひいきにしている。

「閣議で決まった事じゃ。容疑者は発言を控えられよ」

 オーボチャマ王子には筋書きもあるようにすすめていく。ボンクラはアーホカの壺が桶と並べられると、両手を別々にいれる。

「同じでございます」

 言うと下がっていくボンクラ子爵。オーボチャマ王子は高笑いを誤魔化せないらしい。

「決まりじゃ。かような危ない液体を長年使っておった。フーモト領も問題じゃ」

(ぅわっ、話が大きくなったよ)

「反逆じゃな。フーモト領を私に差し出せば反逆の罪はまぬがれよう」

(本性を現したね)

 ひとこと言ってやろうとしたが、大声が響く。

「なに寝ぼけてんや」アマクマ侯爵だ。

「古代からフーモトは男爵領やんか。後から来たアトゥカラ王家が口を挟めへんでー」

(王様の前で言っちゃったよー)

 うかがうと王様は、あいかわらず、というふうな苦笑い。オーボチャマ王子も侯爵は苦手らしい。革命だー、と言われかねない。

「言葉の綾じゃ」

 それでもなにか思いついたようだ。

「見逃しておった。アカリーヌのさきほどの発言は不敬罪じゃ。別件逮捕いたす」

「聞いてれば、このおっ」

(もう怒ったからね)

「王子様が流刑地でなさってる計画は知ってるんだから。天守閣を作ってるでしょ」


(ちょっと落ち着こう)

「王様。調べればすぐわかることでございます。怪しい建物を流刑地の奥に発見いたしました。それにあの。ナプキンと粉ミルクが搬入されております。流刑地で赤ちゃんを育てるとは無謀でありましょう」

「そこまでしておるか」女王が訊ねる。

「噂じゃ。罪びとの戯言じゃ」

「もうよい」キャリロン王女が立ち上がる。

「温泉水とアーホカはいっておったな。酸性湯とかで竜の目とは違うとも言うたでないか」

 壺と樽へ近づく。アーホカが慌てて立ち上がった。

「お手がお汚れになります、私が」

 それは余計に怪しまれるはずで、構わず両手を入れたキャリロン王女。

「別物じゃな」

「時が経てば成分が変わります」

 弁解するアーホカ。助け舟をだしたいらしいオーボチャマ王子。

「いまは不敬罪の話じゃ」

「なによ」アカリーヌは止められない。

「この婚約破棄やろうが。敬うようなことじゃないからね」

「なんで知ってる。王家内の秘密じゃ」

 ちょっと動揺したらしい。伯爵家のレベルでも、噂程度でしか知らされてない。

「お待ちを」イチタロが王様へ発言を求めた。

「聞けば、竜の涙という化粧水には無縁の事件と思われる。まだアカリーヌ様が正座させられるのは理不尽ではございませんか」

「そうであるな」王様は決断する。

「フーモト男爵家の令嬢、アカリーヌは無罪じゃ。おたちなさい」

(なんとか助かった)

