初めての勝利
オイリー肌に有効なのは何か。椿油でもいいが、もっとさっぱりとしたのがいい。オイルのほかに保湿作用の有るもの。
「乳液。いや、美容液。保湿かー。そうかヘチマ水」
しかし値段が高いらしいし、いまさら、ちょうだいといえない。ハルナが提案する。
「野菜コーナーが置いてくれはる果物とかは、肌にえーでー」
「経皮吸収より食べた方がいいよね。オイリー肌も良くなるかしら」
「すぐにはなー。五日間の勝負でっしゃろー」
効果がすぐに表れるわけもない。
「サナエ様には果物を勧めるとして、猪は豚肉と同じで、案外肌にも良いらしいよね」
それは物知りの母に聞いた。
「サナエさまはなー。やはり酒のせいやろう。それに、なにか忙しそうやしなー」
話しているところへコマチが籠をさげてやってきた。
「アボカドの栽培に成功しました。いま野菜コーナーへ卸したところ」
それで、宣伝のつもりも有るらしい。
「おつきあいの印。食べてちょうだい」
「おめでとう、ありがとう。アボカドといえば」
アーホカが高価な輸入品といって使っていた。
「国内でも作られよるんやねー」
ハルナも感心したようにうなづく。それより、とコマチ。
「夏風邪が流行るの? 咳止めのヘチマ水が、あっちに」
アーホカのところへ目をむけて気づいたらしい。
「化粧水ですよ。値段は高いらしい」
「原液は安いのよ。ただ同然。うちで作ってるから」
「作れるの。企業秘密って」
「そりゃーねー、化粧水とか薬には、ほかの成分も入れてるはずだから」
「そのままでは使えないとか」
「うちの卸してる老人施設では、そのまま痰を切るのに使ってた。ふーん。化粧水としても使える」
なにか考えるふうだ。
「そうらしい。仕入れできるかしら、いますぐ」
「アカリーヌ様の頼みなら。美容術対決に関係してるのかしら」
「オイリー肌は、さっぱりと仕上げたいからね」
ハルナも便乗する。
「こっちにも頼んますなー。卸は多い方がよろしいやろー」
「おおきに。樽ごと持ってくるね。割引して20マニーで」
樽で2千円なら、ほんとただ同然。ま、竜の涙が、たたの湧水だし、これが商売だろう。
・
ヘチマの水に警戒したのはアーホカ。
「どうせ安物でしょう。美容には値段が高くて良いものを使う心理効果もあるのよ」
「それなら、秘伝の、蝶が舞う妖精の指がありますから」
アカリーヌは良い施術が美粧用品よりも、相手を満足させると考える。
対決が始まると、まずはアボカドをサナエへ渡して、食生活のバランスを話す。母から教えてもらったことが半分ではある。
王女は、それに反応する。
「食事が美容に良いということじゃな。アボカドも国産で採れる。良いことじゃ」
当たり前のように、一個を手にした。試食用に置いてあるからかまわない。
「経皮吸収より、いいでなー」
ハルナが口を挟む。アーホカは自分のやり方に自信もあるらしく、横に首を振る。
「コラーゲンを吸収させてぷりぷり肌にできるオイルは高いぞ。手に入らんだろう」
イザベルが首を傾げる。
「コラーゲンは肌から吸収できないはず。オイルとして使ってるわけではないのか」
「魔王エーアイの情報は確かだ。紫外線対策も為されてる」
アーホカは神話時代のインターネットについて言っているようだ。シラベルがちょっと笑ってからいう。
「情報には間違いも多い。コラーゲンの分子は経皮吸収されないし、食べた方が効果もある」
「猪はどうかな」
サナエが気になるようにきく。イザベルが、過ぎたるは及ばざることなり、という。
「よい食材だが、食べすぎると太る」
「それはいやだな」
美容術のながれは、いっきに食生活へと意識が変化した。アカリーヌは料理の経験が少ない。
「果実や肉など、提案できるようにがんばらなきゃ」
それにアーホカも対抗意識をもやす。
「すでに私が果物を提供しているからね。どうやらアカリーヌは、ヘチマ水もなんでも、二番煎じだな」
「バランスでしょ、たぶん。2番でいいわよ、お客様が綺麗になれば」
「先駆けするのが栄誉を得る。この勝負も私が勝つ。隠し技があるけど、教えないからね」
「いいもんね。あれこれ肌をいじるのは美容として逆効果だから」
ビンタ美容術は仕上がりのかたちで評価されたし、コラーゲンの正体がわかっても、油断はできない。オイリー肌なのは相手も知っているだろう。オイルは控えめだ。
最終日にアーホカの秘密アイテムは現れた。
「パウダーファンデーションかー。いいの?」
イザベルの方をうかがうと、シラベルと顔を合せてうなづきあう。
「持ち歩いてるんやが、使うか」
サナエはいうが、施術者が塗らないとまずいだろうし、経験がない。王女のようすを見ると、腕を組んだまま見守っていた。
(どうだろう。正直なかただから、なにか満足はしてないかも)
「とりあえず、あとから。いまはこれで勝負よ」
勝負に勝って千マニーは欲しいが、肌の刺激を最小限に抑える方針は曲げたくない。
やがて検査が始まる。シラベルは眼鏡をかけなおして、アーホカのゲストを調べた。
