ソフィーとの取引き
音沙汰がないと思ったら市場へソフィーが4人の女性を連れて来た。まえと同じような服だし、制服のようなものらしい。
「些細な幼い勝負ごとで、勝ったとお思いなのね。良いですけど。美容術で真の勝負は外にあるということをご存知かしら?」
(素直に祝えないなら言うなって。なんでまた)
ダニエルから定期的に来るとは聞いていた。わざわざ会いに来る意味がわからない。
「わたしも、始めたばかりですし。きょうは仕事のお仲間ですか」
「あら、わたくしの美容術の教え子たちですのよ。ええと、蝶の何とかという奥義も、後世に伝えなければ消えてしまうでしょうね」
(施術しながら教えてはいるが、自分自身でやる方法だし、施術のやりかたまでは上手く説明できないけど)
「なるほどね。伝える、教えるべきということね」
「あら、なかなか物分かりはよろしいようですわね。その奥義の秘密と引き換えに、手を貸して差し上げてもよろしくてよ」
(なるほど。蝶が舞う妖精の指の方法を知りたいのかしら。粘土美容に興味もあるし、聞いてみよう)
「指を動かすということですね。こう、軽く触れるには、力も必要だと」
魔女に教わったように、自分の腕を摩ってみせる。
「おやまあ、そのやり方ですね。存じておりますから。しかし、その程度の水準で満足なさるとは、少々意外ですのよ。まあ、素人のレベルとしては上出来と言えましょう。褒めてあげてもよろしくてよ」
(なんだ、知ってるのか。ま、ここは持ちあげて置こう)
「ありがとうございます。それで粘土美容って、泥をパックみたいに塗るとか」
「愚かなお考え、あっ、ご免なさいな。まあ、どうしても知りたいというのならば、このワタクシが教えてさしあげますわ」
連れに、持っている袋から何かを出すように指示する。
(準備してるじゃん。教えたくてたまらないって感じだよね。アーホカとは別の意味で、自慢したがり屋なんだー)
思いながら見ていると、ソフィーは鶏の羽と、粘土の入った箱を手にした。教え子の腕で試すように施術する。
なるほど。ファンデーションみたいな使い方だが、鶏の羽で柔らかくマッサージするように動かす。
(勘単に肌へ軽く触れられるんだ。うん、大地の恵みにわるいのは無いって魔女様もお話されていたし)
塗ったくるパックとは違うやりかただ。
「流行る化粧品は軽薄短小ですのよ。ふむ、よろしいでしょう。施術には何が必要か、素人のために、このワタクシが教えて差し上げましょう。ちゃんとお聞きなさいな」
(喋りたいんだよ。まえから、何かを教えたがってたし)
「ソフィー先生からご教授いただければ、さいわいです」
「まあ、その奥ゆかしさは認めましょう。嫌いではありませんよ」
やはり、店を構えるのが大切だと話すソフィー。こじんまりした待合室でお茶を飲み、ファッション雑誌を読みながら順番を待つ。この雰囲気だけでもお客様はお気に入りにするらしい。
「教え子たちには、些細な部分でも褒めてやることですわ。やって見せて言って聞かせるのはお判りでしょうけどねー」
「はい。褒めるのですか。やはり、一方通行でしたね」
(確かに、リン波念力をおくる方法を言うだけだったからね。それで、ちゃんと教える場所として店が必要なんだ)
「反省とは殊勝ですわね。好ましい心がけでしょう。仕事を信頼して任せるまでが師範としての勤めですのよ。師範の役目まで、あなたに望みはしませんけど」
(望まないなら、教えないでしょ。自慢したいだけかしら)
「はい。やはり店でじっくり施術をすることですか」
「おわかりかしら。それからが美容術の勝負ですのよ。お客様に選ばれるようにがんばりなさいな。それでこそ、ワタクシのライバルとして認めてさしあげてもよろしくてよ」
「はい。そうですか。美容術というか、店の対決だと」
「物分かりがよろしいですわ。勝敗を決めるのはお客様。商店街の美容コーナーは遊びですのよ」
(美容術の勝負は外にあるとは、そういうことか)
「いまは修業中ですので、いつの日か」
「お忘れになったかしら。お手伝いできましてよ」
(なんだ! なにかをお願いしたいなら言えば良いのにね。もしかして、場所を貸してあげるとか。いやいや、いまは美容術対決をしてるし。そうだ、空いている)
「美容コーナーで。空いてるところもあるから。よろしかったら、先生の教え子へリン波念力をお伝えさせていただけるかもです」
「ぜひにと頼まれたら、ワタクシも大らかですのよ」
(なるほどね。わるくいえば、技を盗む。ま、美容術はお互いに良いとこどりで良いと思う)
粘土美容からは、店舗展開と社員教育が学べるということらしい。
ソフィーとしても、アンテナショップとして美容コーナーは続けたかったはず。これはお互い、今すぐに役立つ有益な取引になった。




