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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
5章・台風は後から大変
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初めてのデート

 美容コーナーを再開した。なによりデートが楽しみだ。

(彼氏のことを思うと、手につかないというけどねー)

 いつもより燥いでしまうのに気づいてもいた。アーホカの挑発も気にしない。


 3時の鐘が鳴った。聖女が本丸の聖堂で時間を測っているのだ。ゼンマイ式なら電気が無くても動く。ちょとしてから送迎を頼んでいるダニエルが来た。

「きょうは、用事があるから。6時までは家へ帰ると母に伝えて」

「承知しました。少し買い物をしてから」

 話しぶりから、ハルナを意識していると分かる。もう放っておこう。

「片付けをなさってるから、邪魔しないのよ」

「かまへんよ。なにを買わはる?」

 さっそくお喋り相手と決めたらしいハルナ。


 そろそろか、と駐馬車場をうかがえば、ニーバンが男性用貴族の服で来た。

 「お待たせ」

  正式なデートだと思うと、緊張もする。

「片付けも終わったところ。茶店ですか」

「商店街の外れに良いところがある」

 お喋りをするだけなら、ロリコン子爵の影におびえることもないだろう。それでも、ここは王女様の美容コーナー。

「ニーバン」声をかけたのがキャリロン王女。

「どうじゃ、商店街の管理を任せたいのじゃが、決心はついたか」

「そういうのは肩がこる」

 どうやら、肩がこる、は口癖らしい。

「いつまでニートでいるつもりじゃ。無職では嫁ももらえないであろう」

「ご心配におよばない」

 ニーバンは話を切り上げたい様子。

 キャリロン王女はアカリーヌへ話しかけた。

「こういう男じゃ。女の扱いも面倒くさがる。蹴飛ばして正解じゃ」

「いや、あれは弾みでございます」

「よいよい。おやつでも食べにいくのか。わたしが良いところへ案内しよう」

 デートの邪魔をするつもりか。さすがにニーバンも慌てる。

「キャリロン王女。日を改めてサナエも一緒に行きましょう」

 ここでサナエが出て来るのか、ニーバンを睨んでしまう。

「たまにお会いになりられ、なられるのですか」

「同期だからな。話しただろ、親の決めた許嫁関係がこんがらがっていると」

 キャリロン王女を前にして秘密でもないように話す。

「そうじゃな。サナエとは一緒にならぬのか」

「いまは、忙しいんで」

「何をじゃ。秘密の多い男じゃな。まずは仕事をすることじゃ」

「いざとなれば、公爵家子爵でのんびりしますよ」

 子爵でも、公爵家だと伯爵と肩を並べる権力はある。スローライフとはならないはず。

(それより、サナエ様と一緒になる話を誤魔化してるよね)

 まえにも、はっきり関係ないとは言わなかったのを思いだす。かといって、竜の目の涙を飲んだときは正直な思いだったはず。いつか問いたださないといけないと思いながらも、これからのデートへ期待もする。

「時間もないですし」

 口を挟むと、キャリロン王女は、そうじゃったな、とドレスを翻して歩き去った。


 茶店は洒落た造りの一軒家。テラスで向かい合って座る。いつもの騎士とマームは隣りの席で待機するように座った。

「どれがいいかな。決めてから店員を呼ぼう」

「私はフルーティー茶がいい」

「詳しいな。おれは玉露で」

「ぎょくろ。そういうのも有るんだ」

「お茶には種類が多い。わかるか」

「グリーンティーとか」答えを待たず喋りだしたニーバン。

「チャノキだけじゃないが、やはりジャポネ文化だと玉露だな」

 紅茶でも種類はあるらしい。さすがあっちこっち旅をするニーバン。フルーティー茶は紅茶の一種だが、華やかな甘さが香りにも漂い、微かな渋みはお菓子に合う。

「注文から」

 店員が見ているのに気づいて、お喋りを止める。マームたちは、とっくに注文したらしい。


 話のつながりで、植物で作る薬草など、難しいこともいうニーバンだが、それじゃなくて、と話す。

「アカリーヌのしている、美容にも良いらしい」

「果物とかビタミンが豊富で肌に良いときいてるけど。なるほど」

「あれだ。ちょっとロマンチックじゃないか」

 ちょっと照れるように頭をかく。王城に集う若い貴族の真似をしたいようだ。

「私もね。気の利いたお喋りはできないし」

 ここは趣味や好きなことをお喋りするのが肩も凝らないだろう。

「ほかの国は珍しいのもあるんだね」

「祭りとか、面白く楽しいのがある」

 楽器を鳴らしたり踊ったり、いつかは観てみたい気持ちにさせるし、フーモト地方でもやってみたくなった。


 もしかしてイチャイチャラブラブできるかもしれないと考えた。

(ニーバンとなら大丈夫だよね。もっと触れ合いたい)

 いまは男性への拒絶反応も起こらない。

(これから上手くリードして欲しい。ほかの令嬢たちから聞かされた、甘い体験ができるはず)