「綺麗に整ってる。化粧は上手そうだ」
「常識よ」
アーホカが得意げに笑顔でこたえるが、続けるシラベル。
「しかし、蛇足だな。イザベルどう思う」
「今回のテーマはオイリー肌へのアプローチだ。見栄えを良くする作戦だな。比べてオイリー肌の改善を食生活で変えるのはゲストの協力も必要だ」
王女へ意見をうかがうように顔を向けた。
「施術も妖精の指として進歩した。今回はアカリーヌの勝ちじゃ」
拳を握りガッツポーズのアカリーヌ。
「猪を食ってもいいんやな」
サナエが握手を求める。
「酒は控えた方が」
「酒量は減らそうやんか。これから祝杯だワインを一緒に」
「ワインはちょっと。そうだ甘いのを食べにいきましょう」
誘うからには、なにか話もあるのだろうと考えた。
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商店街の奥にはスイーツパーラーがあった。甘いのを食べすぎるのは好ましくないが、たまにしか食べられない贅沢品だ。
「ニーバンがな、来るはずや。あれで恥ずかしがりややんか」
「恥ずかりやですかー。そうなんだ」
どこまで親しいか、再び疑問も湧くが、いまは祝いの席だ。
「もう歩けるはずやが、トラウマになるやろうなー」
「あの。蹴った場所も聞いたと」
「女に話さなくてもいいのを喋る。デリカシーがないんかね。蹴飛ばされて当然や」
「女王様もおった、おっしゃってました」
すくなくとも親しいらしい二人の女性の意見は一致している。
そこへ来たのが王子。なんの用事だと、同時に顔を向けた。
「アカリーヌ。勝利したな。早速だが賞金をフンヌウ商会へ投資しないか」
「難しいことは、ご遠慮もうす、します」
なぞの天守閣をみてから、あまり信じてはいない。ただ、サナエが目配せしてから喋る。
「面白いやんか。詳しく知りたいんやが」
たぶん王子が金をどのように使うか知りたいのだろう。
「公爵や伯爵にも持ち掛けてるが、遠慮してる。いまが金儲けのチャンスだぞ」
10万円相当の千マニーをフンヌウ商会へ預けるということらしい。それで利益分から配当金が得られる。
「会社の利益から月に一回で配当金が貰えるぞ。金が金を生む時代じゃ」
会社が借りるなら回収も安心だろう、金貸しよりは安全そうだ。
「どのくらいでございましょうか」
「フンヌウ商会は支店もあるでな。全体で利益が出るのは約束できる。投資額に応じて配分されるのじゃ。アーホカは月に千マニーを受け取っておる」
「元金が戻り。うん」
話している途中でニーバンが近づくのも見えた。きょうは貴族の服だ。王子よりニーバンに会いたかった。
「ニーバン。もう大丈夫なの。あの、あっちは」
王子は振り返り、気まずそうな表情だが、ニーバンが、話は聞こえたように言う。
「大丈夫だよ。それより王子様、景気の良い話だが、千マニーでいくら貰える。アーホカはかなり投資してるらしい」
「そうだね。あの方は施術料も高いし、長くしているから」
アカリーヌも、千マニーがひと月に取り戻せるのは現実的ではないと感じだした。
サナエが、蜂蜜ドーナツは美味しいやんか、と一口食べる。ここで第三者になりたいようすだ。他国にも行って、詳しいニーバンへ任せたいのだろう。
「投資した人数で配分されるのじゃ。月によって変わることもあろう」
王子は金額を言いたくないらしい。ニーバンが知っている言い方。
「フンヌウ商会は、一万マニーの株主も多い。さて、ハーマベ王国では千マニーなら10マニーぐらいだと聞いた」
「この商店街も本契約すれば売り上げはあがろう。そうすれば利益も上がるのじゃ。だからテナント料が必要なのじゃ」
それは王女と意見が合わないところ。本契約で変わるのだろう。
「庶民には10マニーも大金だけど。本契約のテナント料はいくら」
「高くはないぞ」
王子は話すところへ声がかかる。王女だ。
「捜してたぞ王子。オリコオ第二王子は聞きたいことがあるらしいでな」
「経済じゃな。金儲けに関心を持ち始めた。歓迎じゃ」
連れだって王城へ戻る二人。サナエがさっそく話す。
「ニーバン。人数は分かったんか」
「流刑地へ運搬される食料を調べたが、かなりいる。ただ、女性用の、あれだ。服とかも。粉ミルクが入っていたな」
「赤ちゃん。女が多いと。収容されてるのは男が多いと聞いたけど」
ひとつの集落を形成しているようだ。ちょっと流刑地の意味が違ってきた気もする。
「あれやな。王子様は新天地を作るつもりや」
「良い形で作るならいいが」
ニーバンは、王子の悪だくみがイケスカナイ王国の再建なら、平穏には始められないと考えているらしい。
「武力を行使する騎士の数やな」
「ボンクラ子爵を味方につけるかもしれん。やけに贅沢しているし、王子から金を貰っていると話していた」
フーモト地方の隣だ。本当に他人ごとではない。根回しもしているオーボチャマ王子。王様になる身分でなぜ、急ぐのだろうか。




