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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
6章・美容対決で企むもの
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温泉だー、竜の涙の使いかた

 アカリーヌは施術に自信を持ったが、アーホカも二番煎じの方法を取った。なにやら大きな壺を運搬業者に運ばせて来る。

「着いたな。コーセンスイ大地の雫だ。竜の涙より効果がある」

「施術の違いよ。それに食事が大切なの」

 化粧水だけでは変わらないと気づいても来た。肌によってちがうし、生活改善が一番良い。

 アーホカは別の思惑があるらしい。

「投資の話を断ったようだね。仲間じゃないなら、本気でいくわよ」

「同じコーセンスイなら、蝶が舞う妖精の指に勝てないでしょ」

「大地の雫は、酸性湯という熱い泉の水だ。湯につかると病気も治すと評判だが、知るまい田舎者は」

 温泉地から持ってきたらしい。ここで、化粧水の勝負できた。

「熱い泉。ちょっとした窪みでしょ」

「田舎だからねー、フーモトは。温泉といって風呂みたいな岩場がある。肌にも良いと人気の場所だ」

「へえー。お風呂。そうか」

 考えれば竜の涙も溜めればお風呂になりそうだ。

「温泉を利用した全身美容の時代だ。王子様もお味方で、大地の雫を手に入れてくれた」

「王子様が。フンヌウ商会と関係あるのね」

 正直にいってしまう。

「当然だわ。魔王エーアイ様の科学力を思い知るといい」

「魔女様に負けたんでしょ。うん。温泉ってものは興味あるけど」

「だから田舎者は。大地の雫は、すぐに効果があらわれる奇跡の水だ」

「肌がすぐに変わるのは病気じゃないの」

「見ればわかる。酸性湯の成分を取り入れた特注ものだ」

 すごいのを手に入れたらしい。竜の涙はアルカリ鉱泉水だから、違いがあるのだろうか。


 3回目の美容対決が始まった。今回は浴衣着の二人。コマチが農園だったし、庶民の中で地位がある家。ジェーンという、薬屋の娘。店頭で店番をしているようだ。

「コマチから聞いてるのよ。マッサージが上手いって」

「ありがとうございます。あれですか、へちまの水も扱っていらっしゃる」

「そうなの。化粧水にも使えるとはね。私はつかえないけど」

「というと。なにか肌に」

 やはり肌に関するのがテーマらしい。アーホカは知っていて、大地の雫を準備したのだろう。肌のトラブルに原因は多くもない。

「化粧品とかは駄目なの。カメリアオイルを使うぐらい。高いけどいいのよ」

「それならツバキオイルがありますから。女優のエマ様もお使いですのよ」

「あのかたが。ファンで、演劇は観に行くわね。綺麗で化粧とかも憧れるけど。塗ったくるのは顔が痒くなるし」

 敏感肌らしい。これでアルカリ鉱泉水はどうだろうか。あまり刺激はしないのが無難だ。マームに合図する。

「普通の水を準備してくれないかしら。ぬるくていいから」

「かしこまりました。果物はどうでしょう」

 マームが提案してくれる。アカリーヌは準備している間に食べ物をアドバイスすることになる。

「青果コーナーから、試食品を貰ってますのよ。ご自由に」

「あまり好きじゃないし。コマチには悪いけどねー」

 ちょっと悪戯っぽく笑う。偏食だし、肌に良いわけがないと思う。

「酒とかは肌を乾燥させるらしいけど」

「あれはねー。店番をしながらコーヒーは何回も飲んでるわ」

 カフェインも原因らしい。

「麦茶がいいらしいですよ。食べ物で肌も変わりますから」

 話しながらも、マームの準備したぬるま湯へタオルを浸した。


 蝶の舞う妖精の指は敏感肌を刺激しないようだ。施術を終えるとジェーンも興味を持つ。

「私も柔らかくしてるけど。すごいよ。どうするの」

「指の関節ですね。指と言うより手首と腕も使って、肌へ軽く触れる」

「そうだ」ジェーンが真似てみて驚く。

「ちょっと固くかんじるんじゃない」

「こうか。マッサージも奥がふかいよね」

 いつも注意深くマッサージしているらしく、指使いが上手い。

「リン波念力は少しづつ続ければいいから。肌に負担もかけないし」

 魔女から教えられた奥義は、素人にもできると気づいた。


 アーホカのほうも終わったようだ。

「見るといい。ピーリング効果で赤ちゃん肌みたいになる」