 安心もしたが、オーボチャマ王子は引き下がらない。

「不敬罪は確定じゃ。王様もご覧になられたであろう」

 アーホカが援護する。

「そうでしょ。前から人を尊敬しないような口ぶり。貴族としてふさわしくないですわよ」

 上品ぶる。そこへ伝達が入る。最初は遠くから。

「大地の雫。正体判明」

 伝達係がつなぎ、王様の前へ直接来た。

「ニーバン様が、大地の雫が薬物だと報告に参ります。ご許可を」

「許す。もう、来ておるか」

 話す間にも馬のかける音。白馬が横を通り止まる。ニーバンだ。馬から降りると、巻かれた紙を広げる。騎士がたずなを預かった。

「大地の雫は洗剤だとわかった」

「なんと」キャリロン王女が立ち上がって駆け寄り、ひったくるように紙に書かれたのを確かめる。

「床の拭き掃除に使用。なんじゃ!」

 アーホカを睨む。女王が、キャリロン、と注意を促す。

「王女様。フンヌウ商会の印鑑も押されてます」

 王女に紙を渡すとアーホカへ詰め寄るキャリロン王女。

「これが美容術か。もう、もう遊ばん!」

 ここでその言い方はないと思うが、本気で怒っているらしい。

「何かの間違いでございます」弁解したいらしいアーホカ。

 オーボチャマ王子もかばいたいようだ。

「証拠がないであろう。キャリロンもひいきで違う液体と言ったのじゃな。ボンクラ子爵が公式に同じと証言しておる」

 それに王様が一度手を叩く。

「アカリーヌ。疑いは晴れた。もう、立たれませ」

「はい。ありがとうございます」

 オーボチャマ王子が、不敬罪がなんとか言っている。でも、王様の言葉は絶対だ。


アカリーヌ立ちあがる。足が痺れて浮いているようだ。身体がよろけた。

「あれっ」柔らかいものに当たり、見上げた。

「ニーバン」腕に支えられている。いつからか隣りにいたのだ。

「もう大丈夫だ。あの女は?」

 アーホカが証言人席へ座るのに疑問を持ったのだろう。

「保釈金だって。秘密も喋ったよ。ボンクラ子爵は敵だよ」

「あとからゆっくりな。家族のところへ戻ろう」

 お姫様抱っこでフーモト男爵が座る弁護人たちのほうへ歩くニーバン。

「大地の雫をハーマベ王国のカレヤン様が持ってきてくださる。王子様が買い求めた履歴もあるでな」

 これはオーボチャマ王子を窮地に追い込める情報だ。

「子爵が逃げよるでー」

 ハルナの声で、証言者の席へ首をまわしてみる。ボンクラ子爵が立ち上がって後ろから抜けようとしている。

 あわてたようにいうのはトーナリーノ伯爵。

「ボンクラは朝から腹を壊していた。無理して連れてきたのであります。体調不良での退席を私がお詫びいたします」

 話している間にも、すたこら、ボンクラは逃げるように去って行った。

「まだ、罪びとがおられる」

 イチタロが立って言う。

「王子様。何かの企みがあると疑えます。聖女を前にして潔白を誓えますかな」

「それは後日じゃな。今日の裁判は終わりじゃ」

「終われませんな」フーモト男爵が立ち上がる。

「娘を陥れて、領地まで奪わんとした行為は王様への反逆でもありましょう。いかが王様」

「確かに息子とて、罪を償うのが政であろう。オーボチャマ。この件、正直に懺悔いたせ」

 王様の言葉に戸惑うオーボチャマ王子。アーホカが近づき耳うちする。ちょっと微笑むオーボチャマ王子。

「いや、なにかの勘違いであった。かような洗剤とは知りませんでした」

 それにアーホカが笑顔で話す。

「私が悪いのです。大地の雫が何なのかお教えせずに、注文していただいたのでございます。私も白くなるから、と浅はかな考えでした。不注意による勘違いで起こった事故でございます」