    ・


 連れだって来たのは雀の森公園。木立が並ぶ舗道で場所を停めた。

「休憩しよう。ゆっくり話したかった」

 ニーバンが言う。アカリーヌはうなづいて降りた。休憩小屋が並んでいるが、使ってない印で、入口の木戸が開いていた。

「賑やかだね、雀たちが」

 はしゃぎながら辺りを見回す。これから何が始まるか分かっていたし、期待と不安で鼓動は強く打ち出す。近くの小屋はドアが開け放たれて、使い終わったのか掃除をしているらしい。いつも清潔なのは聞いていた。


 マームと騎士が馬車を横付けして、長椅子で待機する。

「鳥たちも歓迎してるのさ。行こうか」

 ニーバンは休憩小屋のドアを開ける。丸太で造られた小屋は薄暗いが、丸太の間から日が差して目がなれてくる。四畳半にベッドが置かれた簡単な場所。雀のほかにも鳥が寄り付き、森の中で演奏会でもしているようだ。

(目的は、それしかないってことよね)

 休憩と言うのは建前で、簡易のラブホテルみたいなものだ。

「座って。アカリーヌのすべてをみたいんだ」

「ニーバン。あまり知らなくて」

 隣に座った。大丈夫、いまのところは。知り合いの令嬢たちから、どうするのか聞かされてはいた。

(キスとかするんだよね。そして、あっちこっち)

 ニーバンの手は細やかで、体格に似合わず柔らかく触れて来る。

「素敵だよ、アカリ」

「バン。好き、教えて」

 彼へ身体を委ねたくなる。衣擦れの音は、鳥たちのさえずりに紛れるが、耳から媚薬みたいに注がれる。


 アカリーヌは仰向けのまま、ニーバンが足元でイチジクの葉も取り去り覆い被さる。

(いよいよだあー。どうしよう)

 そのとき封印が溶けた。


 アカリーヌは馬車の狭い席で仰向けにされていた。ロリコン子爵の垂れ目と口元のよだれ。

(あの時。もっとイヤらしいことを)

 指や肌の生ぬるい感触が蘇る。

「やだ」

 膝を曲げた。なにか柔らかいものが膝小僧に当たり、押しつぶした。

 ニーバンが仰け反り、向こう側へ倒れた。

「あらっ。膝が当たっちゃった」

 身体を起こしてニーバンを見た。かなり痛いのか、腰を曲げて何かを堪えているようす。

「あら、ごめんなさい」

 ニーバンは答える余裕はないようにうずくまる。

 (どうしたんだろう、急に腹痛かしら)

 ここはマームにきいてみようと考えた。ドレスで胸だけを覆い、ドアを開ける。

「マーム。また蹴飛ばしちゃった。ニーバンのようすがおかしいよ」

「股を蹴飛ばしたとな」

 騎士が慌てて部屋へ駆け込む。マームもすぐ後からついてくる。

「ううっ。だいじょうぶ」

 切なそうな声だが強がるニーバン。騎士が腰あたりを叩いて快方しているらしい。

「お嬢様はドレスをおしめなさい。大丈夫ですよ」

 マームが言うとニーバンへ何か話しかけた。

「あの。なにが有ったの」

「外でまちましょう。大丈夫、男のあれですから」

 マームに急かされて、外のベンチへ向かった。


 男性の身体には敏感な場所があるらしい。

「膝を曲げたのですねお嬢様。もろに当てたと」

「当てたわけじゃないもん」

「そうでしょうね。でも、これで男性恐怖症は消えてるはずですね」

「でも、思いだしちゃった」

「原因が分かるから乗り越えられるのでしょう。男はみんな違いますからね」

「そうだね、ニーバンなら。びっくりしたけど、初めてだし」

「あとはニーバン様のお考えしだいです」

「ちゃんと謝らなければ」

「ロリコン子爵のことも話されたらいいですよ。思いだすのはつらいでしょうけど」

「そうだね、そこから話さなければ分かってくれないか」

 イチャイチャラブラブは未だだけれど、通じ合った愛があると確信した。それなら些細なことでも共有しようと考えた。


 物音がしてニーバンと騎士が出てきた。腰をかがめて何かを我慢しながらもニーバンはアカリーヌの隣へ座る。

「まだ未熟で、女心を知らなかった。俺の頬をぶってくれ」

「ちがうの。私こそ、話すことがあったのに言えなくて。私の頬をぶってちょうだい」

 お互いを相手の頬へ手を添えた。

「言葉に嘘はない。王子の野望を暴くまではサナエの協力も必要なのだ」

「信じます。私にできることがあるなら言ってちょうだい」

「そばにいてくれるだけで良い。危ないことになるかもしれない」

「大丈夫よ。蹴飛ばすから」

「元気のある方だ。美容術とかいうのも応援するから」

 公爵家と男爵家の関係が知らずに結びついた瞬間だ。


 王子の野望は現実になるのか。美容術対決が2回戦へ入るし、賞金の動きへ何かを仕掛けてくるはず。


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