「これはっ。そんなに」

 赤ちゃん肌は言いすぎだと思うが、ゲストの肌が一皮むけた感じ。ゲストがしきりに頬骨あたりを掻いてはいた。

「敏感肌になー。ピーリングでいいんかー」

 ハルナが心配というより、なにかを引き出そうとしたらしい。アーホカも自慢したいようだ。

「魔王エーアイ様の魔法で、刺激軽減剤を配合している。敏感肌の準備はしてなかっただろうアカリーヌ」

「魔女の奥義は万能だからね。化粧水や化粧品に頼らなくても大丈夫なの」

 竜の涙は使わなかったし、温泉というのがキーワードになって来た。

 マームが話したように、コーセンスイは別の使い方があったのだ。それを気にしていた。


    ・


 流れ続ける水音が響く。

 アカリーヌはフーモト家の屋敷へ戻ると湧水の場所へ来ていた。竜の目の涙がある岩の途中から地下水が溢れて短い滝になる。パイプが各地の井戸につながれて、地域の飲料水などとして使われていた。

 しかし、竜の涙は滝より地面に近い腰あたりの場所。角ばった岩の窪みで水面が波打つように溢れる。地下水と合流して、岩肌から地面に水路をつくり流れる。

「柄杓で汲むしかないけど」

 木造りの浴槽は運んできたが、岩を割るのも大変だろう。

「お姉ちゃん、オンセンというのをみたことあるのか?」

 ダニエルが問うのも無理はない。アーホカから詳しく聞けばよかったのか。それでも、教えそうにはなかったし、何とかなると考えていた。

「人気はあるらしいけど。浴槽へ入るたびに入れ替えるのかなー」

 家族ならともかく、他人が入った風呂に入りたくはない。マームが思い起こすように言う。

「岩の泉とおっしゃてましたから。そのまま流れて行くと。竜の涙の窪みが広がってるようなものでございましょう」

「そうだね。あれが、こう流れてくれたら」

 波打つ場所から滝みたいに流れてくれたらと思う。


 川から畑へ水を吸い上げるポンプも思いついたが、人が動かすのは柄杓と同じ。

「お嬢ちゃん」

 やけに親しく声かけたのは市場の現場監督、ミテルシ。同級生で馴れ馴れしいが、丁寧に話すようには努力している。

「なにをなさってますか。市場は一段落ついたとこでございます」

「竜の涙をね、お風呂みたいに使いたいの。でも浴槽へ移すのが大変みたい」

「ポンプは使えると思いますが」

 ちょっと考えるように上を向くが、笑顔になる。滝に設置されたパイプに気付いたらしい。

「これはあれですよ。ほら、こうして」

 指で水面から緩いカーブを描いて浴槽へ持ってくる。

「ラッパ状ので水を集めれば。漏斗があるんじゃないか」

 使い道を考えたらしい。

「うまく行くかしら。うちにあったよね」

「母さんが使ってた。取ってくる」

 ダニエルは屋敷へ走る。油の樽から小さな竹瓶へ移すときに使ってたものだ。


 ダニエルを母のアリスも追いかけて来る。

「浴槽を運んだと思ったら。なにをしてるの」

「オンセン。竜の涙を風呂代わりに使いたいの」

 言いながらもダニエルから漏斗を受け取り、波打つ竜の涙の中へ入れる。狭い場所へ入ると流れも速くなる。

 噴き出す鉱泉水。

「うわわっ」

 顔にかかり避けるが、やった、と笑いが零れる。

「くっつけて置ける器具を作れば」

 それは良いとして、とアリス。

「ここでお風呂をするのアカリーヌ。みんなが通るわよ」

「そうだねー。小屋を作るとか」

 それにマームが提案する。温泉について一緒に聞いていた。

「岩のように、壁をなさいませ。オンセンは、そういうものと、子爵の子はおっしゃられた」

 ミテルシも乗り気だ。

「煉瓦で囲めば。うーん、どうでしょうか。皆で一緒に利用できるようにしてもらえば。もっとこうして」

 大きな浴槽。大衆浴場のイメージをつくっているようだ。名案と思う。

「そうだよ。みんなで使おう。流行ってるらしいし」

「オンセンだね」

 アリスが何か心当たりもあるらしい。

「婦人会の集まりで話してる人がいた。詳しく聞いてみるから。あとは任せて」

「知ってる人だとね。たすかる」

 自分ですべてやりたいが、そうもいかない。ここは専門家に任せたほうがいいだろう。

(母も賛成してるし。オンセンってのが流行ればねー)

 竜の涙の宣伝にもなる。全身美容へ一歩近づいた気がした。


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