「化粧水と勘違いしたのじゃな」キャリロン王女は冷静に言う。

「それでは聖水を飲み、正直に申せ」

「はい。もう、ほんと、勘違いでございました」

 解決策を見つけた表情。ニーバンは、やっと思惑通りになったという。

「王女様は竜の目の涙と知っておられるからな」

「王子様の企みははっきり分かったし。あれを聞いたら」

 アーホカの言い訳は聞くだけ時間の無駄というもの。天守閣や流刑地の内情を知りたい。


アーホカは厳かに、嘘はつかないと宣言して聖水を飲み干した。アカリーヌがさっそくと話す。

「流刑地に何をお造りでありましょうか、アーホカ様」

「フンヌウ様のお屋敷、いやちがいます。関係ありません、フンヌウ商会とは何の関係も、ないように隠して。いやいや、ちがうちがう」

 喋るたびに真実が零れて慌てているようだ。

「天守閣は王子様のお住まいでしょ」

「そうです、でません。住まいじゃなく、武器を隠して、ないです。言えません」

「もう止めろ」オーボチャマ王子が遮る。

「ちょっと疲れて戯言をいってるようじゃな」

 イチタロはなにかに気付いたように、あったか、と口を開いてみせてから言う。

「それでは王子様。聖水を。真実を告げて疑いを晴らしましょうか」

「わたしは。王族じゃ」

「私も同じじゃ。言え」キャリロン王女が口を挟む。

「もういい!」アーホカが開き直った。

「新王国建国を目指しておったが、いまがそのときだ。王子様、私たちにはツヨーイ侯爵がついてます」

 ハーマベ王国のツヨーイ侯爵領は騎士が集まる場所だ。このあたりでは最強の騎士団。

「そうだったな」オーボチャマ王子は不敵に笑う。

「私が王になるにはまだ先だと思ってた。もう待てない。すでに仲間は領地に戻ておる。何かあれば、ツヨーイ侯爵の騎士団が助けにくることになっている」

「ボンクラ子爵がそうか」王様が穏やかに訊ねる。

「そうだ。ボンクラ領からツヨーイ侯爵領まで、広大な王国になる」

 アーホカが隠していたことを垂れ流す。

「フーモトも奪っちゃえ。便利な場所だし。この国も支配するのに必要よ」

 呆れて何も言えないが、女王が告げる。

「流刑地が好きなら自由にしなさい。そしてアトゥカラ王国へ足を踏み込むでない」

「承知。キャリロン、新王国で女王になれるぞ。一緒にまいろう」

「だれがじゃ。金の亡者になった男は要らん。離婚じゃ」

「それは困る」アーホカが何か言おうとしたが、オーボチャマ王子は遮る。

「良い。いずれ迎えに来る」

 そこへ、なぜか口を挟むトーナリーノ伯爵。

「ボンクラの様子を見るゆえ。ついでに、私がお送りしましょう」

「よく考えなされ」イチタロが意味もあるように諭す。

「謀反人と判明したボンクラ子爵を気遣うか。ここは王家のことを考えられよ」

 それに言い訳も考えていたらしいトーナリーノ伯爵。

「不遜な息子ゆえ。私が説得いたす所存。王様へ忠誠をお誓い申し上げます」

「行け」王様はひとこと喋る。すべて分かったような表情だ。


 オーボチャマ王子たちが歩けば、聴衆していた人々は道をあける。そのとき伝言が響く。

「ハーマベ王国のカレヤン様。至急の用事」

 緊急の金の音が響き蹄の音も近づく。この状況は知らないだろうが、急ぎの案件だと知っているはず。

「カレヤンか」キャリロン王女が立ち上がり、前へ進む。

「離婚で縁は切れたんじゃ、私はハーマベ王国ヘ帰る。ちょうど従兄妹が来たところじゃ」

(いやいや、それはない)アカリーヌは焦る。

 立ち上がろうとしたが、初めてニーバンの膝に乗ったままだと分かる。気にしてる間はない。

「どいて」ニーバンを押しのけるように立ち上がる。

「王女様」小走りで叫ぶ。まだ痺れはあるが、地面を踏む感触が伝わる。

「痺れへんかー」隣にハルナが並んで言う。

「止めないと、王女様を」

 それは同じ思いだろう。二人はキャリロン王女の前に立った。

(回りくどいことは抜きでしょ)

「美容術対決が終わってません。王女様の夢を叶えましょう」

「しかし」とまどうようなキャリロン王女。

 ここはゆったりとした言葉のハルナがいいだろう。

「話しおうてからで良いんでないかー。ハーマベ王国は逃げへんでー」

「そうじゃな。ハルナ、アカリーヌ。私もパニックになっておった。女王様にご相談するのが先じゃな」

 そこへ女王。近くまで歩み寄って来ていた。やはり義母だ。

「キャリロンを私の娘みたいに思っている。身の振り方はカレヤン様を交えて決めましょう」

 王族会議が開かれることになり、裁判は終わることを、イチタロが告げる。

(ニーバンの上に乗ったままだったよー)

 そのニーバンは、カレヤンと話しているが、サナエも一緒だ。

(王子様のことを調べていたから、だね)

 一緒にいるのは納得するが、どこかで嫉妬も残る。ともあれ家族のほうへ戻れば、ハナレテル伯爵が同席していた。

「船の就航は予定通りできそうやのー」

「裁判でどうなるかと思ったが。まさかの展開でございましたな」

 フーモト男爵は安心したような笑顔をみせた。

「お茶を飲んで、ゆっくり」母が提案する。

 そういうわけで、家族とハナレテル伯爵にハルナも加わり、商店街の茶店へ向かった。


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