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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
6章・美容対決で企むもの
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王子の企み

 二日目の対決を前に妙な動きがあった。アーホカと施術者のオリエが桶を前に話している。

「水を使うつもりやでー。敏感肌に、続けてピーリングはしないやろうしなー」

「だけどさ。言い争うこともないとおもうけど」

 アーホカたちは二つの桶を準備するようだ。

アーホカは「王子様が」なんとか小声で話す。

「やはり姉は強いんなー」

(それとはちがうとおもう)

 姉を一緒にして欲しくないけど、当たっている部分もある。アーホカの我が強いのは確かだし、オーボチャマ王子が何かを支持しているように思えた。

「姉と言うより、オリエ様は大人しすぎるね」

 声が聞き取れないし、アーホカに従うようにうなづく。


 やがてキャリロン王女たちも来て、対決は始まる。

「お肌の具合はいかがでしょうか」

 ジェーンに訊ねる。

「触らなくて正解ね。へんに意識するから、すぐ搔いてたけど」

 肌の調子がわるいと思ったら、掻く癖もあったらしい。それを気にしなくなったようだ。

「続けてマッサージも必要はないかも。こんども軽く、デコルテはリン波念力に効果的ですよ」

「そうだね。お願いしようかしら」

 やはり正式なマッサージをしたいし、蝶の舞う妖精の指が華やかにデコルテで舞うのが映える。


 久しぶりの施術で会話も大切と感じている。きょうは嵐の話題を持ち出すお客さまが二人来た。

「蹴飛ばし姫でしょう」と避難しているときに目撃した方が来てくれたのはありがたいが、だれが姫とか言いだしたのは分からない。

 ジェーンも蹴飛ばした話を聞きたいらしい。椿油を塗るまえに話す。

「蹴飛ばした貴族様のモデルがいたとはねー」

「はい? 私がそうですが。モデル?」

『蹴飛ばし姫』は何かの宣伝文句でもあるらしい。


「ストップ」イザベルの声が響く。

 シラベルの怒ったような声。

「肌トラブルを起こすとはなにごと!」

 ジェーンの肌を確かめてみる。

「どこか痒いとか」

「なんとも。椿油なら使い慣れてるし」

 ここでないなら、とアーホカのところへ目を向ける。オリエがゲストの顔をタオルで拭いているところ。

「気づかないと思ってか」

 シラベルがゲストの肌をチェックするように近づく。

 座ってる場所から変化を感じるのも経験から分かるのであろう。


 ここで呼んでもないオーボチャマ王子が来た。

「肌トラブルとは重大な事故じゃ。コウセンスイを厳しく吟味する」

「そうじゃないでしょ。肌トラブルを起こしたのは、なんとか雫でしょ」

 一緒にして欲しくないが、アーホカが同じだと主張。

「竜の涙もコウセンスイと話しておられた。危険な水だと思います」

「あの。肌トラブルはそちらのゲストではありませんか」

「コウセンスイを徹底的に調べるゆえに。両名は明日裁判をいたす」

(ついていけない流れですが)

「こちらには何の関係も無いはずでございましょう」

「長い間つかってたのは罪も重い。あした裁判じゃ、正午に出頭いたせ」

「手当てが先じゃ」キャリロン王女が言葉を遮る。

 すでにイザベルが医療班を呼んでは居た。

「オーボチャマ。やけに早いんじゃが、なにか心に持つであろう」

「キャリロンも考えすぎじゃ。国を危険に晒す水は取り締まらねばなるまい。明日の裁判で審議いたそう」

「明日じゃな。公開裁判といたせ。なにか腑に落ちんでな」

「公で糾弾いたす。裁判は私の役目じゃ」

「審判は王様じゃ。オーボチャマも我儘がすぎる」

「いま、その話はやめるんじゃ」

(そうだね、夫婦喧嘩を長々と聞いてもねー)

 分かることは明日が裁判になること。アーホカも一緒なら、できることはある。

(竜の目の涙を使うしかないよね)

 発言に嘘が無いと宣言するときに聖水を飲ませるはず。

(聖女様へお願いするとして。竜の目の涙を準備しよう)

 タイミングの良すぎるオーボチャマ王子の登場もアーホカと打ち合わせしたように思えた。


 王子と王女たちが去ると、ハルナが心配そうに言う。

「罠に嵌められたんやなー。王子様は、なにか仕掛けて来やはるかもなー」

「あのことかな」

 イケスカナイ王国の復興を企み、荒れ地に何かを造っている。交通に便利なフーモトへちょっかいをだしかねない。

「まさかねー。流刑地を砦にもしているとニーバン様が話してた」

「水もないやろー。湧水は狙われるでー」

 ハルナも同じ考えらしい。ダニエルが、これしかない、と話す。

「ニーバン様に相談いたしましょう。オーカウエ地方で古城を改修なさっておられるとおっしゃっていた」

 ダニエルとニーバンが連絡を取り合っているらしい。

(恋人になるまえに、兄弟分ってか)

 しかし、どうなんだろう、と思う。イチャイチャラブラブはないけど、お互いに思いは通じてるはず。ひとつになれないもどかしさと、潜在的な怖れが同居していた。



 帰り道で、ダニエルとマームも、王子の企み、と意見は一致していた。

「お姉ちゃん。ニーバン様が、何か対策もあるはず」

「そうだね。まずはオーカウエ地方へ着いてから」

 聖女へ聖水の代わりに竜の目の涙を使うのもお願いしなければならない。

(忙しくなるわね。ま、いいか)

 暇だと、今日のことで、あれこれ考えてしまいそうだ。途中で施術を終えたジェーンのことも気がかりだし、オーボチャマ王子が美容術へ横やりを入れる理由も知りたい。

(アーホカ様が喋ってしまうと思う)

 竜の目の涙が自白させる効果はある、とニーバンで実証済みだ。


 坂道をのぼると、ニーバンは古城の崩れた石垣の前にいた。職人たちを集めて改修工事をしていたらしい。

「お屋敷を造ってる。子爵としてここで落ち着かせられそうだ」

「兄様には逆らえないと。公爵家の子爵なら、肩がこるんじゃない」

「オーカウエ地方だけなら。それで、何かあったか。いつもより暗いぜ」

 アカリーヌの表情に気付いたらしい。

(そうだ、そのことを話さなければ)

「肌トラブルが起きてさ。竜の涙も疑われてしまったの」

 かいつまんで説明する。

「竜の目の涙を使うときは今だな。妖精、魔女様に会ってきてくれ」

「聖女様へご連絡はニーバンへお願いね」

「早めに始めよう。大地の雫とかいうものの正体も知りたいし、サナエに連絡しよう」

(サナエさまかー。いまは仕方ない)

 協力してオーボチャマ王子の秘密をさぐっているのはわかるが、仲良くしているのは想像したくもない。

「王家の馬車が」

 ダニエルが教えた。車輪の音をたてて4頭立ての馬車が近くへ停まる。

「アカリーヌもおったか、いまはニーバンへ急ぎのようじゃ」

 キャリロン王女が足早に来た。

「急いでご用事は。ちょっと行くところがありますが」

「よい。アカリーヌが一緒なら聞いておろう。王女様からお聞きいたしたが、なんとか目の涙とかいうのは探せないのか」

「そうか、王女様に連絡してなかった」

(そうだね。まだ証拠集めの途中だから)

 キャリロン王女には知らせてなかったらしい。

「そのいい方は、見つかったんじゃな。アカリーヌにも教えよう。隠し事を喋る水がある噂じゃ。それゆえ、裁判のときは偽りない事実が分かるはずじゃ」

 一緒に仕事をする仲間として、アーホカとアカリーヌを信じたい思いだろう。

「あの。王女様。すぐそこにありますので、ご安心くださいませ」

「アカリーヌが知っているのじゃな。あっ、そうじゃ。竜の涙であるか」

「ちょっと違いますが、はい。ただ、魔女様に許可をいただきませんと」

「聖女様を折り返しお連れする。魔女様へ連絡いたせ」

 ここでニーバンは確かめたいこともあるらしい。

「大地の雫について、なにかお聞きしてますか」

「オンセンとかいってた。酸性湯らしいぞ。フンヌウ商会が取り扱っておるという話じゃ」

「ハーマベ王国か。サナエなら、すぐに見つけてくれる。その正体を確かめるつもりだ」

「使用説明書があれば助かる。アーホカは見てないというからな」

(竜の涙にもないけどさー。少なくとも長年使っているし、一回使って変だと感じたら使わないから、肌トラブルは縁がない)

 オリエと姉妹のやりとりが、普通の水を使う予定だったと思わせる。わざと肌トラブルを起こさせたという疑念がつきまとってきた。


 日が傾き影も伸びるころ、応接間で聖女と魔女は対面した。西日の射す畳座敷だが、日暮らしがどこかで鳴いている。

「アカリーヌの頼みなら持っていきなされ。だがな」

 王国のことでは魔女は苦言もていしたいらしい。

「王子様のやり用は度をこしている。許可なく森を荒らしておる」

「口でいっては聞かないお方だから。いまも、王子様の裁判には疑問がありましてな」

 聖女は権力をもたないが、天のお告げとして、魔女と対等に渡り合える教養と知恵を持っていた。王国内の魔法使いといわれているが、魔王エーアイの技術を応用している。それは魔女も同じで、カガクという魔法を悪用しているのが、エーアイ信仰者たちだ。


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